第十話:実戦経験
レヴァンとリュネが共に旅をし始めてから三日が経っていた。
初日は特に会話などはなく、街道沿いにあった宿屋で寝泊まりした。
二日目も会話はなく、リュネが勇気を出して話してみるが、一言、二言、ラリーをして会話が終わってしまった。
(何か、いざ一緒に旅をするってなると変に意識しちゃうよ。シルト村の時は普通に話せてたのに)
リュネがレヴァンをチラッと見ると目が合い、咄嗟に逸らした。
レヴァンは気にする様子を見せず、淡々と歩き続けていた。
何か話題はないかと必死に考えるリュネの目にレヴァンが持ってる小さな肩掛け袋が飛び込んできた。
「レヴァンさん。長い間、旅をしてるんですよね?」
「そうだが?」
リュネはレヴァンを頭からつま先までじっくり見た。
レヴァンの服装は色褪せた長シャツに革のベスト。
下は革のブーツに丈夫そうなズボン。
所々補修されてる黒の外套を羽織ってる。
そして小さな肩掛け袋。
「そんな格好や小さな肩掛け袋だけで長く旅が出来るものなんですか?」
「出来る……というかやってきた」
「中身見せてもらってもいいですか?」
リュネの問いにレヴァンは何も言わず肩から袋を下ろし、中身を出した。
袋の中身はーー
金袋
着替え一式
保存食
水筒
包帯
火打石
裁縫道具
砥石
小さな木箱
銀貨
リュネは中身を見て率直に感想を述べた。
「えっ、これだけですか?」
「これで長年、やってきた」
「えぇ……。絶対色々足りてませんよ……」
リュネは少し引き気味で答え、自分のリュックの中身を次々に出していった。
リュネのリュックの中身はーー
金袋
着替え一式×4
鍋
毛布
ロープ
地図
星図
保存食
調味料
コップ
スリング
薬草
「これくらいは最低限要りますよ?」
レヴァンは出した物を片付けつつ、リュネのリュックの大きさに納得すると同時に呆れていた。
「お前さん。こんな大荷物を背負って、もし魔物に出くわしたらどう戦うつもりなんだ?」
リュネはきょとんとした顔でレヴァンを見た。
「このスリングで戦います……」
リュネはスリングを手に持ちレヴァンの顔の前に出し、見せた。
「短剣は?」
レヴァンはリュネのベルトにある革製の鞘に納められてる短剣を指差した。
「あぁ……食材切ったり枝を集めたりする時には使いますけど、実戦ではほとんど使えないですね」
短剣に触れながら苦笑いし答える。
「そうか……。で、実際戦った事は?」
「ありません」
リュネの返答にレヴァンはため息をついた。
(よくそれで星獣と戦おうとしていたな……)
レヴァンはリュネを見ながらあごをさする。
これからの旅路を考えると魔物との戦闘は避けられない。
その時に勝てないにしても、自分の身を守れるくらいはしてもらわないと困る。
そう考えてるレヴァンをリュネは手を前にしモジモジしてレヴァンを見つめていた。
レヴァンが出した答えはーー
「とりあえず、かかってきなさい。お前さんがどれくらい出来るか確かめる」
「分かりました!!行きますよ!!」
リュネは左手にスリングを持ち、ベルトの右側に掛けてる腰袋から小石を取り出した。
小石をスリングのポーチに包み込み、ゴムをぐぐっと引っ張る。
狙いを定め、さらにゴムを引っ張る。
ーーバシュッ!
放たれた小石がレヴァン目掛け一直線に飛んでいく。
レヴァンは造作もない様子で錆びた剣で防ぐ。
想定内だと言わんばかりの表情でリュネは袋から小石を取り出しては放ち、取り出しては放ちを繰り返した。
レヴァンは錆びた剣を少しだけ動かし全て防ぐ。
単調な攻撃だがリュネはレヴァンと一定の距離を取っている。
足の悪いレヴァン相手には有効だ。
距離を詰められなければ剣は当たらないがこちらからは攻撃し放題。
弾も袋にある小石以外にも、そこら辺にある落ちてる手頃な石でも良いわけである。
全くの素人というわけではないか……とレヴァンは少し感心した。
何度目かのリュネの攻撃。
また石が飛んでくる。
レヴァンはこれも剣で防いだ。
すると、石は砕け白い粉が舞った。
レヴァンは咄嗟に目を閉じ、外套を翻した。
視界が遮られたレヴァンは感覚を研ぎ澄ました。
タタタタとこちらに向かって走ってくる音が真正面から聞こえてくる。
レヴァンは錆びた剣を構える。
ーーヒュンッ!!
