機械仕掛けの『 』
「■■■■■――――――」
人間には理解できないような単語、例えるならばそれは機械のような言語を話し、マキナはゆっくりと片手をこちらに向けた。
すると瞬く間もないほどの刹那に魔術が構築され、それらは息つく暇もなく無数の光線が放たれる。
まるでキリエの使うマシンガンだ、威力こそ低いものの数の多さで最早回避不可能と言っていい。
「――――っ、無理だなこれ」
内側に潜り込んで回避しようと駆け抜けるが、いくつかの魔術は正確に狙ってくる。
今から魔術を構築したとしても間に合わないだろうし、だからといって防御も取れない。
ならばいっそ避けなければ良い。
「つぅっ⋯⋯!」
普段から身につけている特殊なコート越しに、魔術が被弾し痛みを感じるが、そこまでの威力でないからこそ耐えられる。
そして大部分は避けることができ、蜂の巣になる未来は避けられた。ならば、このままの速度で、そのままの速さで、マキナを気絶させてしまおう。
そう思いトランクケースを振りかぶりつつ、リボルバーの弾倉がデザインされた黒い手袋『神の見えざる手』に魔力を流す。
それはかつての暗殺者兼傭兵時代にオーダーメイドで作ってもらった、運動エネルギーをより効率的に変換できる魔術触媒。
言ってしまえば『手袋の形をした杖』のようなものだ。
流石に魔術を使用した上で殴ったらマキナは気絶するだろうと思い、トランクケースの持ち手を力強く握りながら魔術を発動し、全力でトランクケースを振り下ろす。
「■■■■■」
だがそれは、当然のように弾かれた。
いや、それは弾かれたと言うには正確ではない。
一切の予告なく作られた見えない壁、魔術によって作られた壁に阻まれてマキナの頭蓋を揺らすことは叶わなかったのだ。
ならば、と、魔術の壁に手を付いて無理矢理体を動かしつつ蹴りをねじ込む。
が、やはり防がれる。
今度は、と、身体を翻しながら地面に着地しつつ、五行魔術による生み出したバスケットボールほどの水を、さながら投手のように投げつける。
だが、またも防がれる。
そのままマキナの視界を防ぐように、地面を隆起させて攻撃しながら防御するが、音的に当たってはいないだろう。
「⋯⋯さて、と」
暴走しているマキナの視界を遮った後、即座に撤退してカリスタの作った土壁に背を預ける。
さてはて、どうしてやろうか、殺すのは出来るかもしれないが、それをやったら不味いのはいくらなんでも理解している。
だからといって生け捕りも大変だ、あの不可思議な防御魔術、未来予測のように設置された魔術をどうにかせねば、その目標を達成するのは不可能と言っていい。
⋯⋯そもそも、あのような一切の予告がない魔術は可能なのだろうか?
詠唱破棄は可能だし、実際僕も出来る、だが魔力の起こりすら発生しないのは論外だ。
攻撃を予測して防御は出来なくはない、ないが、少なからず一定の実戦経験が必要だ。マキナはそれが可能なほどに実戦経験を満たしていない。
もしも仮に未来予測が可能だとしても、彼女の魔術適性は未来を見ることができるものではない。
マキナ・マクスウェルの魔術適正は、理論学派のエネルギー全般、熱エネルギーから電気エネルギーまで、幅広い適性であるが故の汎用性と応用力が利点だが、それ以外は発動すら出来ないほどに適性がないのが難点だ。
暴走していて魔術適性が変わるのならば話は変わるが、あの光線を見るにそれは違うだろう。
「なんで教師だってのに、こんな荒事に巻き込まれているのかなぁ⋯⋯」
確かに問題児のみを集めたクラスとは聞いていたが、まさかここまでとは思うまいて。愚痴の一つや二つは言いたくなる。
だが仕事は仕事だ、任せられた仕事を投げ出すような不真面目さを、僕自身は持っていない。
「⋯⋯もう少し情報が欲しいかな、何らかの条件があるだろうし」
トランクケースを開いて、いくつかのルーンが刻まれた綺麗な宝石、古めかしいが頑丈そうなレバーアクションショットガンと銃剣を取り出す。
手にした宝石2つをすぐ近くにある土壁にねじり込み、念の為に魔力を多めに流す。すると2mほどの土人形が二人生まれる。
使い切りだが即席で『ゴーレム』が作れるルーンが刻まれた魔術、備えあれば憂いなしとはまさにこのこと。
レバーアクションショットガンに銃剣を着剣しながら、ゴーレムに指示を出す。
「入力開始、この壁の向こうにいる人物と戦え。殺さずに生け捕りしろ。挟撃するために真反対に回ってから戦闘を開始しろ。以上、入力終了、行動開始」
そう言うと、二人のゴーレムはドタドタと足音を鳴らしながら走り始める。手にした銃剣付きレバーアクションショットガンを握りながら待っていると、土と光線がぶつかり合う音が聞こえ始めた。どうやら戦いが始まったらしい。
