3.悪あがき
食堂の職員たちから不満が上がる。
「何が起きてるのかよくわからないな」
テレビのリフレッシュレートではついていけない。
それほどに両者は激しく、位置を入れ替え動き続けている。
そこでスマホでネットの解説を見ながら視聴を続けていた。
〈勝ち目ないんじゃないか?〉
〈いや、四撃目が入らないだけで作戦は間違ってないよ〉
〈『打』による内部破壊か。それにしてもすごい引き出しの多さだ、緋山瑠衣〉
〈誰だよ、アイドル枠って言ってたやつ〉
〈これ、棒術だよな?〉
〈付け焼刃の棒術で、勝てるのか?〉
〈付け焼刃か、これ?〉
〈構え、重心、間合い――槍と棒で違うな〉
〈サポートが合わせてる。器用だね〉
すでに公式の配信再生数が1000万を超えている。
〈だが、オーガ変異種から一撃もらったらお終いだろ。やっぱり『メンテの人』呼ぼうぜ〉
〈きっとできる限り呼んでほしくないんだ。だから条件があるんだろ?〉
〈探索者の10年後を考えたら、依存は衰退と同じってことだ〉
〈日本の探索者の未来を護るため、ルールを作ってるってことか?〉
〈緋山瑠衣はわかっていて呼ばないのかも〉
〈彼女の精神こそ探索者のあるべき理想といえる〉
自然と応援する声が各所から湧き上がっていく。
食堂に熱狂、悲鳴、声援が入り交じる。
「おい!! どこだ!!?」
「くそ、多いな!!!」
「邪魔だ!!! どけ!!」
捜索本部の職員が人込みをかき分ける。
「なんだよ! 割り込みな!!」
「違う、人を探してるんだ!!!」
「押すなよ」
業を煮やした職員が食堂のテーブルに乗った。
「いたぞ、あいつだ!!」
続けてテーブルを駆け、一人隅でパソコンをいじる遊星に迫る。
そのまま飛び掛かり、引き倒す。
「ぐあ!!!」
遊星は椅子ごと引き倒された。
「今すぐやめろ!!」
「余計なことしやがって!!!」
「おい、PCだ!! 通信を……」
職員がいじるが、ロックがかかり遮断できない。
「もういい! 時間が無い!!」
一人がPCを持ち上げた。
「よせ、やめろ!!!」
叩きつけられる寸前。すくっとPCが宙に浮いた。
職員はすっぽ抜けた勢いで前につんのめり、後ろを振り返った。
PCは長身の男が持っていた。
「騒がしい、ですね」
「か、返せ!!」
「バカ、よせ、この人は……」
掴みかかった男はテーブルを滑り端から端まで飛んだ。
「ぐへっ」
投げ飛ばされ、気を失った。
「元特派の緋山崇……」
「なんで」
騒動を聞き警備員が駆け付けたが、緋山を見て固まった。
緋山はPCを置き、遊星に手を差し伸べた。
起き上がらせると、ただ頷く。
遊星は座り直しサポートを継続した。
「やめろ!! お前それはハッキングだぞ!! 警備何してるんだよ!!」
「え、いや、無理ですよ……」
「おれに任せてください!!」
警備の一人が帽子を投げ捨て不敵な笑みを浮かべた。
「おれは元探索者でしてね。元特派がどれほどのものか、試されていただきますよ!!」
跳躍して一気に距離を詰めた男。
その腹に、緋山の長い脚がめり込んだ。
「ぐほゃ!!!」
そのまま床を滑って戻り、沈黙。
「笑止」
「ちっ……緋山さん、あなたも引退したとはいえ富士サンロクとの仕事はあるだろ!!」
「すぐに作業を中止させるんだ!! どうなってもいいのか!!!」
緋山は職員を見下ろした。
「娘の邪魔をさせると?」
「……あ」
職員はようやく、2人が親子だと思い至った。
彼らには緋山瑠衣にも家族がいて、一人の人間であるという意識が欠如していた。
「いや、だからこそ!! 余計な介入でピンチになるより、『メンテの人』を呼ぶべきだ!!」
「そうだ! これでダンジョンブレイクになったら責任とれるのかあんた!?」
緋山は残った2人の胸ぐらをつかみ上げた。
「月本遊星、瑠衣はピンチなのか?」
「……晴れ舞台ですよ」
緋山は笑った。
「娘の晴れ舞台を邪魔しようとする、貴様らこそピンチではないかな?」
そのまま投げ捨てられた二人は悲鳴を上げながら前の一人と同じくテーブルを滑り、端から端へとすっ飛んで、床に落ちた。
「まさか、あなたが来るとは。笠原さんですか?」
「君のお陰で娘は強くなった」
緋山は作業に没頭する遊星の後ろで深く頭を下げた。
「最後まで、よろしくお願いします」
「ぜひとも」