レヴァンの顔を目掛け石が飛んできた。
レヴァンは間一髪のところで顔を横にずらし避けた。
ーーバシュッ!!
今度は足元に石?を撃たれた。
レヴァンは反応し足元を見てしまった。
しまったと思ったレヴァンはすぐさま正面に向き直した。
白い粉煙が晴れて来て次の攻撃に備えてると、リュネの姿はどこにもなかった。
どこに行った?と周囲を見渡していると、ぎりっと足元からスリングのゴムが引っ張られる音が聞こえた。
リュネはレヴァンのあごに狙いを定め仰向けになって構えていた。
リュネはニヤリと笑い、一本取ったと思った。
が、レヴァンは地面を足で蹴り、今度はこちらが土煙をあげた。
地面に接してる状態のリュネはもろに土煙を目と口にくらいゴホゴホとむせた。
横に転がり逃げようとするが、レヴァンに首を掴まれ動けなかった。
「ま、まいりました。降参です、ゲホッゲホッ」
目を閉じたまま息苦しそうに手を頭の上にあげた。
リュネの言葉を聞いたレヴァンはゆっくりと手を離した。
「ゲホッゲホッ!!うら若き女性の首をがっちり締めるなんて酷いですよ、レヴァンさん」
リュネは首をさすりながら、頬を膨らませ怒る。
「相手の視界を奪い、その間に間合いを詰め勝負を決める……悪くはないが、ドヤ顔をする前に撃て。まあ仮に撃たれたとしてもただの石だ。脅威でも何でもない」
レヴァンは手を差し伸べる。
リュネはレヴァンの手を掴み、立ち上がった。
「いやー普通、石だと分かっていても多少は怯むもんなんですけどねー。レヴァンさんノータイムで地面蹴り上げて土煙巻き上げてましたね」
「相手が勝ったと思った時が一番のチャンスだからな」
「それに今の戦い方は対人戦用だった。魔物にはほとんど意味がない」
「そんなー」
リュネは肩を落とした。
「だが、動きは悪くなかった」
レヴァンの言葉にリュネは嬉しくなりニヤニヤした。
(これなら、魔物に遭遇しても大丈夫だろう……)
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「いやあああああああ!!」
リュネはスライムの大群に追い回されていた。
レヴァンは深々とため息をつき、片手で額を覆った。
リュネは隙を見てスリングから小石を放つが、スライムの柔らかい体に弾かれる。
中心部にある核を破壊しないと消滅しないスライムに非力なリュネのスリング攻撃では、核まで貫けない。
レヴァンはリュネを自分の方に呼び、スライムを誘導した。
リュネがレヴァンの横を猛ダッシュで走りすぎると、レヴァンは錆びた剣を振り上げスライムを一匹切り裂いた。
飛びかかってくるスライムの大群にレヴァンは上半身だけ動かし、避ける。
足元から攻めてくるスライムには錆びた剣を突き刺し倒していく。
レヴァンの無駄のない動きにリュネは感嘆の息を漏らした。
(すごい……)
リュネがレヴァンの動きに見惚れていると、レヴァンが突き刺したスライムを一匹リュネに放り投げた。
「きゃっ!!」
驚いてるリュネにレヴァンはーー
「スライム一匹倒せんようでは、次の町か村で置いていく」
レヴァンの声色から本気だと感じたリュネは表情を引き締めた。
リュネはスリングのゴムを引っ張り、石を放つ。
が、先ほどと同じでスライムの柔らかい体に跳ね返される。
「そんな一辺倒な攻撃では勝てんぞ」
そういうレヴァンは既に襲いかかってきていたスライム達を全滅させていた。
残るはリュネの前にいる一匹だけだった。
一匹になった事で落ち着いて考える時間ができたリュネはスライムの攻撃を避けつつ、対処法を考えていた。
(この種のスライムの攻撃は体当たりだけ……一匹だけなら怖くはない。だけど……)
リュネはスリングを見る。
非力な自分が唯一できる戦法。
だが、スライム種とはすこぶる相性が悪い。
今までなら、他の冒険者たちが守ってくれていた。
そもそも星見を戦力と数えてる者は誰もいなかった。
だから戦闘にはほとんど参加してこなかった。
しかし、レヴァンは己を戦力として数えている。
そして今、レヴァンは本当に自分の横に立つに相応しいかどうかを試している。
