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5.瑠衣の勘は大抵当たる

 


 瑠衣は笠原の説明の半分程度しか理解していなかった。

 前を歩く遊星をちらりと見る。

 今朝までとは見え方がまるっきり変わってしまった。



(遊星くんだ。間違いない……)



 コーディングや人工知能の話は分からない。

 だが、瑠衣は笠原の勘違いに気が付いた。

 いや、知らない事実がある。


 今も遊星は古傷を庇って歩いている。

 笠原は医療記録まで遡り、それが確かに歩行に影響を及ぼすものだとするカルテと写真まで持っていた。

 これは紛れもない事実だ。

 12歳。

 ダンジョン災害にてコボルトにかまれ深手を負い、何とか歩行はできるまでに回復した。


 だが、瑠衣は知っている。

 遊星は自作の膝用サポーターを常に付けていて、それを取った時の動きは全く違う。

 

(初めから……最初からあった違和感はこれだったんだ)


 緋山父も槍を使い、特派として高難易度の階層で戦ったトップ層の探索者。

 その父親を助けた『メンテの人』は、スーツの最適化を行っていた。

 単独で整備するスピードと正確性。

 既存の企業体質ではまず生まれないピーキーで唯一無二、再現性の無い奇跡のフィッテイング。


 遊星にはその片鱗があった。


(『メンテの人』は現代人じゃなくて、会えるのはダンジョンの中だけだとばかり)



 遊星が『メンテの人』ならば、思い当たる節はまだある。


 遊星自身が言ったように、『メンテの人』の背後に高度な人工知能があるとする。


(遊星くんの傍にいて、一度も見たこと無い……アリスちゃん)


 V系アイドルと言われ納得した。人工知能と言われても現代のそれとはまったく違う。

 

 最初の八王子ダンジョンブレイクの際、アリスはその前兆を誰よりも早く瑠衣に伝えていた。

 トレイン事件の際は、槍が手元に戻った。



(アリスちゃんのスキル。瞬間移動ってことなんじゃ……)



 それだけ高度なスキルを持ち使いこなせるとしたら、協会は探索者試験の段階で特定し、スカウトしているはずだ。

 そういう特異なスキル持ちを発見するため探索者試験はゆるく設定されているのだから。



 だがすべて、憶測にすぎない。



 決定的なのは、遊星の腕を握ったときだ。



(遊星くんが緊張してた……)



 瑠衣は遊星と出会って一か月と少しだが、様子がおかしいのは悟っていた。

 笠原に考えをつらつらと述べる様子も、遊星にしては正直過ぎる。

 そのポーカーフェイスと余裕の態度とは裏腹に、冷たく汗ばんでいた手。



(そもそも、なんで遊星くんは『メンテの人』の話題を出さない?)



 誰もが話題にするトークテーマだ。

 だが、一度も話した記憶がない。



「……どうした?」

「なんでもない」



 瑠衣はその疑念を飲み込んだ。

 白黒つけてどうなるものではない。

 瑠衣は確かに『メンテの人』に会い、お礼を直接言いたいという動機で探索者になった。


 今、それをしてしまえばこの関係も終わってしまう。




「あの、お昼外で食べませんこと?」

「……そうだな。言葉遣いどうした?」



 2人でダンジョン外のベンチに腰掛けた。



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