第九話:ふたり旅
リュネと旅をする事になったレヴァン。
リュネが宿屋から荷物を持ってくる間、村の出口にあった瓦礫に座り、空を眺めながら彼女が来るのを待っていた。
カツカツと足音が近づいてくるのが聞こえ、音がする方に目をやるとそこには、エストレージャ王国第一騎士団団長リオン=プレイヤードが立っていた。
「まだ何か用か?」
つい数時間前に手合わせし、説教をしたばかりなので出来れば会いたくなかったレヴァンはとても面倒くさそうに応対した。
「露骨に嫌そうですね……」
リオンは苦笑いしながら後頭部を手でさすった。
「そう思うなら、私の目の前から去ってくれるかな……。朝からお前さんの事も含めて色々ありすぎて、とても疲れてるのでね」
レヴァンは肩を片手で押さえ首の骨をポキポキと鳴らした。
リオンはレヴァンの隣に座った。
「おい」
レヴァンはリオンを睨む。
リオンは晴れやかな表情を浮かべ空を眺めていた。
何だこいつは……と思いながら、一つため息をつき、諦めた表情を浮かべ、一緒に空を眺めた。
聞こえるのは復興作業に勤しんでる人たちがやり取りしている声と、鳥の鳴き声。
二人の間に会話は一切なかった。
若干気まずくなり始めたレヴァンはリュネに早く来てほしいと心の中で切に願った。
だが、待てど暮らせどリュネが来る様子は一向になかった。
身支度にどれだけ掛かってるんだと少しイライラして貧乏ゆすりを始めるレヴァンにリオンは……
「待ち合わせですか?もしかして今朝、私を助けてくれたお嬢さんですか?」
「だったら何だと言うのだ」
「いいえ。お孫さん……とかですか?」
「お前さん。私に子供がいて孫がいると思うか?」
「あなたの事はあのお方に聞き及んでる範囲でしか知らないので、いても不思議ではないと思ったのですが……」
ラズエルの事かと軽い舌打ちをする。
そう言えば元はと言えばラズエルがリオンに自分の正体を教えたからこんな面倒な事になったのだと思い、ラズエルに対して怒りが沸々と湧いてくるレヴァン。
「リオン殿。あの”酒飲み”に一つ言伝を頼まれてくれるかな?」
「”酒飲み”?」
リオンは何の事だときょとんとするがレヴァンは無視し話を続けた。
「いつになるか分からんが近いうちに、お前さんのツラをぶん殴りに行くからそれまでは死ぬなと」
「あははは……。承知いたしました。あのお方もあなたに会えると分かったなら、さぞお喜びになるでしょう」
心底嫌そうな表情を浮かべるレヴァン。
「それと、お前さんが喜ぶ優秀な奴を連れて行くともな」
「承知いたしました。必ずお伝えいたします」
二人の話が一通り終わると向こうから大きなリュックを背負ったリュネが満面の笑顔で手を振りレヴァンの方に向かって走ってきていた。
まだだいぶ遠くにいるがリュネの姿を見たリオンはすっと立ち上がり、レヴァンに頭を下げた。
「それでは私はここで。旅のご武運を……」
レヴァンは立ち去ったリオンの背を見て、ため息を一つつき声をかけた。
「お前さんにアドバイスだ」
レヴァンの声にリオンは振り返った。
「アドバイスが欲しいなら素直にそう言え。それとお前さんの戦い方はあの”卑怯”な一撃しか見てないから何とも言えんがーー」
レヴァンの言葉に胸をグサリと刺され、胸を押さえるリオン。
「それに罪悪感を抱くくらい、お前さんは誠実すぎる。騎士の矜持がどうとかがあるのかもしれんが、冒険者からすれば、読みやすい事この上ない。冒険者は”生きる”ためならどんな手段も使う」
リオンはレヴァンの話を真剣な眼差しで聞いていた。
「それと団長としてのアドバイスをするなら、謙虚さは素晴らしい。これからも精進すればいい。だが、多少傲慢さも覚えろ。ペコペコしてるだけの上官には誰もついて来んぞ」
「お前さんは強い。英雄と呼ばれた私が言うんだ。もっと自信を持てーー」
「リオン=プレイヤード」
レヴァンが己の名を呼んでくれた事に胸が熱くなるリオン。
「はい!!」
リオンは新兵かのように背筋を伸ばしレヴァンに向かって頭を直角に下げた。
「これからも精進いたします。ご教授ありがとうございます」
周りに聞こえるくらい大きな声を出すリオンに、周囲の人々が何事かと振り返る。
レヴァンは「だから私が目立つような事はするな!!」と諫めた。
立ち去るリオンはリュネとすれ違いざまにニコッと笑い軽い会釈をし、リュネも少しスピードを落とし、振り返りリオンにペコリと頭を下げた。
「早く来なさい」
レヴァンの呼びかけにリュネは慌ててレヴァンの元に駆け寄った。
リュネは、はぁはぁ、と肩で息をしながらもレヴァンにニコリと笑った。
レヴァンは何の反応もせず、クルッと回り、村の出口に向かって歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
リュネはレヴァンの前に回りこみ手を広げ止めた。
「何だ?これ以上私の歩みを止めるなら、やっぱり無しにするぞ」
レヴァンが少し苛ついた感じでリュネに言う。
「いいえ。これだけはちゃんとしておかないと」
リュネは姿勢を正し、リオンと同じように直角に頭を下げ数秒後、頭を上げた。
「私はリュネ=アステールと申します。職は星見です」
「剣も魔法も得意じゃありません。一応、護身用にスリングと短剣は持ってます」
「でも、星を読む事なら出来ます」
「夜でも方角を間違える事はほとんどありませんし、天気や季節の変わり目も少し分かります」
「レヴァンさんの旅の道案内なら、お役に立てると思います」
「これからよろしくお願いします」
レヴァンリュネの言葉に表情一つ変えず、告げた。
「お前さんの星見としての役割……」
リュネが喉をごくりと鳴らし次の言葉を待つ。
「私でも出来る」
「ですよねー」
リュネは分かってたかのように後頭部を手で撫で苦笑いをした。
レヴァンは錆びた剣を杖代わりにゆっくりと足を引きずりながら歩き始めた。
リュネはレヴァンと少し距離を開け、申し訳なさそうに後ろを歩き始めた。
そんな様子を横目で見るレヴァンは足を止めた。
リュネも足を止めた。
「隣に来なさい。後ろを歩かれると、いざお前さんに何かあった時に咄嗟に動けない」
リュネの顔がパーっと明るくなり、レヴァンの隣に並んだ。
「分かりました!!」
「それに私より後ろを歩かれたら星見として何の役にも立たんからな」
「そ、そうですね。ははは……」
リュネは肩をガクッと落としながらもレヴァンのスピードに合わせて隣を歩く。
レヴァンは何も言わず歩き続けるが、五十年ぶりに誰かと一緒に歩くというのは悪くないと思った。
それは思っていたより騒がしく、思っていたより温かかった。
思わず頬が綻びそうになるが、それと同時に怖くもなった。
ーーまた失えば、私は耐えれるだろうか……。
項垂れてるリュネを見てそんな思いも芽生えていた。
レヴァンは気づくとリュネの頭を撫でていた。
「レヴァン……さん?」
顔を上げレヴァンを見つめるリュネ。
「すまない」
その一言だけを言いレヴァンは歩みを少し速くした。
リュネも何も聞かず、一緒に歩くのだった。




