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ヒュムノス  作者: 新川 歩
第一章 刻々と

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Episode1


  森の奥にひっそりと家があった。

渓谷の斜面に建つその家は国境、大陸の境を一望できた。

青く澄み切った空から太陽の陽射しが大地に降り注ぐ。

椅子のきしむ音、川、草木、せせらぎに包まれて、少年はバルコニーで本を読む。

世界はかくも穏やかに、そして着実に時を刻む。

(...静かだ。)


 コツンコツンと近寄ってくる音、ぴたりと音がなくなりそれは背後に止まった。

「探しました」その男は冷静に言い放った。

「護衛がいません」


「いらないからね」

端的に応えた。


 読書をしていた本を閉じ、テーブルに置く。

山の谷間奥から一気に風が吹いた。

ゆっくりと息を吸い、空気を感じた。

「帰ろうか」

「宜しいのですか。」

「ははっ、その為に来たんだろ」ほんの小さく笑った

「ご静養も大事です」


 少年は立ち上がり、さっと室内の方へ歩き始める。男も背後から続いた。

 室内に戻り荷は整えてあった。テーブルに置いてある懐中時計をふと目にし、手に取って開ける。カチッカチッと秒針が音を鳴らしていた。

数秒目を向け、閉じてから置いていたところに戻し、歩き始めた


 扉を引くと、外には護衛達が馬を引き連れ待機していた。

「今から出発し予定であれば明日夕刻には着くかと」背後の男が呟く


 その時、遠くの空から鈍く低い響きが鳴った。

「..怒っているな」

「この大陸にまで流れてくるとは相当のようです」

「だからだよ」

「...」

互いに表情を変えず沈黙した。少年は歩き始め馬車に乗り込む

(静かなんだ)


 --· ·-· --- ·-- ··- ·--·


 西暦1784年8月——

オケアノス大陸

大陸最大の国家ヴィルドゥべニール帝国

市街地にて 蹄鉄(ていてつ)の音が響く


「うわぁおうじさまだぁ」「違うわ、もう皇帝陛下よ」

「どちらかへ出かけていたのかねぇ」

「ご静養だったと聞いたがな」

「まだ幼い」

「とてもお美しいのよ」


 帝都に着いたのは2日後だった。嵐が去った後の街は更に活気づいていた。

 馬車の中から、少年は外を覗視(しし)する。

街はいたる所に水路があり、交通に商い、家務までもが水との共存で成り立っている。

昨日の嵐の影響は感じられず、水流は相変わらず安定していた。


 曲がりくねった道、坂道それに連なって家が建っている。坂の上を登った街の北側、水路に囲まれた城があった。

 帰りを察していたように城門が開いていた。門をくぐり抜けてほどなく馬車が停止した。

戸が開き、少年は数時間ぶりに馬車から降りた。

「お帰りなさいませ」

 臣下、侍従たちが出迎えていた。

「陛下!」

汗をかいた小太りの男が小走りで向かってきた。長年城に仕える臣下であった。

少年は、城内へと歩きだす。


「恐れながら進言させていただきます、外出される際はお声を掛けていただきませんと城の者はしんぱ」

「なので世話係2人を付けた、僕は生きている。」足を止め、臣下へ体を向け、しっかりとした眼差しで発言を遮った。

「それにキースも迎えにきてくれた。卿の優しさには感謝する。」

少年は静かに体を戻し再度歩き始めた。

 臣下は立ち止まり、視線を少年へ向けている。背後に何か気配を感じ、振り返った。

「ぅおお、ウィスター公」

すぐ目の前に立っていたキースに気づき、臣下は驚き仰け反った。


「陛下は以前にも増して強くなっていらっしゃいます。幼いながらに立場、責任というものを理解しておいでなのでしょう。少々手を焼かされますが...これからですよ」

キースが呟き、少年が進んだ方へと歩き始める。



 城の東塔の階段を登った。

最上階となるそこは、市街地、運河、海まで見渡せる。

「世界は...」ふと話し始める


「世界はこんなにも美しいのにね。やはり争いはどちらかが勝たなければいけない…後には引けない」

少年の言葉にキースは続いた。

「我が大陸内での近隣諸国による戦争は、和平条約の締結によって終結しました。我が国もカイル陛下が和平への働きかけをしておりましたが…」言葉が詰まる。


「キース」少年が淡々と話す。


「僕が父上を亡くした時、命は永遠ではないのだと、この目で確信したんだよ。そして残された者の、後世に語り、繋げていく宿命。時間は無慈悲に刻々と流れていく。僕は未熟だよ。まだ我が国さえも守れていないんだ」

 その声色からは悲壮感も笑みもない。ただ淡々と冷静に語っている。

この大陸は、強固な軍事力を持ち、貿易や経済力にも優れていた。


「1年前…父上の力が継承された。水の加護、この力を早く制御しなければいけない」

(そう、カイル陛下が宿していた力。海さえも操り水から物を生成させる。オケアノス大陸での最大の力)

「陛下は日々成長しておられる。近くにいる私が一番理解しております。今は研鑽(けんさん)を重ね、今後、大陸との更なる連携強化へ。」



 齢14の少年、皇帝ルシオ・フォン・バンベルクは、太陽の光で煌めく水平線を見つめ、キースの言葉を受け止めた。


「ああ、、そうだね」



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