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12.期待のルーキー

 


 瑠衣がトレインされゴブリンを討伐した様子は、偶然にも大学生たちのボディカメラとドローンで配信されていた。


 新人・無名の探索者がただゴブリンを狩るだけの動画ではインパクトは無かったが、トレインという犯罪行為、瑠衣の容姿で多少の注目があった。


 >アイドルやれ! 危ないから!

 >元読モだってよぉ

 >推し確定


 しかし徐々に、注目されるポイントが戦闘の中身に変わっていく。



 >宝蔵院流の踏み込みに見えなくも無いんだが

 >薙刀術だろ?

 >いや槍術にも薙ぎ払い技はあるぞ

 >三連突きが本命だからな。あれ、貫流槍術?

 >待て待て。槍が日本の槍だけど、戦闘のルーツまでそうとは限らないぞ。

 >確かに、あのしなりを利かせた動きは中国武術っぽいな。


 ネットのチャットが立ち上がり、その槍捌きに注目が集まった。




 ネットで注目され、判明したのはごく限られた情報。

 カワイイ新人探索者が、すごい実力者かもしれない。

 その程度だ。



 しかしその裏でダンジョン協会が本格的な調査に至っていた。



 ◇


「元特派、緋山B級探索員の娘さんです」


 ダンジョン協会関東支部庁舎。

 立川自衛隊基地内にある建物の一室に集まった役員、幹部クラスの職員が長机を囲んでいる。


 彼らは部屋の奥のスクリーンに映し出された映像を見ながら、今回の不可解な点について詳細な報告を聞いていた。


 調査員は警視庁から出向している笠原巡査部長。


「この槍捌きは緋山探索員からの相伝ですから不思議ではありません。ネットで騒がれていますが、探索者二世が前線で活躍しつつある良い傾向と言えるでしょう」



 列席者がうなずくのを確認し、笠原は問題の核心に移る。


 映像が切り替わり、高解像処理を施した三連撃の前後が流れた。



「見事だ……」


 重く響く呟き声に、笠原は頷いた。


「ええ……まるで、生身の動きと見紛うほど滑らかなスーツの駆動。完璧なパワー&スピードのコントロール。一切ブレが無い0-100出力――」


 笠原の勝算に割って、議論が活発になる。


「恐ろしく技能に長けたエンジニア集団が彼女についているのか?」

「我々が把握していない組織が?」

「断っておくが協賛企業は国内外ともに無関係だ。隠す意味も無いしな」

「ギルドの非公開構成員情報を開示させれば良いでしょう?」

「馬鹿め、令状も無くそんなことができるか。彼女らは今回被害者で、罪に問うことは何もない」


「ああ、すいません。彼女の専属技師ご本人にはすでにお会いしています」


 笠原は熱が入り始めた議論をクールダウンさせた。


「さすが笠原君だ」

「仕事が早いな」

「『メンテの人』とか言わないでよね?」



 かすかに笑いが起きる。



「いえ、彼は一時期有名だったので皆さんご存じでしょう」



 映像が、男の顔に切り替わった。

 清潔感のある黒い短髪。

 いかにもサラリーマンという風貌だ。


「月本遊星氏か」


 重く響く問いかけに、笠原は肯定の意で頭を下げた。


「はい、如月弥生氏を見殺しにした、と世間で騒がれた、元富士サンロク重工開発部戦略担当、月本遊星氏です」


 会議室がざわめく。


「だとしたら、この新人も危険では?」

「如月さんの損失がどれだけのもだったか……」

「復職を許すのか。甘すぎる……」


 口々に不安を吐露する列席者。

 マスコミ対策から違法薬物使用疑惑、10代の女子とのふしだらな関係など憶測が飛び交い始めた。


「あれは事実誤認だ。月本氏に非はなかった」


 笠原が期待した展開となった。


「そうだな、笠原君?」

「はい支部長。検証には英国業界2位のスーツメーカーエクスワイアズと国内大手、六角重工、六角電子、六角モーターが参加。『モノノフ』タイプ如月は、世界最高峰のスーツと結論付けられました」


 笠原は遊星を懐に置く算段を立てていた。

 人材として、監視する対象として。

 それが最も効率的だ。


「まさか、協会員に採用ですかー?」


 沈黙していた役員たちに代わり、一人の男が口を開いた。



「奴は富士サンロク重工の看板に泥を塗った要注意人物です。そういう話ですよね、笠原さん?」

「海藤さん……」


 上等なスーツに身を包む若い男。

 鬱陶しい前髪をいじりながら、薄ら笑いを浮かべている。


「くれぐれも気を付けてください。セオリーを無視するエンジニアを野放しにした結果、日本は如月弥生を失った」

「海藤君、あれを協会が否定しなかったのは社会不安を鑑みての措置だ」


 個人のミス。

 それが最も影響が少ない。

 実際は富士サンロクのサポートチームが致命的なミスを犯した。

 それも突発的なシステムのエラー、不慮の事故と結論づけられた。

 それでも誰かが社会的制裁の的にならなければならない。



「月本氏はその犠牲となった。今こそ襟を正すべきなのだ」

「今の発言は議事録から削除を願いたい」


 海藤は薄ら笑いをやめた。


「いやね、支部長。今さら過去を蒸し返され、わが社の信用に傷がついたら? 困るのはユーザーですよぉ? 株価が下がったらサービスも維持できないかもしれませんねぇ〜? どう責任取るんでしょうね〜?」

 

 月本遊星を採用するな。

 探索者を盾に、海藤ははるか上役の支部長にそう命令した。

 それをたしなめる役員はいない。

 協会内部の富士サンロク勢力を前にそれ以上、笠原と支部長は何も言えなかった。





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― 新着の感想 ―
発言内容は世間に流出して欲しいところだけど、それはできないでしょうしねぇ…… パパさんには流れて欲しいですが。
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