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1.メンテの人捜索の兆し

 

 世の中はゴールデンウィーク。

 観光客の多い静岡県浜松市に、防災アラートが発令された。


「これなんのアラート?」


 若者たちが海沿いのサーフショップで笑いながらスマホを見る。


「え……ダンジョン災害警報? 浜松で?」


 彼らが急いで店を出ると、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人たち。

 彼らの見慣れた海には波とは違う隆起が白波を立てている。


「討ち漏らしだ……!! 逃げろー!!」


 テレビの緊急ニュースが危機を伝える。


『ここで番組の途中ですが、緊急でお知らせします。浜松に巨大な魔物が現れ、周辺2万戸に避難勧告が発令されました。指定地域にお住まいの方はただちに避難をしてください』


 ネットではその魔物について、考察が始まった。

 投稿された遠巻きからの荒い映像には、長い躯体でアーチを描いて海面から顔を突き出しては、飛び込む海洋生物の姿が映っていた。



〈巨大な『海蛇』か『海竜』に見える〉

〈近隣のダンジョンでは見たこと無い。というかブレイクしてないから海外だな〉

〈4日前に東南アジアで大規模討伐作戦があって、討伐完了ってあったな〉

〈討ち漏らし確定〉

〈『海竜』なら脅威度はB、水魔法に適性あり、上陸の危険はない〉



「よっしゃ、E級だけど探索者の責任を果たす! 討伐がんばります!!」



 たまたま居合わせた探索者が討伐に。

 ネット界隈がLIVE配信に反応した。


〈がんばれ!! 浜松を頼んだ!〉

〈勇敢だな〉

〈大丈夫? 脅威度Bだぞ〉

〈いやダメだろ。B級以下は相手にならないぞ。売名目的ならやめとけ〉


 不安は的中した。

 配信映像には、深海魚のような眼をした巨大生物が浜に打ちあがり、そのままのたうち回っている様子が映った。


 防波堤が破壊され、アルファルトが割れ、水道管が破裂。



「だめだこれ! スーツ壊れました! 『メンテの人』、お願いシャス!!」



『海竜』を見て、彼はすぐに諦めた。


〈こいつ……戦ってもいないのに〉

〈最初からバズ狙いだ〉

〈おい、でもダンジョン外って……〉



『海竜』は動きを変えた。

 魚類を思わせる空虚な目を光らせ、首をびくりと反応させている。


 誰に反応しているのかは映像を見れば一目瞭然だ。


 先ほどから『海竜』の眼が爛々として、映像に白いノイズを生んでいる。


〈おい、これヘイト買ってるぞ!〉

〈なに突っ立ってんだ!!〉

〈だめだ……〉


 予兆はあった。だが――



「えースーツ壊れたんですけど、『メンテの人』まだっすかー? はぁ、マジ遅くね?」


 苛立ちを募らせ、棒立ちのE級。

 身体をうねらせ、砂を巻き上げる『海竜』。

 その剣山のような歯が迫る。



「え、ちょっと早く! 『スーツ壊れた』って言えば来るんじゃないのかよ! あり得ねぇ、ふざけ――」



 映像はロストした。



『海竜』はその後、上陸を試みて運河を遡り街に接近。

 国務探索員たちが防衛して時間を稼ぎ、駆け付けたS級探索者によって討伐された。



 死者一名。


 ◇



『……この勇敢な若者の犠牲を無駄にしてはなりません』



 ニュースではこの探索者の死がセンセーショナルに報じられた。




『悲劇です。我々はこの「メンテの人」をもっとよく知るべきなのではないでしょうか?』

『これは氷山の一角に過ぎず、これまでどれだけの人が見殺しになったのか……』



『メンテの人』批判へ。そして、積極的調査の必要性へ世論を誘導していく。



『「メンテの人」と呼ばれている方へ。これを見ていたらお願いします。私たちはあなたの助けが必要です。どうか、姿を現してください』



 ネットは大炎上。



〈いや、小金稼ぎしようとして失敗した馬鹿が死んだだけ〉

〈でも真っ先に駆け付けたんだし、助けられても良かったんじゃ?〉

〈非営利LIVE配信が条件です。議論終了〉

〈テレビだと条件は満たしていたってよ〉

〈スポンサーに富士サンロクいるから。あそこは

『メンテの人』の技術を解明したくて大義名分欲しいだけよ〉

〈条件とかどうでも。そもそもどうやってダンジョン外に来るんだよ〉

〈『メンテの人』って六角グループの実験か何かじゃないの?〉



 マスコミの偏向報道に反発し、活発でより現実ベースの活発な議論が続いた。


〈まぁ、ダンジョン内に他の文明があっても不思議じゃないしな〉

〈おれは未来人説に一票。歴史警察的な〉

〈過去改変阻止! 確かに、正体隠しているつじつま合う!!〉

〈人工知能だ、絶対! 機械の反乱!!〉

〈シンギュラリティはまだ先。量子コンピューターが実用化でもされない限り無いな〉

〈宇宙人だったりして〉

〈おれの先輩の友達がUFOに乗った『メンテの人』見たって!!〉


『メンテの人』は誰なのか?

 ダンジョン内の未知の文明人なのか、未来人なのか、宇宙人なのか。


 ネットの議論を差し置いて、それを確かめる動きがあった。



 ダンジョン協会内の富士サンロク勢力。

 彼らは新たな技術革新を求めていた。

 現場主義だった昔と違い、経営危機を経て体質は様変わりした。

 コストカットとアウトソーシングで利益追求し、技術より営業とマーケティングに力を注ぎ、気づけば開発競争力は皆無。

 次の10年、肥大化した企業を支える商材や技術もない。



『善良で勇敢な若者の死』



 富士サンロク勢力にとってこれ以上ない大義名分だ。



「君もやらないかね、笠原君」


 協会内で新たに発足するチームに笠原も勧誘された。


「監視役としてだ。富士サンロクの暴走は看過できん」


 笠原は少し考え、こう答えた。



「誘いたい人がいます、支部長。よろしいですか?」

「人事権は私にある。やりなさい」



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