そう感じるリュネはスリングを握ってる手に力がより一層入る。
「避けろっ!!」
レヴァンの声にリュネは、はっと顔を上げると目の前には面積を広げ自分を包まんとするスライムが眼前に迫っていた。
「くっ……」
リュネは咄嗟に体勢を崩し難を逃れる。
スライムは元の大きさに戻りポヨンと跳ねていた。
「戦闘中に相手から目を離すなっ!!死ぬぞ!!」
「す、すいません!!」
リュネは慌ててスライムに攻撃をする。
弾かれる。
「あっ……」
レヴァンは呆れ返って目を閉じた。
それからリュネとスライムの戦闘は日が暮れるまで続いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
リュネは手と膝を地面につけ、息を切らしていた。
額からは汗がポタポタと大量に落ちてきていた。
レヴァンは、ちょうどいい岩に腰掛け冷めた目で事の成り行きをずっと見守っていた。
最終的には石を連続で放ち同じ場所に何度も当て、核があらわになった所にダメ押しの一発おみまいして何とか勝てた。
(狙撃の腕は目を見張るものがあったが……スライム一匹にここまで苦戦するとは……)
レヴァンはこれからの旅を考えるとどうしたものかとまだ立ち上がれないリュネを見て思った。
レヴァンは空を見上げながら、やはり次の町か村で別れた方が……と頭をよぎる。
(それに問題は、スライムを倒すのに苦戦した事じゃない、真の問題は……)
色々な事が頭を駆け巡るが答えが出ず、視線を下に戻すとリュネが土下座をしていた。
レヴァンは驚き目を見開いたが、何も言わずリュネが話すのを待っていた。
「不甲斐ない所をお見せしてしまって申し訳ありません」
頭を下げたまま話すリュネ。
「それで?」
「実力が全くないのは重々承知しています。それでも、それでもレヴァンさんの旅のお供を続けさせていただけないでしょうか……」
今にも消え入りそうな声にレヴァンは顎を触りながらしばらく考えた。
「正直に言えば、お前さんは冒険者のレベルにすら到達できていない」
「はい……」
「そんなお前さんを連れて行くのはリスキーだと思わんか?」
「思います」
「自分でもそう思っているのに、わざわざ私がお前さんを連れて行くメリットは?」
「……」
「別に星見としての役割も私自身で事足りている。じゃあお前さんを連れて行く意味は?役割も果たせない。戦う事もできない。ただの”同行者”はいらない」
レヴァンは淡々と話し、リュネは何も言えず、ただ頭を下げてる事しかできなかった。
レヴァンが立ち上がる気配を感じたリュネは頭を上げた。
リュネの目に飛び込んできたのはとても冷ややかな目をしたレヴァンの顔だった。
レヴァンは地図を指でなぞりながら話した。
「ここから近いのは、タフティー村だな。そこまでは”同行”しよう。そこからは身のふりを考えなさい」
レヴァンの冷たい言葉にリュネはただ立ち尽くすしかなかった。
レヴァンは肩掛け袋を持つと、ゆっくり歩き始めた。
リュネはその後ろを黙って歩くしかなかった。
タフティー村までの道中、レヴァンは時折少し振り返り横目でリュネを見るが沈痛な面持ちだった。
レヴァンがじっと見ている事にも気づかないほど落ち込んでいた。
そしてそのままタフティー村に到着した。
「あっ……」
リュネは村に到着したのに気づくと力無く顔を上げた。
レヴァンは無視し村の中に入っていく。
「レヴァンさん……」
弱々しく声をかけるリュネにレヴァンは立ち止まった。
「何だ?」
レヴァンの射抜くような目にリュネは言葉を詰まらせた。
リュネは旅を一緒に続けたいと言いたい。
だが、自分の実力ではどう考えてもレヴァンの足手纏いにしかならないと分かってる。
一緒にいたい、でも迷惑をかけたくないと二つの気持ちがリュネの中でせめぎ合っていた。
そんな様子に見かねたレヴァンは一つ息をついた。
「たった数日の旅だったが、悪くはなかった。”身のふり方”が決まったのなら、私の元を尋ねなさい。待っている」
それだけ言うとレヴァンは村の中に入っていった。
「身のふり方……」
リュネはどうするべきなのかと空を見上げるのだった……。




