Episode2
少年は朝食を終え、中庭で執事のフィエルと剣での手合わせを行っていた。
「オルウェ様はまた、腕をあげましたな」感心した表情で剣を振るう。
「フィエルは手を抜かないからな!俺はついていくのに必死だ」剣の刃音が響く。
オルウェは強張った表情で、向かってくる剣をかわす事に精一杯だった。やがて「ハァ、ハァ」と立ち止まり息が荒くなった。
「ひと休みしましょう」近づいたフィエルが呟く。
書斎に戻ったオルウェは椅子に座り手足をだらりとして天井を仰ぎみる。
コンコンと扉の叩く音がして「いいぞ」と応えた。
扉が開きフィエルがティーセットを手に抱えていた。
「ホワイトティーをお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
ティーセットを机に置きカップに注がれると、忽ち葉の匂いが部屋に立ち込めた。
オルウェは一口飲み、机の引出しから書類を出した。
「昨日も父の帰りがなかったのか」
「ええ、言伝もございませんでしたのでお城で何かあったのやも知れません」
「では。」と執事が部屋から出ていった。
置き時計から秒針の音が鳴っている。
目を向けると10時を指していた。何かを思い至ったオルウェは椅子から立ち上がり部屋を出た。
庭で花の観賞をしている母に声をかけ外出の許可を得ると、「よーっし」と厩舎へ駆け抜け馬装を手に取り愛馬に取り付けようとする。
しばらくしてからオルウェは馬車に揺られていた。正面には、執事フィエルが座っていた。
「なんでだ」
オルウェは膝に肘をついて、不服そうな表情をしている。
「オルウェ様が走り抜けていらっしゃったので私もご一緒にと」フィエルは微笑む。
オルウェは従者を付けずに外出する事が見つかってしまい、フィエルに首根っこ掴まれ今に至る。
「母から許可は得ている」
「市街地にお一人とはどういったご用件で?」
「はぁ…ただの暇つぶしだ」
深いため息をつきながら馬車は進み続けヴィルドゥべニール帝都の市街地、細道のとある書店に着いた。
店に入ると「ようこそ!」と店主が声を掛けてきた。
「お探し物は」
「無地の用紙を数枚、それと、、ペン。」
「かしこまりました、お待ちください」
書店には外国からの本も多数並べてあった、オルウェは本の並びを眺めていた。
(帝城程ではないがな)そう思っていると、ふと目に留まった。
「神の祝福を受けた大陸…」
(小さい頃から絵本や母上に聞かされた昔話。神々がこの世界の人間を愛し力を与えた、と。力を得た人間は世界をより良くするため各大陸に散らばった。)
「お客様」店主から声をかけられた。
「その本もお買い求めに?」
「いや、気になっただけです」手に取っていた本を戻した。
「この類の本は沢山ありますからね、でも我が帝国も水の神に愛されてるって思うとありがたいですね~」
店主は得意げに話している
「ほら、昨日の嵐だってこの街には被害がでませんでしたから。カイル様が亡くなった時はどうなるかと思いましたけど、、その知らせを聞いた朝は妻も慌てて··」「そんな日も海や川は平穏でしたし、ルシオ様もいらっしゃいますし」
「そうですね」
オルウェは店主の話に耳を傾けながら並べられた本をみていた。
「そういえば変な噂も聞いたな」
「隣の大陸、、アスクレ大陸のフォスエヴロギア国で王女様が居なくなったんじゃないかって」
(フォスエヴロギア…)
「あの国は王政じゃなくなったって、王様も臆病だってね」「話しすぎちゃったね、お買い求めの物はあちらに~」
店主がテーブルに並べていた文具の方へ案内する。
「ペンを包装してくれませんか」
「ええ勿論。素敵な人へのプレゼントですかな」
店主が笑う
(煩い)
「この羽根ペンはさっき言っていたフォスエヴロギア国原産なんですよ。持ってるだけで癒しをくれるってね!おおっ!」店主が外を見て何かに気づいた
(次はなんだ)
オルウェは横目で騒ぎの音の方を見る。
店の窓には人々が同じ方向へと小走りになっているのが見えた。
オルウェは用件が済んだと書店から出て、待機していたフィエルに何かあったのか聞いた。
「バンベルク家の馬車ですな」
「ルシオ様じゃないか?」書店店主もオルウェに続いて店から出てきた。
大通りの方に人々が集まっていた。大衆とは逆の方向へと歩きオルウェは自宅に帰った。
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宵の口、遠くの空に丸く月が光っていた。
窓を開け、月の光にロウソクを灯した書斎にて、オルウェは書類に目を通していた。
扉からノックの音がして声がかけられた。
「私だ」
「はい!」
即座に立ち上がり返事をした。扉が開かれると、そこにはキース・フォン・ウィスターが立ち、部屋に入る。
「父上、お帰りになっていたのですね。」
「ここ数日は陛下のご静養でレームス渓谷に行っていた」
キースは部屋のソファに腰掛けた、オルウェも近寄り、向かいのソファに腰をおろす。
「レームス渓谷というと帝族、バンベルク家の別邸ですね…陛下のご様子は」
「穏やかだよ、相変わらずな。護衛は要らないそうだ」
「はっルシオ様らしい」途端オルウェが笑う
沈黙の後、キースが問いかける。
「オルウェは陛下に手紙を出していないのか?」
「...このところは、、。俺は勉学や剣術に勤しんでいますし、陛下も帝国の秩序を守っていかなければならないお立場。」
オルウェの表情が曇る。その表情をキースは見つめていた。
「陛下もお前も立派になったな。」
「渓谷に訪れた時、幼い陛下とオルウェを思い出した。川のほとりで魚釣りをし森を散策した、カイル様ステファニー様には良くしていただいた。」
キースは微笑みながら述懐した。
風に窓が揺れる音、コオロギの虫の音が聞こえる。
(昨年カイル皇帝が亡くなった。近隣諸国での争いのさなかに命を落とした。その数日後皇后が昏睡状態に陥った。今もなお意識は戻っていない。それからルシオとは顔を合わせなくなった)
「来月から帝都の学園へ入学だな。」
「はい、寄宿舎に入ります」
「お前はここから通うのもそう遠くはないが、。同じ年頃の者たちと暮らすことも良い経験だ。」
「学園を見聞しましたがとても落ち着いた所で、諸国の貴族達が集まるそうです」
「そうか。気がかりだったのだが、オルウェもいるから大丈夫だろう」
「なんの事でしょう」
オルウェはキースの発言の意図が分からず問いた。
「陛下もお前と同じ、帝立ぺスティべニール校へ入学する」
「え?」
(ますます分からくなった。貴族は大抵、家庭教師を雇う。皇帝という立場なら尚更、帝王学を学ばなければいけない。確かに数百年続いている名門校ではある、優れた教師も多く専門的な事も学べるが、ルシオにとっては時間の浪費だろ!)
「どうしてだ、といったところか」
オルウェは無意識に立ち上がり目を開いて唖然としていた。キースは続けて穏やかな声で話した。
「陛下は城で大人ばかりと接しておいでだ。カイル様がいなくなってしまってからは、朝はお一人で鍛錬し、日中は書類に目を通す日々。弱音をこぼすことができる相手がいないのではないか、と。だが仲間との学びの場で新たな感情が芽生えるやもしれん。学園に通われることを決意された。私は安堵した。」
キースが部屋から退出したあと、オルウェは窓際に腰掛けていた。
雲がゆっくりと動き、海の潮風を感じた。
季節は、秋の始まりへと向かう。




