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11.遭遇迷惑トレイン野郎 

 


 瑠衣は槍を構えた。

 端を握り、中央に手を添え支える。

 槍を持ち、胴は開かず顔だけ穂先へ真っ直ぐ向いている。


「おい!?」

《遊星くん、ウチのこと信じてくれる?》


(やはり瑠衣も探索者。ゴブリン相手に逃げる真似はしたくないのか。いや、それならさっきはどうして?)


 答えはわかっている。


「あの憐れで愚かな大学生たちを助ける気か? ダンジョンを舐めたのは自業自得だ」

《探索者は、人命第一。そう習ったし》


(くそ、これだから探索者は……)


〈――やらせましょう――〉

「アリス……簡単に言ってくれる」


(どうせお前は手を出さないだろうが……)


 遊星は息を吐き、モニターに集中した。



「瑠衣、どうして欲しいか言え」

《ARが邪魔。声で指示してね》

「了解」


 遊星はARプログラムを開きオフに。

 表示していたマップやゴブリンのパラメータを消し視界を確保。



「がんばれよ!」

《あいあい》



 穂先を下に向けた状態でゴブリンを待ち構える瑠衣。

 その横を大学生たちが通り過ぎた。

 だが一人は脚がもつれて転び、草むらに這いつくばった。


《わあっ!》


 仲間は一度振り返ったが、引き返すことなくそのまま走り去った。


《待ってくれよー!! 痛って……おい!!!》


 瑠衣は叫ぶ大学生を背に、魔力を淀みなく、全身に張り巡らす。


 遊星はモニターを瞬きせず見つめた。


(ゴブリンの戦闘パターン、この数、時間稼ぎで雑兵を集められると厄介。大学生を人質にされるのが最悪のパターン、ならば――)



「さっきの脅威Dがリーダーだ。討ち漏らして、背後を取られる前に速攻だ!」

《り》

「色分けを反映するぞ」


 遊星はARプログラムを開く。黒いスクリプト画面に白いコードが羅列している。キーボードで一部の入力を変更すると、見かけの同じゴブリンが色分けされた。

 奥のDゴブリンを赤、その他を緑とした。



「アリス、脅威判定に疲労度を抽出して反映」

〈――いいでしょう。特別ですよ――〉



 映像から呼吸の回数、魔力量の減少、温度の変化などの情報を抽出。

 そこから『体力』というステータス開示に無い情報を生み出す。

 遊星はキーボードを忙しく叩き、叩く量の数十倍の速度でモニターの黒いスクリプト画面を、白い文字で埋め尽くしていく。

 アリスとデータのやり取りを行い、大量のデータを元に体力ゲージを色の面積で反映した。


《おー》

「色が少ない奴は鈍い、逆は体力満タンだ気をつけろ!」


 瑠衣は槍を片手に、赤いゲージ満タンのDゴブリンに突進した。


《シッ!》



 Dゴブリンの前に割り込んできたEゴブリン二匹をあっという間に薙ぎ払う。

 突き主体の直線的な動きではなく、回転しながらの円運動。


 遠心力を加えた槍の穂先が、正確にゴブリンの首へと吸い込まれ、瑠衣は合間を縫い、踊るように進む。

 槍は瑠衣の右手から左手へ左手から右手へ、回転しながら体の周囲をめぐり、さらに二匹Eゴブリンを薙ぎ払った。

 そのままDゴブリンの元へ。


《ギィィィア!》



 だがDゴブリンは危機を悟ったのか、跳躍。


《飛んだ!?》


 瑠衣の上を飛び越えた。


(やはり、大学生を人質に――)


 遊星はとっさに叫ぶ。


「投げろ!」


 遊星の言葉に反応し、瑠衣は皆朱の槍を投擲。

 スーツが投擲に適した張力と開放を行い、赤い砲弾を真っ直ぐ飛ばした。


《ギィ!?》


 槍はDゴブリンの魔力防御を突破し突き刺さった。そのまま落下。


 だがゴブリンは他にまだ残っている。



「アリス、『ラビットホール』だ!」

《――今回だけですよ――》



 槍を回収しようとする瑠衣の前に残ったゴブリンが立ち塞がった。


 棍棒の一撃が掠め、地面の土を巻き上げる。


《ギャアアア》


 残り4匹。


 瑠衣が槍を持たず構える。

 対するゴブリンらは勝ち誇るように舌を見せ、目を血走らせる。


 取り囲むようにバラけ、ジリジリと距離を詰める。

 脚が地面を掴み、一斉に飛びかかってきた。

 前後左右同時。手に持った棍棒を振りかぶり、一様に瑠衣の頭部目掛けて振り下ろす。


 ぐしゃりと頭部に硬いものが食い込み、歯が飛び散った。


 瑠衣の後方、跳躍し避けることができないゴブリンの顔面が石突きで粉砕された。


 瑠衣の手には先ほど投げた皆朱の槍。


《シィッ!!!》


 鋭い吐息と共にさらにしなりきかせた槍の穂先がうねり、三又に分岐してゴブリン三体の喉をほぼ同時に穿った。


「――おお!」


 三連撃の突き。正確無比な技巧に遊星は瑠衣の本気を見た。



《おーなんか戻ってきた》



 瑠衣は手元に戻った皆朱の槍を掲げ《イイコイイコ》と呟いていた。



 食い入るようにモニターにかぶりついていた遊星は、椅子にもたれ、顔を両手で覆った。



「ふぅー無事か?」

《レベルアップしたかも》

「無事ってことだな。色々言いたいことはあるが、よくやった……」

《遊星くんも頼りになったよ。ありがと》

「ああ」

《さっきのはアリスちゃんのスキル?》


 皆朱の槍が一瞬で瑠衣の手元に戻った。

 瑠衣はそれをアリスのスキルと考えた。



〈――内緒ですよ――〉

《わーアリスちゃんすごい。私たちいいチームだね~》


 遊星はアリスの秘密をアリス自身が漏らしたことに眉をひそめた。


〈――できることは何でもします――〉

〈――そう言ったはずです――〉


 モニターに映るアリスは「私のせい?」とでも言いたげに首を傾げて悪い顔をしていた。


「ごまかしようはあっただろ」



 すぐにトレイン行為(禁止行為)の調査と救援に、国務探索員がやって来た。

 大学生たちのLIVE配信を見て誰かが通報したらしい。



 大学生たちは連行され、瑠衣も安全に警備されて戻ることができた。



 遊星はぐっしょりと汗ばんだシャツを着替えた。



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