第十二話:答え
レヴァンが次に目覚めたのは日がちょうど傾き始めた頃だった。
レヴァンが目覚めたのに気づいたリュネはレヴァンの手を強く握りしめた。
「良かった、本当に良かった……」
リュネの両頬に涙が伝い落ちた。
リュネが安堵しているとレヴァンは彼女の手を振り解き、助けた時と同様鋭い目つきで彼女を睨んだ。
「どうしてあんな危ない真似をした?」
「私が間に合わなかったらお前さんは死んでいたのだぞ?」
「本当に、ごめんなさい……」
リュネは消え入りそうな声でつぶやいた。
「謝罪じゃない。私は何であんな事をしたのか聞いているんだ」
「レヴァンさんに認めてもらいたくて」
リュネの答えにレヴァンは呆然とし天井を見上げた。
「何て馬鹿なことを」
レヴァンは思わず口走った。
「ごめんなさい……」
リュネの姿を申し訳なさそうな姿を見て、レヴァンはそれ以上は責めなかった。
一つ息を吐いた後レヴァンは静かに尋ねた。
「何故、私に認めてもらいたかった?」
「レヴァンさんとこれからも一緒にいたくて……」
「何故?」
「レヴァンさんが探してる星を私も見たくて」
「何故?」
「そんな体なのにそれでも諦めずに探してる星。きっととても綺麗なんだろうなって……」
「お前さんの目的は一番星が綺麗に見える場所だろ?」
「あります!!」
リュネはまるで知ってるかのようにはっきりと答えた。
「何?」
「私が目指してる場所。レヴァンさんが探してる星。私たちの求めているものは同じ場所にあります」
「何故そう言い切れる?」
「直感です!!」
リュネの言葉に絶句するレヴァン。
しばらくしてレヴァンは豪快に笑った。
リュネは初めて見るレヴァンの顔に呆気に取られた。
「直感ときたか」
レヴァンはひとしきり笑った後、リュネと真剣な面持ちで向かい合った。
リュネも何かを察し引き締まった表情で向かい合った。
「身のふりかた……。ちゃんと考えたじゃねえか」
レヴァンの口調が粗雑に変わった。
「え?」
「私と一緒にいたいんだろ?」
「はい」
今までの口調とあまりの違いにリュネは内心ドキドキしていた。
「それがお前さんの答えだ」
リュネはレヴァンのニヤリと笑うその顔を見て認められたみたいで瞳がうるんだ。
「だが、強くなるって選択は半分間違ってたな」
「半分?」
レヴァンはリュネの問いに大きく頷いた。
「強くなろうとしたその気概は買ってやる。だがな、何故一人で強くなろうとした?」
レヴァンの鋭い眼差しにリュネはドキッとした。
「それは……、一人で強くなってレヴァンさんに認めてもらいたくて」
「一人で強くならないと認めてもらえないのか?それに結局強くはなってないよな?逆に死にかけた」
レヴァンの指摘にリュネは何も言えず俯いた。
「あの日、酒場で言ったはずだ。『いつ死んでもいい覚悟なんて、立派なものじゃない』と」
「私、いつ死んでもいいなんて思ってません!!」
リュネははっきりと否定した。
だがレヴァンは首を横に振った。
「お前さんの今朝の行動はそれと同じだ。私に認めてもらいたい。私と旅を続けたい。そのためには強くならないといけない。強くなるためには実戦で経験を積む。だから魔物と戦う。一人で。生きるための行動とは思えんがな」
「だったらどうしたら良かったんですか!?」
レヴァンの言葉に語気を強めるリュネ。
「私と一緒にいたい。そのために強くなりたい。だから魔物と戦いたいから付き合ってほしいと。これだけでいいのではないか?」
「突き放した相手にそんな事頼めないですよ……」
リュネは膨れっ面になりながらレヴァンを睨む。
「目的のためなら恥も外聞も捨てろ。少なくとも私はそうやって今まで生きてきた」
「そんなに強いのにですか?」
レヴァンは大きなため息をついた。
「私を何だと思ってるんだ?強さを求めていた時はどんな事もやってきた。このやり方に何の意味があるのかと、教えてもらってる分際で楯突いた時なんて数え切れないほどだ。でも自分が間違ってると気づいた時はすぐに頭を下げた。相手は絶対許さんって感じだったが、私は許してもらうまで何でもした……」
「何でそこまで強さを求めたのですか?」
リュネは小さく首を傾げ尋ねた。
横目でリュネを見るレヴァンはフッと笑った。
「言っただろ。強さを求めてたからだ。私が若い時は強くなくては怯えて暮らす日々だったからな」
レヴァンは遠い昔に思いを馳せながら窓の外を眺めた。
「レヴァンさんの若い頃?」
「魔王がいた時代さ」
魔王。
実在していたのは知っているがリュネのように今を生きている若者たちにとっては御伽話に出てくるキャラクターのような存在でしかなかった。
レヴァンは本物の魔王がいた時代を生き残ってきた人間。
どれほど過酷な人生を送ってきたのだろうかと考えずにはいられないリュネだった。
「話が脱線したな。まあ目的のためなら手段を選ぶなという事だ。それにお前さんは強くなろうとしてるが自分の弱さをどこかで認めたくないと思ってるふしがある」
「そんな事……」
はっきりと否定できない自分がいる。
いくら星見(見習い)と言っても冒険者だ。
それなりの実力をつけている……つもりだった。
自分は色々な冒険者と冒険をしているうちに勝手に強くなってると大きな勘違いをしていた。
実際は一人じゃ何もできないただの小娘。
レヴァンはその現実を突きつけたのだ。
「お前さん、スライムに囲まれて逃げ回ってる時に私の事をチラチラと見ていたのに気づいてたか?」
リュネは驚き口を押さえた。
逃げ回るのに必死で全く気づいてなかった。
だからあの時レヴァンはこっちに来るように呼んだのかとようやく気づいた。
「どう戦えばいいのか考えもせず、ただ私に助けを求めてるのがひしひしと感じた」
「はい……」
「私が全部倒しても良かったし逃げるという選択肢もあったが、あの時はお前さんの本性を見せてもらうためにあえて一匹お前さんの方にやり追い詰めさせてもらった」
リュネは緊張で喉を鳴らした。
「結果、倒せたのは倒せたが、最後まで私に頼ろうとする姿勢は消えなかった……。それで私はこのままではダメだと思った」
「私がレヴァンさんに最後まで縋ろうとしてたから……」
レヴァンは静かに頷いた。
「協力ではなく最後まで頼ろうとした。これから先もこれが続くのかと考えた時、私には荷が重いと思った」
リュネはレヴァンの話を聞き自嘲し、頭を垂れた。
「レヴァンさんの判断は正しいです……。もし私がレヴァンさんの立場だったら、即刻見放します」
リュネは肩を震わす。
レヴァンの心中、己の不甲斐なさを思うと彼の判断は至極当然だ。
また涙が溢れそうにあるが、自分にはそんな資格はないとリュネは自嘲するしかなかった。
レヴァンはそんな事を考えてる彼女の肩に、ぽんと手を置いた。
リュネが顔をあげるとレヴァンが真顔で見ていた。
「悔しいか?」
その言葉に我慢していた涙がぶわっと溢れ出した。
「はい」
リュネは振り絞るように声を出した
「その気持ちを忘れずにいられるならもう一度チャンスをやろう」
「ありがとうございます」
「だが、次はないからな」
「はい」
レヴァンは話し終わると窓の外を眺めた。
窓の外はすっかり暗くなり、星が瞬いていた。




