第六話:王都からの使者
レヴァンは頭を押さえながら目を覚ました。
昨夜の酒がまだ残っており、軽い頭痛がしていた。
頭痛で目を覚ましたのなんて何十年ぶりだと思いながら、身支度を整えた。
朝食を取るために下に降りると、外の様子が少し騒がしい事に気づき、窓からそっと覗くとこの村に似つかわしくない集団がいた。
ざっと三十人程の白馬に乗り白銀の鎧に身を包んだ兵士たちの姿が村の中央広場から散開し、村にいる者を集めていた。
来たか……とレヴァンは思った。
この宿屋の中にも入ってきて、すぐに集まれと命令され、朝食がまだなんだがなと思いつつレヴァンは指示に従い、村の中央広場に向かった。
レヴァンが到着する頃には村の大半の人が集められ、何事だと各々が互いに話し広場はざわついていた。
リュネが前の方にいるのに気づき、見ていると向こうもこちらに気づき、近寄ってきた。
「レヴァンさん。おはようございます。あの人たち何なんですかね?」
「すぐに分かるよ」
レヴァンは彼ら……というかあの集団に見覚えがあった。
そろそろ来る頃合いだとは思っていた。
彼らが来る前に村を出たいと思っていたレヴァンは大層面倒くさそうに頭をポリポリとかいた。
大きなため息をついてると、兵士の一人が大声を上げた。
「我々は王都エストレージャからやってきた王国騎士団だ」
王国騎士団がこんな辺鄙な村にどうしてと村人たちはざわつく。
「集まってもらったのは先日の”魔物”の騒動についてだ」
ざわめきは更に大きくなり、兵士たちを怪訝に見る者たちもいた。
レヴァンは”魔物”というワードに引っかかりはしたが、今は無駄な騒ぎは起こしたくないと静観を決め込んだ。
「良いか。あの魔物については他言無用だ!!もし誰かに話したのが分かったら、それ相応の処罰を受けてもらう」
村に緊張感が走る。
が、すぐに納得できないと声が上がる。
ーーふざけるな、説明しろ、いきなり来て何なんだ、偉そうに、お前たちに何の権限があるんだ、と。
あちこちから次々と声が上がる。
レヴァンはそんな説明だけで納得する人間などいるはずがなかろうにと、呆れながら見守っていると三十前半に見える優男が兵士の隣に歩いてきた。
身につけてる鎧に所々金の装飾がされてるのを見るに彼はこの騎士団の団長みたいだとすぐ察した。
「君。そんな言葉だけで納得する人間がこの世にいると思いますか?我々はお願いする立場です。彼らへの無礼は許しませんよ」
「も、申し訳ありません」
団長は兵士を諭し後ろに下がらせた。
この男はまだ話が分かりそうだなとレヴァンは評価する。
そして団長をやるだけの事はあり、それなりの実力を持ってると立ち振る舞いや纏っている気配で分かった。
「私めの部下が失礼いたしました。私はエストレージャ王国、第一騎士団団長リオン=プレイヤードと申し上げます。私めから改めましてご説明をさせていただきますので、どうかご清聴いただけませんでしょうか」
とリオンは頭を村人たちに下げた。
そんな偉い人に頭を下げられては何も言えないと村人たちは静かになった。
「ありがとうございます。それではーー」
リオンはあの魔物が星獣という特殊な存在だという事、滅多に現れないので存在を知らない人たちに無用な不安を与えたくないということ、そのために見た事は黙ってていてほしいことを説明した。
村人たちからはなぜ隠すのか?冒険者たちが束になってやっと勝てた魔物なのだから存在は世界中に知らせるべきではないか、星獣についてもっと詳しく説明しろなど、矢継ぎ早に説明を強いられる。
冒険者たちは先の星獣との戦いの際、レヴァンに緘口令が敷かれると聞いていたので静観していた。
リオンは答えれる範囲で星獣について答えるが、それだけでは到底納得できない村人たちの声は徐々に怒気を含み始める。
レヴァンはその様子を後ろの方から見守り、少々不憫だと思った。
「先ほどもご説明させていただきましたが、星獣は極めて稀な存在です」
「無用な混乱を避けるため王都で管理しています。これ以上皆様に害が及ぶ事はありません」
「なので口外を控えていただきたいのです」
先ほどとほぼ同じ説明に村人たちは信じられるか、あの化け物が現れないんて保証はどこにもないなど、更にヒートアップする。
これ以上は暴動になりかねないと、レヴァンが前に出ようとした時、リュネがリオンの前に立った。
