信奉者の中でも
Q:ラプラス・マクスウェル様の好きなものってなにー?
A:面白そうなこと全般、いやマジで
Q:ラプラス様の得意なことは何であろうか?
A:問題を解決すること、そして問題を起こすこと
Q:ラプラス様、の、好物、は?
A:コーヒーにガムシロップを二桁突っ込んでたのを見たことがある
Q:ラプラスさんの魔術適性は?
A:わからん、追放されたとはいえ所属していたから記録残ってるんじゃない?
Q:巷で噂の死体のない連続殺人事件について、ラプラス様ならどう思うのかなー?
A:知らん、でもあの先輩なら解決するんじゃない?
Q:ラプラス様の連絡先とかがあるのならば欲しいのである
A:卒業する時に連絡先や痕跡をほぼ全て捨てたから残ってない
Q:どうし、てラプラス様の、い、一番弟子になれた、の?
A:それは先生が聞きたい、どうして目をつけられたのか知りたいし、逃れられる術も知りたい
質問に次ぐ質問、さながら尋問のような状況(実際その通りであった)が続いていき、段々と面倒くさくなってきた頃、ジキルが尋ねるように口を開いた。
「⋯⋯橘先生、段々と化けの皮が剥がれてません?」
「化けの皮って言うのやめてくれないかなぁジキル⋯⋯」
まぁ実際その通りではあるのだけれど。
なにしろこの場にいるのはあの先輩の信奉者であり、広義においては僕の後輩でもあり弟子でもある。そんな状況が、教師という偽装を徐々に剥がしているのかもしれない。
「ところでジキル、さっきから随分と悩んだ顔をしているみたいだけど」
先程からジキルは、地面に撒き散らされた紙の一つを片手に持って、穴が空くほど見つめている。誰がどう見たって悩んだ顔に見え、思わず声をかけてしまうほどに。
「あぁいや、少し気になったことがありまして⋯⋯橘先生の魔術適性ってなんですか?」
「⋯⋯あ、そういえば言ったことなかったね、先生の魔術適性は理論学派の運動エネルギーだよ」
運動エネルギーの魔術、一口に言ってしまえば『衝撃波』であり、シンプルが故に非常に便利な魔術。
弾丸や投擲物の加速に殴打の威力増加、寸拳じみたマジックもできる⋯⋯マジックと言うかマジカルだが。
「⋯⋯それだけですか?他にもなんか色々と使っていた気がしますけど」
「あ、一応できるよ?他学派の基礎だけならね」
大学時代、先輩に色々と叩き込まれたせいで使えるようになってしまった。
弾丸も加速したり爆発物が作れるルーン学派、脳内の映像イメージだけでの魔術構築出来る便利な元素学派、土壁や即席金属弾を作れる五行魔術、移動手段としても使える伝承学派。
結果として、それは色々と役に立ったわけだ。若いときの苦労は買ってもせよとはよく言ったものである。
⋯⋯まぁ押し売りじみたものだったが。
「まぁとりあえず、その運動エネルギーの術式を見せてくれませんかね?すこし試したいことがありまして」
「珍しいわね、ジキルがそこまでして気になるだなんて」
「いや、まぁ、もしかしたら勘違いかもしれないけどカリスタ、もしかしたら、もしかしたらなんだけどさぁ⋯⋯」
カリスタとジキルの掛け合いを見ながら、僕は魔術の術式、つまり魔法陣を見せた。
ネオンライトじみた光が僕の手元で輝き、そしてジキルは手に持った紙と術式を交互に何度も見てから、結論づけたかのように口を開いた。
「これ、ラプラスさんが関わってます?」
「とっ⋯⋯、りあえず、どうしてそう思ったのか説明してくれないかな?」
⋯⋯なんで分かったんだろうか、ジキル。
いや、本当になんで分かったんだ?教師になってから一言も言っていないし、仮に言っていたとしても10年も前の出来事だぞ⋯⋯いや、こんなファンクラブが残っているから
マキナの鉄面皮すらも動かすってマジでどうなってやがる、いやま表面的には平凡なくせして特別対応教室にいるから、その手の才能なのかもしれないけど。
「これ、ラプラスさんが作った全学派共通規格魔術なんですけど」
今なんかとんでもない単語が聞こえた気がするが聞かなかったことにしておこう。
信じられない単語を聞き流した僕を意にも介さず、先輩のファンクラブメンバーは術式とジキルの紙を交互に見つめる。
そして、カリスタが納得したような顔で口を開く。
「確かに似ているわね⋯⋯マキナ、術式の一致率とか判別できる?」
