5.世間の声 新たなヒロイン
倒れた鬼。
歓声が上がる食堂。
遊星が叫ぶ。
「うるせぇ!!!」
瑠衣のとの交信が聞こえず焦る。
「瑠衣、聞こえるか?」
《……大丈夫。疲れただけ》
「無理をさせたな」
キリングマニューバは本来トレーニングで発揮する100%の動きを元に、120%まで能力を引き上げる。
身体への負担が大きい。
「……瑠衣、今の動きは」
《お父さんの技だよ。あれしかないと思った》
緋山崇にできなかったことを、娘の瑠衣がやり遂げた。
それを可能にしたのは魔力の集中による斬撃だ。
「『扇の二・刃の型』、よくできたな」
《できるよ。最高のスーツが導いてくれたからね》
前面に意識を集中させ、薄くなった後方、首に刃を通す。
回転による遠心力、体重移動、見切り、槍の撓り。
そこに、魔力制御を合わせ放つ奥義。
『全撃』
「瑠衣、ありがとう」
《こちらこそだよ》
遊星と瑠衣の会話はスーツのバッテリーが無くなり途絶えた。
◇
テレビはこぞってこの奇跡を報道した。
それは日に日に勢いを増し、しばらく朝のニュースの話題を独占していた。
『日本での「支配者階級」のソロ討伐は、如月弥生さん以来であり――』
『八王子ダンジョン協会の影ながらの協力に賞賛の声が挙がっており――』
『富士サンロクグループのサポート体制について一次トラブルがあったとの報道も』
『新たなヒロイン、緋山瑠衣さんの経歴を! なんと、元読者モデルですって!! 確かにスタイルいいですもんね―――』
ネットやSNSでは配信映像を元に分析をする者が現れた。
〈死角から首を両断〉
〈鎧の隙間を狙ってる〉
〈フェイントモーションから背後に回るのすごい〉
〈動きの緩急がヤバい〉
〈人工知能のオート連動が特別っぽいな〉
〈いやデータ処理を軽くして、別プログラムで補正しているって感じか〉
〈富士サンロクにバグらないまともなプログラムがあったとは〉
〈いつ公開? 一般販売は?〉
そこには遊星によるハック、サポートについての情報は無かった。
〈今回は不可解な点が多い。大江山の混乱とサポートの機能不全は偶然か?〉
〈仮に『メンテの人』を狙って画策したならヤバいだろ〉
〈低ランカーのトレインが原因の事故だしな〉
〈噂だけど、今回原因になった低ランカー以外にも、DMがあったらしいよ〉
『メンテの人』を捕まえるための強引な手法。
様々な憶測が飛び交い、協会への非難が再燃。
対応を迫られたのは海藤だ。
◇
海藤は『鎧鬼』の首が落ちるのを見て、デスクに両腕を叩きつけた。
「月本……ただじゃ済まさねぇからな……」
「海藤さん、マズいですよ。これ以上は」
「うるせぇ! 計画はまだ途中なんだよ!!」
海藤はこういう時のために、切り札を用意していた。
「奴は!?」
「まだ食堂に」
「おい、お前、月本遊星の使っていたデスクを調べろ!」
「は?」
「いいから早くやれよ!!」
海藤の恫喝で、職員が隅にある書類の山に埋もれたデスクを調べ、PCを開いた。
「あ、何かあります!!」
海藤はにやりと笑った。
(これはあいつの自作自演。低ランカーをそそのかしたのはあいつで、計画が邪魔されたのは不可抗力だ。責任は奴を推薦した笠原に取らせる。それで、おれの首はつながる。奴は前もやらかしている。フリーの前科者だ。誰も信じやしない)
後日。
協会の事故調査委員会に証拠とデータをまとめて提出しようとしたところ、待ったがかかった。
自分のオフィスを出たところ、笠原が安いスーツを着た男たちを引き連れてその道を塞いだ。
「海藤さん」
「なんだよ、急いでるんだ、どけ」
「あなたには背任罪と偽計業務妨害罪で逮捕状が出ている」
「……はぁ!!?」
「虚偽の情報で国務探索員の救助活動を妨害した罪、富士サンロク重工に対し損害を与えた罪に問われています。逮捕状です。あなたには他にも複数の容疑がかけられています」
海藤は逮捕状を一瞥し、笠原を見て笑った。
「ご苦労様。だが、無駄だ。あんたら程度が騒ごうが、無駄なんだよ!! おれのバックに誰がいるか――」
「そうですね。でも、あなたのバックにいる方々があなたを助けるメリットがありますか?」
「……公僕風情が、おれを三下扱いしてんじゃねぇぞ?」
「あなたはミスを犯した。低ランカーを唆したのはやり過ぎましたね」
「ははは!!!」
海藤は笠原に茶封筒を押し付けた。
「見てみろ。やったのはおれじゃない。お前の推薦した月本遊星だ!!! 茶番だな!! お前にも責任を取ってもらうからな!!!」
笠原は茶封筒の中にある用紙を出してめくり、後ろの捜査官に渡した。
「海藤さん、あなたは誰かを怒らせたらしいですね」
「あ?」
「不正アクセスのログも、月本さんが謹慎になってからアップロードされた記録も無かった」
「は、だから言っているだろ? 濡れ衣だよ」
「しかし、匿名でこんな映像が送られて来まして」
笠原が拡大写真を見せた。
そこには周囲を伺いながら遊星のPCにUSBを差し込む海藤の姿が映っていた。
海藤はくしゃくしゃにする勢いで写真の束をひったくり凝視した。
余裕だったその顔には脂汗がにじむ。
「バカな……この位置にカメラは」
「そう、この時間フロアの防犯カメラが映っていないんですよ」
「え?」
「これはウェブカメラの映像です。あのフロアにあったPC全てのです」
「……は? なんで……? そんなことあるわけが」
笠原はICレコーダを取り出し再生した。
そこには海藤と重役の会話、そして会食での密談の会話が流れた。
「ああ!! お、お前……どうして」
「上が狂喜乱舞してましてね。まぁ、政治もあるでしょうし、協会の監査官が大鉈を振るうかどうか。いずれにせよ私の狙いはあなたなので好都合。あなたを庇う人がいるか試してみましょうか」
海藤は力なく倒れ、尻餅をついた。
「言いましたよね? 警察を脅すなら覚悟をしておけと」
捜査員が海藤を立たせ、連行していった。
ふとその足が止まった。
「笠原さん、誰なんだ? 協会のPCを遠隔でアクセスしたならログが……痕跡があっただろう?」
笠原は無感情に言い放った。
「……一切ありませんでした。だから聞いたんですよ。あなたは誰を怒らせてしまったのかと」
「はは、まさか、そんなことって」
その顔は恐怖で引きつっていた。
騒然とする協会のオフィス。
笠原は監視カメラを一瞥した。
この事態を受け協会内に設置された捜査本部は刷新。
かん口令が敷かれた。
情報収集を目的とした『データ班』は事態の収集のため存続。
捜査本部の中心となり、そこには遊星の名もあった。




