第十一話:求めるモノ
身のふりかたを考えなさい。
タフティー村に着いた直後にレヴァンに言われた言葉が頭から離れないリュネ。
石段に座り、俯きながら頭を抱えていた。
(どうしよう、どうしよう。このままじゃ私、レヴァンさんと冒険が続けられない……)
リュネは体を震わせ涙をポタポタと流した。
「お嬢ちゃん大丈夫かい?」
リュネの様子に心配になった初老の男性が話しかけてきた。
「ごめんなさい。ちょっと仲間と揉めちゃって……(向こうは仲間とも思ってないかもだけど……)」
リュネは涙を拭いて笑顔を見せた。
だが、強がってるのは誰が見ても明らかだった。
「仲間?君のおじいちゃんじゃないのかい?」
男性は二人の村の入り口でのやり取りを少し離れた場所で見ていたと話した。
「やっぱり側から見たらそう見えますよね。ははは……」
リュネは苦笑いした後、大きなため息をついた。
「何にせよ、もう日が落ちる。この村に変な奴はいないけど、早めに宿に行きなよ?部屋でじっくり考えな」
西の空は群青色になり星が見え始めていた。
「そうですね。お気遣いありがとうございます」
リュネは力無く立ち上がり、ふらふらと歩き始めた。
「宿こっち!!」
男性はリュネが歩いてる方向とは別の方向を指で差した。
リュネは「あ……」と小さく頭をぺこりと下げ男性が指差した方向にふらふらと歩いた。
本当に大丈夫か?と男性はリュネの後ろ姿が見えなくなるまで見守っていた。
とりあえず宿に辿り着き、部屋に入ってシャワーを浴びベッドに顔から飛び込んだ。
宿はこの一つしかないのでレヴァンと顔を合わせないかとドキドキしたが、幸か不幸か合わずに済んだ。
ゴロンと仰向けになりこれからの事を考え始めた。
(やっぱり私が弱すぎるから呆れたからだよね……。そりゃあそうか。スライム一匹にどんだけ時間かけてんだって話だよね)
昼間の事を思い出すとまた涙が込み上げてきた。
(一緒に冒険続けたいよぉ。でもこんな弱い私が一緒にいたってレヴァンさんの足手纏いになる……)
リュネは鼻をすすりながら天井を眺める。
(初めてだった。もしかしたら私と同じ景色を見てくれるかもしれない人……)
リュネはたくさんの冒険者と冒険してきた。
でも、誰も星空に興味がなかった。
誰も空を見なかった。
誰も立ち止まらなかった。
誰も星を語らなかった。
レヴァンだけが歩みを止めて、夜空を見上げ星を眺めていた。
星を眺めてる時の彼は優しい表情を浮かべるが同時に悲哀の表情も見えた。
理由は分からないし聞こうとも思わない。
だが、星に並々ならない想いがあるのだけは分かる。
だからこそ、自分は一緒に見てみたい。
レヴァンが探してる星を。
(そのためにはレヴァンさんに認めてもらわなくちゃ!!メソメソしてる場合じゃない)
リュネはベッドから起き上がり拳を握った。
「やるぞーーーーー」
部屋の外まで響く声でリュネは決意をした。
ちょうどリュネの部屋の前を通ったレヴァンが彼女の部屋の扉をしばらく見て、目を細め何も言わず立ち去った。
翌朝
リュネは村から少し離れた草原にいた。
(少しでも強くなるんだ!!レヴァンさんに認めてもらうために)
リュネは目を閉じ風を全身で感じていた。
風上から魔物の気配を感じる。
スライムじゃない。
リュネがそう思っていると草むらからホーンラビットが飛び出してきた。
額に鋭いツノがついてるウサギの魔物。
リュネは腰袋からスリングを取り出しホーンラビットに向かって構えた。
リュネの戦意を感じたホーンラビットはリュネに一直線に向かってきた。
スリングに石を乗せ、すぐさま放つ。
ホーンラビットは右に避け、石は草むらの中に消えていく。
リュネは次の攻撃をするために袋の中にある石を取り出そうとホーンラビットから一瞬視線を外した。
その隙をつきホーンラビットは速度を上げリュネに向かってツノを向け突進してきた。
リュネは間一髪でホーンラビットの攻撃を避けるが左足にかすり傷を負った。
ホーンラビットはすぐさまリュネの方に振り返り、次の攻撃体勢に入っていた。
(早い!!全然、的が絞れない……)
リュネはスリングをホーンラビットに向けるが予測不能な動きに翻弄される。
ホーンラビットはリュネに向かってツノを何度も突き刺そうとしてくる。
リュネは全てギリギリで避けるため体が傷だらけになっていく。
(見ろ!!ホーンラビットの動きを!!)
リュネはホーンラビットの動きを観察した……いや、観察しすぎた。
観察する事に夢中になりすぎ自分の胸を目掛けツノが襲いかかってる事に気づくのが一瞬遅れた。
致命的。
油断していたわけではない。
でも一瞬の選択の間違いが生死を分ける。
もう自分一人でどうにか出来る状況ではなかった。
この迫り来るツノを受け入れる選択肢しか残ってなかった。
その時、襟をすごい力で引っ張られるのを感じた。
思いっきり後ろに引っ張られ尻餅をつくと同時にホーンラビットの体から血飛沫が上がっていた。
ーーギイィイィ
小さな断末魔をあげたホーンラビットは息絶えた。
リュネの目の前にはレヴァンがいた。
「レヴァンさんーー」
リュネはレヴァンが助けてくれた事が嬉しくて立ち上がるとーー
「何を考えている!!!」
レヴァンはリュネを睨みつけながら怒声を草原に響き渡たらせた。
リュネはあまりの迫力に体がすくんだ。
よくよく見るとレヴァンは息が上がり大量の汗が額から流れていた。
レヴァンは古傷のある右足を押さえながら膝をついた。
「だ、大丈夫ですか……」
「誰のせいでこうなってると思ってるんだ」
先ほどよりトーンダウンしたレヴァンが苦悶の表情を浮かべながらリュネを見た。
「ご、ごめんな……さい……」
リュネは肩を震わせながらどうしたらいいか分からず呆然と立ち尽くしていた。
「とりあえず、この場を離れるぞ。さっきのホーンラビットの血に引き寄せられて、他のホーンラビットが来る」
「あ、あぁ……ああ……」
動揺してレヴァンの言葉が届いてないのかリュネはあたふたしていた。
その様子を見てレヴァンは舌打ちをし、リュネの腕を強く掴んだ。
「さっさとせんか!!死にたいのか!!」
ようやくレヴァンの言葉が届いたリュネは自分の肩を貸しレヴァンを運んだ。
約一五〇センチほどのリュネが一八〇センチ近くあるレヴァンを運ぶのはなかなか骨が折れる作業だったが、何とか村の入り口まで運ぶことが出来た。
二人を見つけた村人が慌てて駆け寄ってきた。
「あんたら大丈夫か!?」
レヴァンは息を切らしながら答えた。
「私は足が痛むだけで大丈夫だ。それより彼女を……」
レヴァンが村人の視線をリュネに集中させると、傷だらけのリュネを見て、急いで他の住民を呼びに行った。
村人たちはリュネを担架で診療所に運んで行った。
レヴァンは両脇に抱えられながら診療所に運ばれた。
運ばれた二人は村の医者に見てもらった。
リュネは傷こそ多いが全てかすり傷なので大したことはなかった。
レヴァンはしばらく休んだら大丈夫だと言い、そのまま眠りに落ちた。




