【おばあちゃん】
pixiv公式企画『pixiv1000字ショート~切ない~ 』へ参加した作品の再掲です。
20240924 pixiv投稿。
これも一つの『切ない』ではあるかな、と。
あなたのしわくちゃの手のひらが好きでした。
会いにいく度やさしくなでてくれて、おいしいおやつをこしらえてくれる。
二本の棒でスルスル毛糸を操り、いろんなものを作りだす魔法のような手。
あなたのしわくちゃの顔が好きでした。
いつも機嫌がよさそうで、ほそまった目じりの深いしわと、笑みの形で固まったほうれい線がとてもかわいくてこんな顔になりたいなってずっと思ってた。
とても丁寧に生活をしていた。
毎日玄関を掃いて、埃を上から落としてから掃除をして、お仏壇の花の水は毎日変えて、お味噌汁の具は同じものを続けない。
夜はしわくちゃの顔にしっとり化粧水をしみこませてから寝ていた。
道で知り合いに会えば朗らかにあいさつをして、お友達とのおしゃべりは軽やかな笑い声を立てて、内緒のつまみ食いの時は愉快気に声を潜めて、怒るときだって声を荒げない。
あなたの穏やかな性格そのままの声が大好きでした。
《ガシャーンッ!》
「お母さん! やめて!」
「******!!! ***!! *****!!!!!」
意味をなさない奇声と悲鳴、ものが割れる音が、祖母が丁寧に暮らしていた家に響く。
孫は、暴れる祖母とそれを抑えようともがく母親の格闘を呆然と眺めるしかできなかった。
毎日丁寧に掃かれていた玄関には、積もった塵と出しそびれたゴミ袋が重なり異臭を放っていた。
仏壇の花は腐り落ちて畳に染みを作り、整然としていた室内はしっちゃかめっちゃかで足の踏み場もない。
祖母に認知症の兆候が出てきたと聞いたとき、孫は楽観的だった。
祖父亡きあと何十年も一人暮らしをしているしっかり者の祖母だったので、しばらくは大丈夫だろうと。
何が大丈夫なものか。
笑いじわの刻まれた目じりを吊り上げ、穏やかな言葉しか吐かなかった口からは聞くに堪えない罵声をがなり、魔法使いのようだと思っていた優しい手は娘である母を殴りつけている。
おばあちゃん。
おばあちゃん。
母親からのSOSに駆け付けたのが遅すぎたのだろうか。
もっと見舞って、話し相手になっていれば、進行は遅かったのだろうか。
祖母の「大丈夫」を信じすぎてしまったのだろうか。
おばあちゃん。
おばあちゃん。
優しかったころの面影を失いたくなくて、孫はぎゅ、と瞼を閉じる。
そして現実を見据え、母に手を貸すべく一歩踏み出した。
老いは避けられず、病もかかるときには避けられえぬものであります。
以前と今の乖離が激しいほど「何故」が積み重なって、悲しく、寂しく、やるせなく、切ないものなのではないかな、と。私見ですが。