「肯定⋯⋯⋯⋯汎用術式と93.8%の一致、同一作成者と推測可能」
「ふうむ、となればこの術式、如何なる理由で橘先生は持っているのであろうか?」
シェイドがナハシュ特有の尻尾を揺らしながら、ジリジリとにじり寄ってくる。それに同調するかの様に、ジキルとマキナを除いた全員が囲むようにして逃げ道を潰し、円陣を組むかの如く、さながら狩りのように僕を追い詰める。
「⋯⋯⋯⋯いや、まぁ、うん、お察しの通り、ラプラス・マクスウェルの発明品だよ、多少改造したけど」
――――――瞬間、部屋中が歓喜に満ち溢れた。
破裂音にも似た勢いだが、だからといって一瞬にして衰えることのない歓喜。
部屋中に敷き詰められたレポートらしき紙が天井に届くほど舞い上がり、尻尾を揺らしたり羽を勢いよく動かしたりとして、各々が独自で喜びを表現している。
不思議そうに首を傾げているマキナと、呆れているジキル、諦観の感情でいっぱいな僕を除いて。
「おぉ!なんということか!あの御方の産物がまた一つ増えるとは!!また解体できるとは!!!」
「いやー嬉しいねーこの上なく嬉しいねー?だよねーミェーチちゃーん?」
「へ、ふへっ、う、うんっ、うぇへっ、ラプラス様の、あた、新しい、技術っ⋯⋯!」
「嗚呼、今日は記念日ね?顧問に連絡をしないと」
あのカリスタまでもが、あの真面目で喜びの感情に振り回されることなどないであろうと思っていた彼女までもが、冷静を取り繕っているとわかるほどに心を踊らせていた。
「⋯⋯ねぇジキル、このクラブっていつもこんな感じなのかい?だとしたら先生は彼らの行く末が不安なんだけれど」
「まぁ、シモン中央学園に入学している時点である程度の未来は保証されているんで、大丈夫じゃないですかね⋯⋯」
「踊り狂って狂喜乱舞している姿を見てそれを言っているのかい君は」
「大丈夫じゃないですかねぇ⋯⋯!」
苦虫を噛み潰したかのような顔でジキルはなんとか断言した。
はっきり言って、その光景を見ていた僕は、まるっきり理解が出来ないわけでもなかった。納得はしたくないししていないが、理解不能という訳では無かったのだ。
いくら僕といえど、先輩のしでかした功績は絶対的に悪いとは言えないのは理解できる。
良くも悪くも、あの人は敵を作りやいが、それと同じくらいに味方を作る、洗脳にも似たようなカリスマ性。
今まで培ってきた、他人の常識と良識を嘲るようにして一蹴し、自身の命すらも使い潰せるほどの覚悟と視点を授けておきながら、開花させた能力の方向性だけは固定しない自分勝手な人。
あの先輩が昔しでかした奇行と洗脳じみた扇動を懐かしみ、彼ら彼女らが浮かれている状態ならば脱出できるかもしれないと動き出そうとした瞬間、その瞬間だった。
「おいおいマジかぁ?マジで言ってんのかぁ?まっさかジョークの類って訳じゃあねぇだろうなぁ?まさかお前がジョークの類を言えるだなんて思ってねぇけどよぉうカリスタぁ?」
予備動作もなく、彼は現れた。
この部屋唯一の出入り口である扉を開けること無く、現れたのだ。
何もない空間を、なんの仕掛けもない景色を
一枚の布の如く歪ませ、暖簾かカーテンを掴んだように歪ませ
浮上するように、着陸するように、空間を捻じ曲げたかのように現れた。
「喜ばしいことに現実よ、ベンジャミン代表」
「そりゃあいいなぁ?あの御人の偉業をまた一つもう一つバラして壊せるたぁ、そいつぁ世界の発展と同義だぜぇ?」
やけにシニカルに、享楽的に、この世の一切を面白可笑しいとしか感じていないような、あの先輩を模したかのような声。
一体どれほど徹夜をしたのかわからないほどの隈で目付きが悪い、琥珀色と菫色が入り混じる髪色を持っている。
虚数的量子論者の異名と、学会唯一の魔術適性を持つ理論学派の代表。
あの先輩に狂わされた、数ある信奉者の中でも狂信者と呼ばれる人物。
「でぇ、お前さんが兄弟子だろぉ?なぁ、橘立花ぁ?」
理論学派代表、ベンジャミン・オブライアン。
その人が、心底楽しそうな笑みと狂気の瞳でそこに立っていた。
『信仰』
祈り、思うこと。
信仰は狂気と表裏一体である。
他者からすれば滑稽でしかないが、当人だけが理解できる。
それ故、狂気と信仰は表裏一体であり、裏表一体である。




