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シモン中央学園の問題児達は斯く語りき  作者: 糸又 字四
「自己を厭い続ける」
14/41

子供の喧嘩

――――シモン中央学園・総合運動場/昼――――


足元に敷き詰められたタイルをしっかりと踏みしめながら、私は眼前の四人をしっかりと見る。

名前も知らなければ使う魔術も知らない、どの学派かすら知らない相手だけれど、少なくとも差別と偏見で行動するようなその考えがとても気に入らなかった。


「マキナ?前線は私がやるから支援攻撃はお願いね」


「⋯⋯質問、カリスタは、どうしてこんな事をするの?」


不思議そうに、そして理解ができないという表情でマキナはそう聞いた。自身が受けた差別すら気にしていない、というよりも差別だと認識されていないかのように。


前の私だったら、恩着せがましくマキナの為と言うかもしれないけれど、今の私は違う。

他人の為だとか道徳的に正しいとか、それはそれで正しいけれど今この場においてはそれを理由にするのは違うだろう。


理由は、そう、もっとくだらないくらいの――――――




――――――アイツが気に入らないから、とか。


「⋯⋯それだけ?」


「そうよ、幻滅した?」


私がそう言うと、彼女は少し考えてから首を傾げた。


「⋯⋯不可解、行動原理がわからない」


「でしょ?私もわからないの」


そう私は言ってから、眼前の四人に向き合う。

相手はすでに杖を握って構えている臨戦態勢、ならばこちらも武器を構えなければならない。

決闘のカウントダウンが運動場全体に響き、開始の合図が鳴った瞬間に魔術を発動し、駆け出して――――




橘先生に倣って、怒りと共に握りしめた拳を、相手の鳩尾に叩き込んだ。


――――シモン中央学園・総合運動場観客席/昼――――


一瞬にして間合いを詰めたカリスタが、突き上げるようにして拳を繰り出した。

それは的確に相手の鳩尾に当たる、情け容赦のないものだった。


少し前まで問題児でありながら天才であったカリスタの決闘と聞いて、面白いものが見れると思っていた観衆はどよめく。

それもそうだ、軍人の魔術師ならともかく、学生の身であのような行為をするやつはなかなかいないだろう。


「⋯⋯あの、あれいいんです?」


「うちのクラスではありですね」


隣に座ったフランクリン先生が困惑しつつ質問するが、当然アリだ。

出来るかどうかはさておき、そのような行為が出来てやらない理由がないのならばやるべきだ。それも、戦いの場であるならば尚更というもの。

しかしこのまま放置していては、カリスタが蛮族だと思われてしまうのでフォローをしておこう。


「あくまでも私見ですが、魔術師というのは呼吸器に対する攻撃に弱いんです」


「呼吸器?」


「ええ、余程の手練でもない限り、魔術師は使う魔術名を口にする詠唱を行うでしょう?それが意味するのは《《大多数の魔術師は呼吸が必須》》ということです」


それさえ分かってしまえば学生魔術師の対処なんてものは実に単純だ、みぞおちを狙えば臓腑が悲鳴を上げる、催涙ガスでも撒けばまともに呼吸すらできなくなる。

その点で言えば、カリスタが最初に放った腹パンは見事な対策である。

魔術師が殴ってくる筈がないという、視野狭窄な先入観を利用しているのも完璧だ。


「がぁっ⋯⋯!ぁっ⋯⋯!」


鳩尾を殴られたリーダー格らしき少女、アンナはゲホゲホと咳き込みながら地面に転がる。

そしてカリスタは蹲っているアンナを一瞥した後、取り巻きの少女に視線を向けた。


「⋯⋯あんな事を言っておいてこんな実力だなんて、お里が知れるわよ?」


「っ⋯⋯!紅蓮滾る炎(イグニッション)っ!」


渦巻く旋風(ストローム)っ!」


「あ、洪水起こす水塊(アクアフラッド)!」


三人が別々の魔術を詠唱し、カリスタに向けて放つ。

火と風と水、それら3つを同時に相殺するのは並大抵の実力では無理だろう。


しかし、カリスタの取った手段は相殺よりも素晴らしかった。


「危ないわね⋯⋯っと」


カリスタの足元に緑色の魔法陣が展開されたかと思えば、跳躍するようにして空を舞った。


「⋯⋯なるほど、風の魔術を一瞬だけ行使して加速しているのか」


僕の小言が聞こえたフランクリン先生は


「どういうことです?」


と、質問したので僕は返答する。


「恐らくですが、足元に風の魔術を構築してただの跳躍を加速しているんです。それも、一瞬にして大量の魔力を流し込んで」


