4.決着 変化と適応 斬と破
戦闘開始から2分30秒が経過。
遊星は瑠衣のストレス値、筋疲労に目を配る。
「瑠衣、止まるな! 一度でも止まれば出力をダウンさせる!!」
スーツの動きと齟齬が生まれれば、スーツが瑠衣を傷つけてしまう。
それだけピーキーな調整をしている。
「攻めろ!! 勝機はある!!」
対する『鎧鬼』に疲労の色は見られない。
瑠衣のとの戦闘で逆に攻撃の回転力が上がっている。
大振りが少なくなってきた。
瑠衣のスーツと体調をモニタリングしながら、遊星はそのデータを自作プログラムに同期させる。
ずっと瑠衣を他人に任せようとしていた。
だからエンジニアとして引き継げる用意が、その自作プログラムだ。
そこには瑠衣との訓練時、把握したあらゆる動き、型に対する最適な出力調整が記録される。
人工知能はこれを元に、特定の型を必殺にまで昇華できる。
ただし、それはデータが合っていればの話。
ここまでデータは同期されず、疲労や戦況、環境による膨大な変数がこのプログラムを台無しにしてしまう。
2分30秒、遊星はデータを更新、入力を並行していた。
遊星の脳はマルチタスクで沸騰。
8月の八王子、空調の利いた食堂で、その背中からは湯気が出ている。
鼻血が滴り、白いブラウスを赤く染める。
コードが羅列されたスクリプト画面と、波形グラフやメーター表示が並ぶモニタリング用画面、各種スーツの設定を変更するチューニング用画面が激しく切り替わる。
〈――モニタリングを代行、デバックを並行、データ抽出とプログラム起動を優先せよ――〉
「お利口だな!!」
アリスの助力により、プログラムを優先。
瑠衣専用キリングマニューバが実行された。
◇
四撃目が入らない。
『鎧鬼』の動きに隙が無くなっていく。
動きが読まれ始めている。
苛立ちと、焦り、疲労――そういったマイナスファクターを意識するほどにベストパフォーマンスから遠ざかっていく。
そういう時、最高の自分を取り戻す方法は一つ。
鍛錬に費やした時間。
反復し身体に刻んだ理想的な動き。
「今!!」
《よし!!》
『鎧鬼』の不意を突いた転調。
四撃目が、ピンポイントで脇腹に入った。
だが、『鎧鬼』はその時を待っていたかのように、懐に入った瑠衣へカウンターの一撃を放った。
肉を切らせて骨を断つ。
耐久性頼みの強引な捨て身技だ。
有効打がヒットした。
しかし、それは瑠衣へではない。
四撃目から繋がる五撃目、六撃目。
三連撃。
キリングマニューバ実行中の瑠衣の放った攻撃が『鎧鬼』の鎧を砕いた。
悶絶、後退し、身体が折れ曲がる。
膝を突いた。
瑠衣は追撃のため、地面を蹴る。
完全に身を固めた『鎧鬼』
『外套の一・金剛の型』による防御で砕けた部位を庇う。
瑠衣が渾身の機動、最高速を見せる。
両者が交錯。
「はぁ、はぁ……」
瑠衣は震える膝で、地面に槍を差し、何とか振り返った。
腕を前に防御姿勢を取る『鎧鬼』、砕けた脇腹に攻撃は通っておらず。
立ち上がり、うなり声をあげる。
勝利の雄叫びだ。
「うっ」
莫大な魔力が大地を震わせる。
「うるさいな。早く倒れなよ」
『鎧鬼』の首から滴り落ちる血。
肉体は膝を突き、その反動でごろりと首が落ちた。
瑠衣の持つ『皆朱の槍』の刃が『鎧鬼』の血で赤く染まっていた。




