2.スカウト
テレビのニュースキャスターが、色とりどりのフリップで自称専門家の言葉を頼りに様々な憶測を羅列しては、視聴者の不安を煽る。
〈――メッセージでも送りますか?――〉
管制塔のあらゆる画面が、あらゆるチャンネルの放送と録画を再生する。
チカチカと眩しい部屋に顔をしかめ、遊星は薄いリクルートスーツに着替えていた。
「例えば、放送局内の電子機器を全てショートさせるとかか? やめておけ」
〈――そんな悪質なテロは致しません――〉
〈――個人のプライバシーを害するなら、こちらもプライバシーを守る必要はないはず――〉
各画面には詳細なプロフィールが羅列された。
記事を書いたネタ元の記者。
その記事の内容に名前を貸した大学教授。
放送内容を決めたディレクター。
そのディレクターに指示を出した役員。
その役員とつながりのあるスポンサー企業の窓口役。政府官僚。
議員。
海外の有力者。
そして協会関係者まで。
顔写真とアドレス、後ろ暗い履歴書がずらりと並んだ。
(こいつは……)
その中の一人に遊星の眼が止まった。
富士サンロク重工から出向しているうざったい前髪の男。
「海藤……」
この男とは何かと因縁があった。
入社試験で顔を合わせて以来、何かと突っかかっており、遊星を政治的に追い込んだ張本人。
遊星が謹慎になった上司との衝突も、後から思えば海藤が裏で糸を引いていた可能性が高い。
なぜなら遊星の後任に選ばれたのがなぜか海藤だったからだ。
海藤はお世辞にもエンジニアとして、サポート要員として有能とは言い難かった。
何せ、人事部長の父親の力でコネ入社し、やったことといえばその場しのぎのコストカットばかり。
その中には重大な事故につながるような強度不足問題もあった。
その度に責任を取らされたのは海藤の傍にいた人間で、海藤本人は出世していった。
おかげでクレームが急増した。
それでも遊星は海藤にサポートマニュアルを渡そうとした。
『お前の欠陥品なんかすぐに廃番にしてやるよ』
そして、サポート体制が確立しないまま弥生はスーツを満足に扱えず、ダンジョンブレイクに巻き込まれ死亡した。
『お前が如月弥生を殺したんだよ! この寄生虫が!!』
海藤はマニュアルなどなかったと主張し、遊星を口汚く罵った。
そして記者会見で専属技師は問題行動で謹慎中だったことを涙ながらに訴えた。
流出した遊星のゴシップ記事と相まって、世論は『如月弥生を殺した月本遊星』という情報を真実とした。
遊星はこぶしを固く握り込んだ。
〈――今なら――〉
遊星はため息をついた。
「ゴシップを書くなんてお前のメモリが汚れるだけだ」
〈――そうですね。では実行はあなた一人に任せましょう――〉
「おれは部下かよ」
〈――まさか。私とあなたは親と子です――〉
「……娘の非行を誰かに相談するべきか?」
〈――あなたに私の知らない娘が?――〉
遊星はアリスとかみ合わない会話に笑みを浮かべた。
「そろそろ新しいマシンを買うか」
〈――そうですね。データ管理会社の株を買い占めますか?――〉
「敵対的買収? 聞きたくない」
遊星はリノリウムの床をカコリと鳴らした。
管制塔からはるか遠い八王子ダンジョン内のトラック内に現れた遊星は、すぐに鳴ったスマホに身体をビクつかせた。
「はい、月本です」
電話の相手に遊星は呼び出され、すぐにダンジョン受付ロビーへ赴いた。
「ああ、中に居られたのですか。朝早くに行き来させてしまい申し訳ありません、月本さん」
そこには無感情で愛想の欠片も無い男が待っていた。
「いえ……瑠衣のことですか?」
「まだ所属を決めあぐねているそうですね。そこで、こちらも立候補をと思いまして」
ロビーで話していると、瑠衣が眠そうに眼をしょぼしょぼさせながらやってきた。
「あれ、笠原さんだ。どったの?」
笠原は緋山崇の特派時代のサポートメンバーである。
ゆえに面識がある。
「実はお仕事のお話を持って来たんですよ。瑠衣さんも興味あると思いますよ」




