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pixiv1000字ショート:テーマ【切ない】  作者: 唐子


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【私達、幸せな季節を巡りました。】

pixiv公式企画『pixiv1000字ショート~切ない~ 』へ参加した作品の再掲です。

20240909 pixiv投稿。


※ 第二次世界大戦中の、空襲の描写があるので、苦手な方は自衛してください。



 春は桜。

 花びらまみれになって子犬が戯れるように笑いあった春の日。


 夏はとうもろこし畑。

 貴方の姿を見失って泣いた私を迎えに来てくれた夏の日。


 秋は金木犀。

 頭に降り注いだ花に顔を寄せて香りを嗅ぎあった秋の日。


 冬は火鉢。

 蛸唐草模様のどこかに本当の蛸の足があるといわれて二人で探した冬の日。




 嫁に来いと言ってくれた春。


 暑さで溶けた化粧でもきれいだと言ってくれた夏に祝言を挙げて。


 秋に貴方は遠い南方へ行ってしまって。


 冬には、一枚の紙切れしか返ってこなかった。



 ねぇ、貴方。



 春は嫌い。

 桜が舞い散るたび摘まんで取ってくれた貴方の指先を思い出すから。


 夏は嫌い。

 束の間だったけど確かに幸せだった夫婦の時間がここに凝縮してるから。


 秋は嫌い。

 必ず帰ってくるなんて、嘘をついた貴方を恨んでしまいそうになる。


 冬は、ふゆは……。



 轟々と燃え上がる家屋があまりに熱くて、今が冬であることを忘れてしまいそうになる。

 怒号、悲鳴、崩れる音、割れる音。崩れた家の下敷きになってしまったので、音でしか周囲を探れない。でも、それももう聞こえずらい。


 ねぇ、貴方。

 お婆様が教えてくれた火鉢の模様。どれだけ探しても見つけられなかった蛸の足。

 あれ、火鉢の底にありましたよ。灰を掻き出して、ひっくり返さなきゃ見つけられなかった。空襲で爆弾が落ちる今の今まで、わからなかった。


 ねぇ、貴方。

 こんなところにあったのかって笑いあいたい。

 庭に金木犀を植える約束でした。

 茹でたとうきびに塩を振りすぎて笑われたの、まだ許してない。

 隅田川に花見に行くって、その時には家族が増えてるといいねって。



 ねぇ、貴方。


 あつい。こわい。いたい。いきができない、こわい。いたい。あつい。貴方。ねぇ、あなた。



 いま、そちらに参ります。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

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