「皆さん。一旦落ち着きましょう」
少女の声に全員が注目した。
「不安な気持ちは分かります。私も目の前で星獣と対峙しました。とても恐ろしかったです。勇敢に戦ってくれた他の冒険者の皆さんも同じ気持ちだったと思いますし、死者も出ました」
「村もめちゃくちゃにされました。でもここで騎士団の皆さんに文句を言っても何も始まりません」
「文句を言ってもしょうがないとあなた方が一番分かってるはずです」
リュネの言葉にトーンダウンするものの、それでも、じゃあどうしたらなど不安や不満な気持ちを吐露する。
リュネは優しい表情を浮かべ話を続けた。
「最初の兵士さんは論外ですが、この団長さんもまだ言葉足らずだと思います。でも皆さんの不安や不満な気持ちを解消するためにこの方たちは来てくれたんだと思います。だからもう少し冷静になって話を聞いてみませんか?」
その言葉に村人たちは分かったと落ち着きを取り戻した。
まだ成人もしていない少女に諫められては立つ瀬がないと顔を逸らすものもちらほらいた。
リュネはリオンに少し振り返りウインクをする。
リオンは苦笑いしながらリュネに頭を下げた。
「重ね重ね申し訳ありません。あなた方の不安な気持ちが想像できておりませんでした。少し想像すれば分かる事なのに……。ただ言われた事だけを伝えるなど愚の骨頂。しかもそんな簡単な事を一人の少女に気付かされるなんて」
リオンは深々と頭を下げ、続くように他の兵士たちも頭を下げた。
仕方のない事だ。
最後に星獣が現れたのなんて数十年前だ。
彼らは生まれてもいないし、星獣の脅威も知識もおそらく入団した時に少し机の上で学んだ程度だろ。
そして上に口外するなと言ってこいと命令されてやってきた。
彼らは村の惨状は理解してるが、星獣の脅威に関してはおそらくまだ理解できてないだろうし、理解できる日も来ないだろう。
星獣はイレギュラーな存在。
今回現れた事で向こう数十年は現れないだろうし、一部を除いてまた時の彼方に忘れ去られてしまう存在。
ーー仕方のない事だ。
それに星獣など二度と現れない事に越した事はない。
それは未練を残さずちゃんと空に還ってる事に他ならないからだ。
村人たちや冒険者たちと騎士団が話し合いをしてるのを後ろで見守っているレヴァンの横にリュネがやってきた。
「皆さん落ち着いてくれて良かったです」
「君のおかげだな。良い演説だったよ……」
目を閉じ柔らかな笑みを浮かべるレヴァン。
「ありがとうございます。でも演説だなんて。私は自分が思った事をそのまま伝えただけですよ」
リュネは目を細めながら微笑む。
「村の皆さんが耳を傾けてくれたおかげです」
「そうか……」
レヴァンはリュネの頭を優しく撫でる。
顔を真っ赤にしながら恥ずかしがるリュネにレヴァンは大きく口を開けて笑い、それにつられ彼女も一緒に笑った。
一通り話がまとまったのか村人たちや冒険者たちが散り散りになり始めた。
リュネの元に村の人がちらほらやってきて、お礼を述べていった。
彼女はそんなそんなと慌てるもお礼を素直に受け取り、その後冒険者たちに一杯奢らせろと拉致されていった。
助けてと目で訴える彼女にレヴァンは冒険者同士の付き合いを覚えてこいと見放した。
そんなーーーーーと悲痛な叫びと共に冒険者たちと共に酒場の方へ消えていった。
自分も朝食がまだだったなと思い出し、宿に戻ろうとした時後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは騎士団長リオン=プレイヤードだった。
周りを見渡して警戒するが、ここには彼一人だけしかいなかった。
「私の部下たちには村の現状を調べるよう指示しました」
レヴァンは少し警戒を解きリオンに尋ねた。
「こんな老ぼれに何かご用かな?」
「今回の星獣の騒動、収めてくれたのはあなたですよね?」
確証はないが確信はあるかのような言葉にレヴァンはリオンを見た。
「何故、そう思うのだね?」
「王城で従事されている”あるお方”が出発前に私を呼んで言ってきました」
『星獣が星送りされた。僕や僕が教えてる弟子以外でそんな芸当やってのけるのは一人しかいない……』
「【落星】のレヴァン……。五十年前、魔王を討伐し、”あの惨劇”を鎮めた伝説の英雄」
レヴァンは目つきが鋭くなった。
「あなたがそうですね?」




