3.追求 取り調べ
協会施設の会議室に移動し、席に着くとタイミングよく女性がコーヒーを持ってきた。
女性が静かに退出すると、笠原は早速話題を切り出した。
「実は『メンテの人』を探しています」
「へぇ」
「……ほう」
瑠衣は眠そうな目をカッと開いて頬を緩ませた。
「笠原さんも!? ウチも探してる! 仲間だね!」
笠原は苦笑した。
遊星は横の瑠衣に意外そうな視線を向けた。
「なんだ、そうだったのか?」
「うん、お父さん助けてくれたから、お礼言いたくて。で、探索者になったの」
「そうか。ならネットの掲示板に書いて、引退しろ」
「ひどー。どうせなら会って言いたいでしょー」
遊星の肩をグワングワンと揺さぶる瑠衣。
「笠原さんの探している理由は全然違うと思うぞ」
「ええ……実は協会内で『メンテの人』とコンタクトする動きがあります」
「おお~『E・T』的な? トモダチ!」
「どちらかと言えば、『未知との遭遇』ですね」
会議室に空調の音だけがする。
ほのめかすにとどめ笠原ははっきり言わない。
富士サンロクが技術をインスタントに手に入れるため、褒められない手段に訴えようとしている。
「『地球が制止する日』になるのでは?」
遊星はそのシナリオの破綻を示唆すると出されたコーヒーを啜った。
かなり後ろ向きな態度だ。
笠原は、仕方なくリスクを取った。
業務内容の開示だ。
「いえ、私はそれを監視、あわよくば彼らに先んじて『メンテの人』に接触したいと思っています」
笠原の目的は探索者と『メンテの人』の関係性を破綻させないこと。
遊星は理解した。
「藪蛇を防ぎたいってわけですね」
「そっか、怒って助けてくれなくなっちゃったら大変だもんね」
「そうですね。今回のような事例が増え、悪感情を煽るやり方は悪手です」
富士サンロクのメディアを用いた強引な印象操作と、そのきっかけとなった虚偽の救援要請。
笠原はこの情報を、リークすることで関係性を保つ算段だ。
「これがエスカレートし、虚偽の求めで彼を捕らえるようにでもなれば、日本ダンジョンのブレイクに拍車をかけることになる」
瑠衣がうなずいた。
思い切った探索に、いざというとき『メンテの人』を呼ぶことを想定していないわけがない。
それができなくなれば、意欲的な探索にストップがかかり、延いては魔物討伐の件数が下がる。
結果、ダンジョンブレイクが増える。
「じゃ、探しに行こー。ウチは全国どこでも行くぞ~」
立ち上がってやる気を見せるが、笠原の視線は遊星に向いていた。
「いえ、捜索は月本さんにお願いしたい」
「……遊星くん~? 確かに遊星くん頭はいいけど。ウチが背負うのー?」
「仕方ないな」とでもいうように、フッと遊星に笑みを送る瑠衣。
瑠衣の勘違いに二人は顔を見合わせる。
「違う。探すのはダンジョンの外、つまりこっち側ってことだ」
瑠衣は2人を交互に見て、スマホを開いた。
「いや『メンテの人』ってダンジョン内の人でしょー? 未来人かもって……」
「ネットの内容は嘘だ。普通に考えて、普通にこっちで暮らしているだろ」
遊星の言葉に瑠衣は納得いってない様子で席を詰める。スマホでネットの記事なんかを押し付けるように見せる。
「ほら、あのロボットとか」
「人工知能か量子コンピューターの開発、それに魔法が関わっていると考えればあり得ない話じゃない」
瑠衣は首を傾げる。
「人工知能が抱えるメモリの物理的限界を量子コンピューターが解決できる。その量子コンピューターの安定的な量子を魔法で―――」
瑠衣が悲しい顔をし始めたため遊星は途中で説明をやめた。
「月本さん、さすがだ。私もまったく同意見です。『メンテの人』は現代人。しかし、高度な人工知能や量子コンピューターを個人で開発、維持管理しているとは思えない」
感情を表に出さない笠原にめずらしく熱が入る。
「『六角グループ』が『富士サンロク』に対抗しているとでも? 組織で動いているなら、誰か知っているはず」
「ええ、ですから個人だとすれば見つけるのは至難の業です」
「おれなら、大規模な電力消費をしている施設を探しますね」
「話が早くて助かります。ですが、電力会社を介している可能性は低いでしょう。工業用発電機そのものを大量に調達している可能性もあります」
「衛星の熱画像から発電量を予測することもできるのでは?」
「あの巨大ロボットを動かしている点から見ても高度な冷却システムも確立しているはずです。さらに拠点そのものはダンジョン内に有しているかもしれない」
遊星は目の前のエンジニアに感心していた。
拠点はダンジョン内には無い。
だが、衛星で探しても見つからないのも事実だ。
アリスが光魔法で廃空港を覆い隠している。
ロボットはそこに格納、整備、製造されている。
立ち入り禁止地区のため、そもそも人の眼に触れることも無い。
ある意味、迷宮ではある。
(当たらずとも遠からず。アリスは情報を拡散させ、混乱を生み出している。確証は何一つないはずだが、合理性を前提にして輪郭は捉えている。プロファイリング、捜査のように。そうか、この人は警察官だったな……)
遊星は感動と動揺を押し殺し、ポーカーフェイスで笠原がどこまで知っているか試すことにした。
「なら、防犯カメラにステータス開示を連動させるシステムを導入しては? 元探索者による犯罪に対する抑止を名目にすれば可能でしょう」
合理的アドバイス。
加えて遊星は未だ滞っているステータス開示プロトコルの正しい運用を促す。
「いえ、おそらくステータス開示は無駄です」
「なぜ?」
答えは知っている。
「ステータス開示は機能しない。あのプログラムの基礎、魔力解析アルゴリズムはおそらく『メンテの人』が作ったものです」
笠原は断言した。
マスコミが聞きつけたら、1か月はこの話題で持ちきりだろう。
世界中のあらゆるスーツ製造企業が搭載するステータス開示プログラムはとてもシンプルだ。
『鑑定』スキル持ちから得た膨大なデータをもとに、人工知能が魔力解析アルゴリズムを用いてスキャンした対象の魔力を演算、数値化する。
「はい」
「何ですか、瑠衣さん」
「あれって~『WDO』が作ったって習いましたケド……」
瑠衣は手を挙げて質問した。
「システムとデータ元は『WDO』――世界ダンジョン機構だ」
「WDOが『鑑定』データを公開し、その後ステータス開示システムへの応用を推奨したのでよく勘違いされますが、魔力解析アルゴリズムの出所は不明です。ステータス開示は我々でも容易にはいじれません」
「……ん? そうなんだ……遊星くんいじってなかったっけ?」
「UIだけだ」
「それでもすごいですよ。実は私はあなたが『メンテの人』ではないかと思っていました」
唐突な告白に、遊星は苦笑いした。
「どこがですか?」
「いえ、冗談ではなく本気です」
遊星は広い会議室が息苦しく感じた。




