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2.作戦

 

 遊星が初めに行ったこと。

 それは文書を書いて、食堂に貼ることだった。


『システム改修に伴うメンテナンスの御報せ』


 未だに紙で通達を共有するアナログさ。

 海藤の動きを掴んでいた遊星は、その実行日を特定できた。


「やはり協会のシステムは既製品と違うな」


 遊星は八王子協会のシステムを乗っ取り、処理能力を捻出。

 最高速のデータ処理を可能にした。



「装甲ダメージ深度フィードバックをリンク……クルーズバッテリー強制排除、スプリントバッテリーへ移行、ボディカメラ、AR表示データ、魔力センサーリンク解除、マニュアル制御へ……伝送帯域確保、システム連動共有データインジェスト、自動アシストアクティブ」


 瑠衣のフィッティングを整えた。

 スーツの複雑な制御は人工知能が担うが、与える情報を絞り、安全マージンを捨て、パフォーマンスに全振りする。

 代わりに映像から判断し、思考と情報を補佐。


 槍の回収にはアリスを使った。



「寝てるのか、アリス?」

〈――あなたが捕まらないように見守っています――〉


 スマホの画面に呆れた表情の少女が映る。


「ならついでにこっちも頼む」


 遊星はアリスにネットワークセキュリティを回避し、必要な処理能力を確保する伝送全般を任せていた。


 この分業により遊星は完全にサポートに集中できた。


 アリスのゲートで皆朱の槍の槍を映像に残すことなく瑠衣へと届けた。


 ところが槍の斬撃は効かない。


〈――武術の先読みも、あの強固な魔力の前には無力ですね――〉

「なるほど、『外套の一・金剛の型』だな」


 瑠衣が構えを変えた。


 ◇


 同時刻、別フロアにある魔物解析室でも職員たちが大江山の配信を見ていた。


「なんかこの部屋暑くない?」

「あれ、ここの解析システム誰か使ってる?」


 1人が一つしかない高価なデータ作成システムが起動していることに気がついた。

 部屋の一角を占める巨大なサーバーが熱を放っていたからだ。


「メンテナンス終わったのかしら?」

「え、なにこれ、誰かデータをいじってるわ!」

「デバックの途中じゃないの?」

「見てよ! スキャンデータで3Dデータ作成、データ抽出、レイヤー作成、HOSデータセンターより過去データを検索、補完、思いっきり使ってるわよ!」

「これ、今大江山で戦ってるオーガの変異種よね?」

「何で八王子? というか、誰よ、どうやってアクセスを!?」

「ウソでしょ、早っ! 構造レイヤー細かっ!」

「うちのメモリなんかでできるわけない、どっから? あ、まさか協会のメインサーバーをフル稼働させてるのって」


 システムをモニタするPCが赤い警告を表示。


「エアコンッ!」

「フル稼働っ!!」



 ◇


 遊星は八王子ダンジョン協会の処理能力を総動員し、一体の魔物を構造解析した。


《瑠衣、ARに同期した。ここを叩け》


 瑠衣の視界に『鎧鬼』のウィークポイントが赤く表示された。


 瑠衣は踏み込み、突いた。

 動き出しを予想し、今までよりギリギリで『鎧鬼』の剛腕を躱し、懐に入ったのだ。


 石突きは『鎧鬼』の脇腹にヒット。

 硬質な響きが鳴る。


 その装甲にダメージは見られない。


 強固な皮膚にも密度のムラがある。

 硬度が高いということは割れやすい。

 その下の筋肉にも必ず攻撃が通りやすい部位が存在する。

 狙いは合っている。しかし一撃では通らず。


 懐に入った瑠衣へ鋭い乱打が降り注ぐ。

 瑠衣はこれをギリギリで躱し続ける。

 大きく躱せばそれだけ、隙ができる。

 極限の集中力にスーツが呼応する。


 最短、最速。

 弧を描いた石突きが再び、『鎧鬼』の脇腹を直撃した。



《効いているぞ!》



 欲しい言葉がイヤホンから聞こえた。



『鎧鬼』が拳を放つごとに、風切り音と魔力が掠める音がする。

 一撃でも喰らえばもう後は無い。



 瑠衣の『斬』ではなく『打』の選択が正しいか否か。



 三撃目ではっきりした。


 豪打の嵐の最中、引き絞るように研ぎ澄まされた突き。その一点に、全体重と衝撃が加わった。

『鎧鬼』の反撃、動作が止まった。



 衝撃の浸透が内臓へ。


 だが、『鎧鬼』の膝を突かせるには至らず。

 雄叫びが上がり、怒りがまき散らされた。


 戦闘は互角。

 だが、決定打はない。

 狙いが分かれば、対処される。


『鎧鬼』は仁王立ちから徐々に、構えを作り始めた。



 四撃目が入ることなく、絶え間なく両者の攻防が続く。





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