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シモン中央学園の問題児達は斯く語りき  作者: 糸又 字四
「自己を厭い続ける」
31/41

もう一人

――――シモン中央学園・廊下/昼――――


ジキルとマキナに下らない御高説を垂れた翌日、授業が終わって生徒達と仲良く戦っている時に、少しばかり変化があったことに気づけた。


「あぁクッソ!なんで死角からの一撃を察知できるんですかねぇ橘先生は!」


一つ目は、ジキルが吹っ切れたような表情をするようになったこと。


「目標補足、拘束魔術に切り替え」


二つ目は、マキナの鉄面皮が少し柔らかくなったこと。


「っと、流石に腕が上がってきたか」


その二つは、はたして良い効果であるのかはわからない。だが、少なくとも悩んでいるような表情や悲しそうな顔は、あの日以来見ていない。

結局、僕はなんの問題も解決できなかったわけだ。


「⋯⋯それはそうと随分と腕上がっていやしないかなぁ!?」


雨霰の如く降り注ぎ視界を埋め尽くす魔術を、五行魔術で作った塹壕で回避する。

着弾する度に大きな音が鳴り響く、修理も魔術練習の一部にしたからいいとはいえ、流石にこんな量を一斉に食らったら入院するのは避けられない。

流石に入院は嫌なので、というか医療班責任者のクリミア・フローレンス先生に会いたくないので、どうにか生徒を倒さなければいけないのだが⋯⋯一ヶ月くらいとはいえここまで成長するのか?


なんと末恐ろしい成長具合、その速度は筍の如し。


「⋯⋯逃げるか、顔出したら危ないし」


五行魔術で階下に繋がる穴を掘りつつ、近くの土にルーンを刻みゴーレムを作る。

そしてゴーレムを教室の扉に向けて、()()()使()()()()()()()()


生徒では認識すらままならないほどの速度で加速したゴーレムは扉を吹き飛ばし、そのまま駆け足で去っていく音を響かせる。


「逃げた!橘先生逃げたわ!」


「把握、追跡する」


カリスタを筆頭に、その囮につられて教室から駆け出していく生徒達。当然その隙を逃すわけもなく、階下にぶち開けた穴に飛び降り、着地と同時に穴を閉じる。

階下は埃っぽい倉庫であり人っ子一人いない、僕はそこでようやく一息つけた。


「⋯⋯そもそも正面戦闘は得意じゃないんだけどなぁ」


暗殺者の頃は狙撃で仕事をしていた。

対大型生物狩猟用の巨大クロスボウによる遠距離狙撃を最も得意とするのに、如何せんそれが封じられているのは大変面倒臭い。

昔大八洲で習った武術が体に染み付いているのは幸いだ、案外抜けないもんである。


あと手加減しなきゃいけないのも面倒臭い、殺しても良い暗殺と違って大変面倒臭い。

加減がわからないというわけじゃないが、怪我をさせたり問題になったら推薦状を出したセフィラの立場も悪くなるだろう。

それだけは避けたいことだ。


「そうなんですか、その割には今までずっと負けてなぁっ!?」


ふと、後ろから青年の声が聞こえ、その話者は僕に話しかけてきた。

僕は思わず反射的に回し蹴りを繰り出してしまい、その蹴りは的確に彼の脇腹、ジキルの腹部に突き刺さってしまった。


「⋯⋯あ、いや、ごめん、素で間違えた、マジでごめん」


「おぉぉぉお⋯⋯なぜ連日腹を蹴られるんだぁ⋯⋯⋯!」


いや、だっていきなり話しかけてくるんだもの。大八洲人なら反射で体が動く。

しかしこれは丁度良いタイミングだ。この場は誰も見ていない倉庫であり、相手は用事のあったジキルというのは、非常に良いタイミングである。


「あぁ、まぁ、丁度いい、一応だがジキルにはこれを渡しておこう」


「つぅ⋯⋯えぇ、はい、なんですかこれ?」


腹部をさすりつつ起き上がるジキルに手渡したのは、とある電話番号だ。


「ジキルのようなどうにもない奴らの集団が世の中にはあって、奴らは|止まる事なき非現実的連続殺人事変アンリミテッド・アンリアルキラーと呼ぶんだけど、連中と連絡を取れば君にとっては良い事があるだろうし」


「⋯⋯その人達と一緒にいたら、どんなメリットがあるんですか?」


「一人で死ねなくなるし、無条件で味方ができる」


簡潔に言ってしまえば、それだけだ。

だが死後に骨を拾ってくれる相手がいるとは、とてつもなく嬉しいことだし、死後の責任を持ってくれる人がいるのは、この上ない不安の解消手段だろう。


連中は、奴らは、そういう奴だ。

殺人鬼という人殺しの鬼だというのに、誰よりも人間くさい連中。

自身の殺人衝動の罪悪感に耐えきれず自己嫌悪しながらも、一人で死ぬのを嫌がった連中だ。


「そんな人が、自分以外にもいるんですか?」


「残念ながらね、君みたいに悩みを抱えている人間がいるんだ、もしも君がまた罪を犯して、それで一緒に死んでくれる仲間が欲しいなら教えるよ。必要無いかもしれないけれど、一応ね」


「わかりました⋯⋯けど、一応言わせてもらいますと――――――






――――――まだ一人も殺してませんよ、自分もハイドも




「⋯⋯⋯⋯そっか」


その言葉を聞いた瞬間、ほんの一瞬思考が停止した。

時間にしては刹那だが、感覚にしては数時間ほどに誤認してしまうほどの衝撃。


まだ?

一人も?

殺していないと?

あのような殺意を滾らせておいて?

殺そうとはしていれど殺していないと?


脳裏に、ある言葉が過ぎる


『巷で噂の連続殺人事件について、ラプラス様ならどう思うのかなー?』


半ば適当に返答していたあの質問。

あの連続殺人事件は?

先輩のファンクラブで聞いた連続殺人事件の主犯は?

ファンクラブメンバーであるヴィルネー・ヤティヴァルグから聞いたあの殺人事件の犯人は?


巷で噂の、連続殺人事件の犯人がジキルでないというのならば、真犯人は?




その理論から導かれる結論、それは――――――






――――シモン中央学園・学園長室/深夜――――


「で、()()()()()()()()いると?」

止まる事なき非現(アンリミテッド・)実的連続殺人事変(アンリアルキラー)

あらゆる国家、地域に住み着いている殺人鬼集団。

自浄作用のように殺人を振りまく彼らが、一国に複数人居たとしてもおかしくないだろう。


「流儀無き殺人は害悪であり、信念無き殺害は有害である。ならば我々は流儀と信念を持って、誇り高く人を殺してみせよう!」

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