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シモン中央学園の問題児達は斯く語りき  作者: 糸又 字四
「自己を厭い続ける」
29/41

アイデンティを嫌う

――――シモン中央学園・特別寮/夕暮――――


ジキルを引きずりながら、校内の森林を数十数えた頃、それはようやく姿を表した。


アルビオン王国特有の建築様式かと思えば、其れは一部分だけであり、大部分は違法建築されたかのように乱立され拡張された建築物。

最下層は古式ゆかしい雰囲気だが、上層に建てられた違法乱立拡張建築がその雰囲気を完全に打ち消している。


寮というよりも、子供が思い浮かべるような秘密基地とでも呼ぼうか。


その光景に僕は少しばかり、いやかなりワクワクしていた。こんなに面白そうな建築物があったのかと思わされてしまうほどに子供心が刺激される光景だ。


「案内、ジキルに部屋はこっち」


「あ、そっちね、はいはい」


マキナに案内され、階段を登ったり下ったり、扉を開けたり下ったりと、右往左往した結果、ようやく行き着いたそこは変哲も無い部屋だった。


「到着、ここがジキルの部屋」


「案内どーも」


学生らしい部屋であり、窓からの消し技が綺麗であること以外はなんの異常もない。先程まで人を殺さんばかりの殺意を溢れ出すような人間だとは思えないほどに普通だ。


「さて、と⋯⋯」


どうせならジキルが気絶している今のうちに色々調べてしまおう。

カリスタやマキナのような突飛で目立つ()()()()()()()()()ならともかく、ジキルは()()()()()()()()()だ。

実際問題、彼は『突発性殺人衝動精神疾患』っており、人も殺さぬようなマトモさを持ちながらも殺人鬼である。


そう思いながら部屋を漁ってみるが、如何せん平凡そのものである。

強いて言うならば本が多いだろうか?図書館から心理学や精神医学などを本を借りている。

どのようなものを調べているのか、どこのページを頻繁に開いているのかと思いつつ開く。


適当に開くだけで、そのページが開かれるほどに頻繁に読んでいたページを。


「⋯⋯あー、当たったかぁ」


そうして、僕の『推測』を確実にする情報を目にしたところで、ジキルは困惑しつつ目を覚ました。


「ん⋯⋯え、あ、な、何これ、何が起きて⋯⋯あぁ、マキナと橘先生⋯⋯?」


「おはようさん、元の()()に戻ったみたいだね」


「⋯⋯⋯⋯あー、もうそこまでわかってましたか」


僕の発言に、諦めたような顔と発言をして大きくため息を付くジキル。

しかしマキナはいまだわかっていないようで、僕に質問を投げかけた。


「質問、人格というのはどういうコト?」


「あぁ、なんというかな、これは⋯⋯」


如何せん、精神医学は分野外だ。門外漢があれこれ語っていいのだろうか?そもそも情報は揃っているがあくまでも其れは推測だから、確証がない。


⋯⋯まだるっこしい、直接聞いてしまえ。


「ジキル、君は()()()()だろう?」


「⋯⋯まぁ、はい、診断は受けてないですけど」




()()()()


正式名称は『解離性同一性障害』と呼び、一つの体に2つ以上の人格があり、時々交代して表に出てくるという精神疾患の一つ。

魔術学会においては、それらは別々の人間であり精神、魔術適性すら異なるとされているが、元は一つの人格なため()()()()()同じものとされている。


それならば彼の魔術適正である『分割』と『結合』も納得である、『分割』というよりも『解離』というのが正しいだろうが。


「まぁそうですね、自分の中にはもう一人の人格の()()()がいます。どうやらハイドは殺人衝動を持っているみたいで⋯⋯まぁ、そういうことですよ」


やけに素直に、諦めたかのような顔と自虐するような声で、彼は自身の異常性を語った。


「まぁなんで殺したのかとかはわからないんですけど⋯⋯で、橘先生はどうしますか?警察に突き出しますか?」


「あぁいや、其れはどうでもいいし別に根治をするつもりはない、治すつもりもなければ正すつもりもない」


「はぁ?」


「質問、正気?」


「残念ながらね」


元暗殺者の教師に、どうして殺人鬼の罪悪を咎める事ができようか?

どちらも同じ人殺しであるというのに。


そもそも、殺人鬼の殺戮は善悪や正誤で図れるものではない。殺された方はたまったものじゃないが、彼らからすれば『何故殺したのか自分でもわからない』という結論らしい。

殺した当人ですらわからない不条理な殺意を、赤の他人が理由を探したって無駄だろう。


「⋯⋯じゃあ、何をしたいんですか?橘先生は、自分をどうしたいんですか?」


「それは君次第だし、君の意思次第だ。質問を質問で返すことになるけれど、君は何をしたいんだい?病を治したいのかい?それとも罪悪感に押しつぶされそうなのかい?」


何を言おうが、ジキルと僕は他人であり、今この場においては教師と生徒という関係性だ。

家族でもなければ友人でもない、間違っても同一人物でもないし、似たような人生を送ってきたわけじゃない。

そんな相手に知ったかぶりは、されたくないだろう。


「何をって――――――」






――――――何をすれば、許されるんですか?


⋯⋯自己嫌悪と罪悪感、それだけだった。

その一言は、それだけで彼の悪感情を表していた。


模範的な倫理観を持ちながらも、有害無益の精神疾患を患っており、目をそらすことが出来ないほどの殺人衝動(アイデンティ)を抱えている。

だからといってそのアイデンティを捨てたら、自身の空虚さを直視してしまいそうになり、捨てようにも捨てられない。

そんな浅ましい自己を嫌悪する、止まる事なき非現(アンリミテッド・)実的連続殺人事変(アンリアルキラー)らしい哀れな被害者だった。


では、どうするべきか?

一介の教師として、大人として、どのように関わり対応するべきか?


どのように、演じるべきか?


「⋯⋯話は変わるけど、先生って人を殺したことがあるんだけどさ」

暗殺者なんですから、当然人を殺していて当たり前でしょう?

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