殺人衝動は突然に
――――シモン中央学園・人気の無い道/夕暮――――
ジキルがナイフが握り、マキナのうなじに狙いを定めたその瞬間、五行魔術で作った石槍を投げ魔術で加速させる。
狙う先は勿論、ジキルが握っているナイフ及び腕。
正直に言えば、頭を狙って脳震盪を起こしたいが、今の彼に話を聞かなければならないので却下した。
あと普通に殺しかねない。鍛えていない人間は、高速で飛来する石塊に頭をぶつけたら死ぬのである。
「っ!」
しかし彼はこちらを察知し、マキナのうなじに振り下ろすはずだった刃物を石槍に向け、何かを切ったかのような動作をしたかと思えば、石槍が両断される。
恐らく、彼の魔術である『分割』だろう。
「!?⋯⋯先生⋯⋯!?」
「目的はジキルの拘束、マキナは自己の安全優先、拘束は先生がやる、騒ぎは起こすな、以上」
マキナは僕が現れたことに驚くが指示を出した瞬間、大きく見開いた目を細めていつもの表情に戻る。
さてこの際だからはっきり言うが、ジキルが『突発性殺人衝動精神疾患』だと予測できていなければ、マキナは簡単に殺されていたことだろう。
「⋯⋯⋯⋯■■■■■」
何しろ相手は殺人鬼、一切の予備動作無く殺人を行う衝動に支配された殺戮生物。事前に殺人鬼だと理解していなければ予防も予測も出来ないという、不意の怪物。
そんな相手の殺人行為を事前に防げたのは、幸運としか言えない。
ジキルは懐からナイフを取り出し、両手で刃物を握って構えた。
その姿からは先程までの平凡な印象は無く、まるで人格の変わったような雰囲気だ。
まぁ、今回の場合は文字通りなのだろうけど。
「―――――■■■■!」
その刹那、彼の肉体は破裂するかのように加速した。
瞬間的な脱力からの緊張の後に繰り出される、超低姿勢の爆発的加速。
それは彼の肉体で行える最高効率と言えるほどの身体の動かし方であり、狂気と疾患によって繰り出される致命の一撃。
その切っ先が狙う先は心の臓。
彼の魔術である『分割』を使われたら、否応なしに臓器を切り分けられてしまうだろう。
流石に己の心臓がハツとして食卓に並ぶのは避けたいが、今の彼の速度はこの上のない速度であり、その勢いに今から反応して防御するのは難しいだろう。
――――――だがしかし、相手はただの一般人であり、まして戦闘を微塵も知らない子供でもあり、更に言えば狙う位置もわかっているというのに、どうしてその一撃を対処できないのであろうか?
殺人鬼を殺人鬼たらしめる不意打ちを封じられた一撃、それは余人によるただの暴行に等しい。
「⋯⋯っと!」
「がぁっ⋯⋯はっ⋯⋯!?」
僕が全力で蹴り上げると、飛び込んできた彼の鳩尾に突き刺さるようにして靴のつま先がめり込んだ。
彼の身体は空に浮き、無防備になる。
無論、その隙を逃すわけがない。
彼の頭を狙って片手に持ったトランクケースで弧を描き、身体が振り回されるように振り抜く。
手にしっかりとした衝撃と鈍い音が聞こえ、次いで聞こえたのは人間が壁に埋まる音だった。
「⋯⋯⋯⋯質問、これは――――――」
「はいこれで終わりっと」
念には念を入れて、ジキルの首元に電気を流して気絶してもらおう。あと両手も縛っておこう。
⋯⋯さてどうしたものか、話は聞きたいが気絶させてしまった。いやまぁ、あのまま続いてうっかり殺したら大変なことになるから仕方ないか。
恐らくだが彼は『突発性殺人衝動精神疾患』以外にもう一つ、精神病を患っているのかもしれない。
だからこそ色々と話を聞きたいのだが⋯⋯どうしようこれ、意識のない相手には流石に聞けないよ僕は。
「⋯⋯⋯⋯まぁいっか、マキナ?寮まで案内してくれないかな?具体的にはジキルの部屋に行きたいんだけど」
「⋯⋯了解」
困惑しつつも彼女は案内することにしたらしい、では両手を縛ったジキルを引きずって行くとしよう。
『殺人鬼の殺人』
あらゆる手段を用いたとしても心の内を明かせることができないのならば、不意の衝動による殺戮をどうして予測できようか?
不意の衝動による殺戮を封じられた殺人鬼という一般人に、どうして負けることができようか?




