4.疑惑の遊星
遊星は重苦しい部屋の空気に、思わずネクタイを緩めたくなる。
(警察の取り調べみたいだ。いや、焦ることはない)
笠原は反応を伺うように瞬きもせずに、遊星を観察しながら説明を続けた。
「探索者に対するアプロ―チとその技術、資本力……その反面、社会的地位や名声とは無縁のトラック生活。それであなたの税務申告や戸籍の附票を取り寄せました。現住所最寄りの派出所に様子を見に行かせましたがずっともぬけの殻のようですね」
重い空気の中、遊星はコーヒーを啜る。
「波乱万丈な人生だ。12歳で被災。如月弥生との出会い。14歳、盗んだゲーム機でスパコンを自作。盗電と禁止地区への侵入で補導」
「遊星くん……」
「待て。ゲーム機は盗んでない……」
笠原の言葉は続く。
「17歳、富士サンロク電子へのハッキングを防ぎ、22歳富士サンロク重工へ入社。社内政治で現場仕事に飛ばされ、23歳で高尾育成高校のスーツ工学講師に。高尾奇跡の6期生を輩出」
「奇跡の6期生って……あの?」
「輩出した覚えは……」
笠原の言葉は続く。
「その功績で本店に復帰。如月弥生の専属技師となり、24歳で『モノノフ』如月モデルを完成させる。このモデルを機に人工知能によるスーツ制御が始まる」
「遊星くんすごぉい」
「おれ一人で造ったんじゃないけどな」
「あなたは再び社内政治の餌食に。濡れ衣を着せられ、富士サンロク重工を追い出された」
遊星の顔に変化はない。
だが、その気配が先ほどまでと違い、好戦的になったことを、瑠衣だけが気づいた。
「如月弥生の死後まもなく、あなたはフリーでスーツのメンテナンスを行い、トレイン事件に巻き込まれた」
「え、前にもあったの?」
「そういえば、病室に来た警察官はあなただったそうですね」
「ええ……」
都合三度の邂逅。
そのうち二回は捜査対象だった。
如月弥生事件、トレイン事件。
疑念を持つには確かに十分といえる。
「疑われるのは気持ちのいいものではありませんね。それで要点は?」
張り詰めた空気が今にも破裂しそうな緊迫感。
両者は視線を交わし、瑠衣は息をのんだ。
「勘違いでした。申し訳ない」
「違うんだ」
瑠衣が隣に座る遊星の顔を覗き込む。
遊星は鬱陶しそうにその顔を押しのけるが、瑠衣はその手を取って再び覗き込むように眼を見る。
「それで私の疑いは晴れたわけですか?」
「失礼ながらあなたの歩行パターンをメンテの人と比較させていただきました」
(歩行パターン……この人は本当によくやる)
遊星の余裕が消えた。
「全く別人の動きでした。それに、あなたがもし全知全能の人工知能を開発していたのなら、ダンジョンブレイクに巻き込まれ死にかけたりはしないでしょう」
「……そうかもしれないですね」
「まぁ初めから違う予感もありました。あなたのコーディング、サポートを実際見て、人工知能への依存は見受けらませんでしたからね」
「結局違うんだ……」
ぽかんと口をあけた瑠衣。
「いつまで握ってんだ」
「あ、ごめん」
瑠衣の手を振り払う遊星。
「仲がよろしいですね。捜索は月本さんに、万が一実動部隊が動く場合、瑠衣さんには監視役にと考えています。緋山さんも、協会に就職なら嫌とは言わないでしょう」
「勧誘していただけるのは光栄です。それに信用していただき、内情をお話しくださったことに感謝します」
「ではぜひ」
「一度持ち帰り検討させていただきます」
「そうですね。熟考ください。ただし、お分かりかと思いますが、このお話はくれぐれもご内密に」
会はお開きになり、笠原に見送られて二人は受付ロビーまで降りた。