「⋯⋯確かに多量の魔力を流し込んだら効果は上がりますが、そんなことをしたら制御を失ったり、術式そのものが過剰な魔力供給で崩壊しませんか?」


「まぁ普通はそうですね、ですがカリスタは《《崩壊するギリギリの魔力量》》を覚えているのかと」


あの魔法陣は最初に放った鳩尾狙いの拳の一撃のときにも現れているものだ。

恐らく、攻撃ではなく加速のためだけに改造した魔術だろう、しかも展開速度と発動までに特化したものだ。

この時点でカリスタは《《見世物の魔術》》ではなく、《《実戦の魔術》》というのを理解しているかもしれない。


⋯⋯まぁ、崩壊するギリギリの魔力量を感覚で覚えるだなんてのはとんでもない才能だが。

僕にだって出来ないぞ、それ。




だが、カリスタの恐るべき才能の始発点はここからだった。


「――――――あはっ、随分と遅いわね?」


眼科で魔術を構築してカリスタを撃ち落とそうとする三人を見下ろしながら、カリスタはにたりと口角を上げて、右手と左手、右足と左足で《《別々の魔術を構築し始めた》》。

右手は茶色な土の魔術、左手は青色な水の魔術。

彼女の片足にには緑色と赤色、火と風の魔術が構築されていた。


「⋯⋯フランクリン先生って人事の仕事もしてましたよね?元素学派で四属性の魔術適正ってどのくらいです?」


「えっ⋯⋯とぉ⋯⋯魔術学会の元素学派で四属性全ての魔術適正なら多く見積もっても全体の1%くらい⋯⋯ですかね」


「⋯⋯四属性全ての同時構築と並列使用が可能な場合は?」


「⋯⋯魔術学会全てを探しても、四元素の同時構築と並列使用なんて芸当、アルブレヒトさん以外にいないかと、思い、ます、よ?」




⋯⋯⋯⋯カリスタ、おかしくないか?


四元素全ての適性に加えて、同時構築と並列使用による飛行しながらの戦闘とか、それこそ学派の代表クラスの才能だ。

魔術の同時構築は、複数のキーボードで別々の文章を作るようなもので、並列使用という芸当は、多数のコントローラーを一人で操作するようなものである。

魔術使用の補助具である『触媒』、それもよっぽど質の良いモノを用意した上で、本人の才能が必須という高み。


え、じゃあなんだい、そんな才能を持っている生徒の教師をこれからもやるの?僕が?この僕が?セフィラとか学派代表とかに任せたほうが良くない?絶対そっちのほうが伸びしろあると思うんだけど?




「⋯⋯ま、まぁ、それは一旦置いといて、この戦況の解説をお願いできますか?橘先生」


「あ、まぁ、うん、はい」


面倒な現実からは目を背けることにした。


さて、戦況は実質的なワンサイドゲームだ。

カリスタは相手の上空を魔術で飛行しながら、対空用の様々な魔術を的確に防御したりふわりと回避している。


⋯⋯飛行する魔術って難しいんだけどなぁ、学生だと構築すら難しいはずなんだけどなぁ。


「くっ⋯⋯鳥貫く風槍(エアストライク)っ!」


「はい甘い、それじゃ避けられるわ」


渦巻くようにしてカリスタに放たれる風槍は、くるりと身を翻して避けられる。


「れ、雨齎す記号(レインコード)!」


「それは簡単に相殺できるわ、ほら、早く次の魔術を構築しなさい」


手のひらほどの大きさをした複数の水がカリスタを包囲するが、それらは土の魔術で簡単に対処され土砂と化す。


その姿は戦っているようには見えず、だからといって煽っているようにも見えない。

どちらかといえば、《《戦い方を教えている》》ように見える。

⋯⋯孤独に飛ぶと言ったが、教えたがりの癖は抜けないのかもしれない。まぁ一朝一夕で往来の癖が抜けるのも、おかしな話だが。


「げほっ⋯⋯ごほっ⋯⋯お前⋯⋯!こんな戦い方ぁ⋯⋯⋯!!」


鳩尾を殴られてからようやく復帰したアンナが杖を構える。

その表情には明らかに怒りや不快感が含まれており、もしかしたらカリスタに対する劣等感もあるかもしれない。


だが、彼女が構えた杖から魔術が放たれることはなかった。






「――――――魔術的野砲、証明終了」


機械的な少女の声と共に放たれた魔術による砲弾は、アンナを的確に狙い撃つ。

そして、パリンと小気味良い音が、アンナの敗北を意味する音が響いた。

『決闘』

この歴史において珍しくない行為。

ある時は名誉のため、ある時は契約のため、ある時は自身のため。

しかして決闘はこの歴史において培われた儀礼の一つとなった。

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