そのまま土壁を登り、マキナとゴーレム二人の戦闘を確認する。
マキナは自身の尻尾である5つの尻尾を、ヘビのように動かしながら魔術を発動しつつ、ゴーレム2体を捌いている。
対してゴーレムは両腕をハンマーや鎖に変えて、生け捕りにしようと戦っている。
はっきり言ってマキナのほうが優勢であり、ゴーレムが負けるのも時間の問題だ。
であるならば急がねばならない、僕は『魔術弾丸式第七レバーアクションショットガン』を構え、マキナの頭に照準を合わせる。
魔術によって放たれる弾丸は改造が簡単であり、衝撃による脳震盪を目的とした弾丸も作成できる。
今、マキナの意識はゴーレムに向いていることだろうし、もし仮に気づいていたとしても、今から魔術を構築しようとしても無意味だ。
なによりも、積み重なった経験と記憶が『今』と確信している。
しっかりと握って、引き金を引く。
すると、予想に反して弾丸は防がれなかった。
マキナの頭を狙った放った衝撃弾は寸分の違いもなく、ズレもなく、頭に当たった。
ぐらりと体を傾け混乱しているのはマキナだろうが、戸惑ったのは僕自身もだった。
あのような不可思議の防御、常時防御魔術を展開していれば可能な芸当かもしれないが、その場合は魔力消費も演算も馬鹿にならない。だから僕の予想としては『一定の衝撃に反応して防御する』という魔術だと考えていた。
だが実際には違い、脳震盪を起こすに足る一撃である銃弾を食らった。
なぜだ?なぜ防げなかったんだ?どういう条件だ?なぜあのような速度の防御が可能なんだ?
重要なのは『遠近両用の高速防御が可能』ということだが、一体どのような――――――
「――――っと、あっぶな」
魔術のからくりを見抜こうと考えていると、頭上にいくつかの魔術が構築されていた。その場を飛び退くと、光線が放たれて先程までいた場所を焼き焦がす。
ゴーレムはもうすぐ倒されるだろう、念の為に2体用意していたから、もう少しだけ時間が稼げるだろうが。
「というか、マキナの魔術発動速度が面倒だな⋯⋯いくら数理系に強いと、して、も⋯⋯⋯⋯待てよ?」
なぜ防げなかったのか、なぜあのような連撃を防げたのか、なぜあのような未来予測じみた防御ができたのか。
そこでようやく、僕はその正体を突き止められた。
――――――――――速度。
カリスタよりも上回る一点、それは異常と呼ぶべきほどの魔術の発動速度、それこそがマキナ・マクスウェルの唯一抜きん出て並ぶ者のいない才能だ。
コンピューターじみた計算速度による演算、機械仕掛けじみた思考速度による構築。
基礎の構築、魔術の演算、世界に対する証明、魔術における三つの発動工程に至ってはカリスタよりも上回る。
もはや其れは、魔術の並列発動に等しいほどの速度。
となると俄然難しくなってきた、魔術の発動速度が桁違いに速いとなるとどうしようもない、どうにもならない。
なにしろ攻撃も防御も速さが基本だ
「いっそ、殺してしまえば――――――」
そのような思考が脳裏を過ったところで、その考えはかき消され霧散した。
――――――対象認識
その単語を聞いた瞬間、首筋に冷たいものが当てられたかのような感覚に陥った。
――――――条件定義
生命の危機のような、命を逆撫でするような冷淡な声を語る彼女に向かって走り始める。
――――――基礎構築
もしもあの言葉が独自の魔術詠唱だとするならば
――――――数値入力
もしも圧縮された簡易詠唱だとしたのならば
――――――高速演算
もしも圧縮された魔術簡易詠唱が速度に特化したものならば
速度を捨て完全な詠唱を行った場合は何れ程の火力になるのだろうか――――――
――――――証明完了
次の瞬間、この一室全てが光りに包まれた。
一切を焼き払い、万象を塵芥に帰す光。
神罰などではない、ただの熱量が放たれた。
『銃火器』
一般的にキリエかメフィストが扱うものと思われている。
基本的に魔術触媒としての機能も兼任しており、魔術適性が少ない人向けの『火薬弾式』と、魔術の弾丸を撃ち出す『魔術弾式』の二択がある。
遥か遠い時代からキリエだけがよく使っている道具であり、儀式道具としての側面も持つ。
基本的に成人するまでに作り、ベツレヘムの行政機関がオーダーメイドで作成している。
なぜ他種族が使っていないかというと、他種族の場合はある程度の魔術適正が必要となる上に、そもそも銃火器を使うくらいなら魔術か弓矢を使えばいい。なんならフィジカルにモノを言わせて投擲で良い。
このことから銃器を扱っていたらメフィストとキリエだと思われているため、種族を誤認させたりする事ができる。
一説には上記の二種族側から銃を扱えるように進化したと言われているが、あくまでも仮説である。




