【勇者の約束】
pixiv公式企画『pixiv1000字ショート~切ない~ 』へ参加した作品の再掲です。
20240929pixiv投稿。
「どこへなりと行けばいいじゃない」
突き放すような幼なじみの少女の言葉に、彼はへんなり眉を下げた。
「その《勇者》って、貴方じゃなきゃダメなわけ?」
「どうなんだろ。でも、この村から一人は連れて行くみたいだから」
王都から村に《勇者》捜索の一行が来た。この村に《勇者》となるべき人物がいるという。
《勇者》の証である聖剣を抜いたのは、彼だった。
それから彼女はずっと怒っている。
「魔王って強いんでしょ」
「だろうね」
「貴方、鎌と鍬しか持ったことないじゃない」
「聖剣って鍬より軽かったよ。鎌よりは重いけど」
そういうことが言いたいんじゃない。
「手紙書くよ」
「いらない」
「君、筆不精だしね」
「なんでそんなこと知ってんのよ」
「日記、三日と続いたことないじゃない」
「見たのね?!」
「あヤッベ」
口を滑らせた彼は彼女をますます怒らせた。
「おみやげ何がいいかな」
「いらない」
「そう言うなよ。何か、約束が欲しいんだよ」
「――……なら、」
彼女のわなないた唇からこぼれたのは。
「私の知らないところで死んで」
手紙もおみやげも何もいらない。
生きて帰ってきて。
それができないなら、何も知らせないで。
訃報も亡骸もいらない。
生きて、帰ってきて。
ついにぼろぼろ泣きながらされた懇願を思い出しているのは、これが死に際だからなのだろうなと、彼は思った。
鼻血が止まらないし、咳きこむたび喉を焼く瘴気に体の内側からぐずぐずにされているのがわかる。
長旅を共に続けた仲間たちは点々と倒れ伏している。皆ズタボロで、ピクリとも動かない。
魔王は生きている。
死力を尽くしたけど、ダメだった。パーティは全滅した。彼ももうすぐ死ぬだろう。
魔王討伐の失敗は、すぐさま大陸中を駆け巡るだろう。彼はぼやける視界で空を見る。胸騒ぎが収まらない不思議な色の空。
あー、どうしよ。約束守れないな。
絶対知られちゃうし。たぶん遺体も回収できないだろうし。ダメじゃん。約束全滅じゃん。
帰ったら言おうと思ってたのにな。結婚しよって。
小さいころの約束通り、俺が婿に行くからって。
彼女が不安にならない未来が欲しくて勇者になった。
何も成さないまま死ぬはめになった勇者は、乾いた笑いを上げて、静かに息を引き取った。
勇者の彼は、自分たち一行が捨て駒なのわかってた。
魔王と呼ばれるモノが、ヒトや動物に対して有害であることは事実でも、それが自然発生している時点で世界の意志である。
ならなんで《勇者》がひつようであったかというと、大陸各国の上層部と神殿の民衆に対するパフォーマンス。自分たちも対策はしてるんっすよ~という。これが吉と転ぶか凶と転ぶかというと、凶でしかないよね。下手すりゃ大混乱と暴動が起きる。討伐失敗した時点で確定未来。終末時計がぐんぐん進む。
幼なじみの彼女は、彼の生死をほんとうに知りたくない。
知らなきゃ望みはあるものね。
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