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6.アマチュア探索者

 



 八王子ダンジョンの受付に、並ぶ列を抜かす男たち。


 彼らは企業との契約を目指し、アマチュアで活動する探索者ギルド『放狼の牙』。


「よぉ、いつも通りだ。処理しといてくれや」

「はぁ、何度言ったらわかるんですか。キチンと列に」

「はいはい、わーってるよ」



 C級の実力者はこの八王子では珍しく、幅を利かせている。

 ベテラン勢の探索者が4人。サポートが3人。

 計7人のギルドだ。


 リーダーの黒須はいつも通り魔物を狩り、その獲得素材と討伐内容を報告をする。


 戦闘はもはや単純作業だ。


 C級ともなると全員が『外套(がいとう)の一』を使いこなせる。

 パーティ構成は、前衛2名、中衛1名、後衛1名。


 剣士と盾持ち戦士、弓士、魔導師。


 相手はゴブリンかコボルト。

 深い階層には決して入らない。


 彼らは安定収入のために探索者をしている。


「おい、サポート! サボってんなよ?」


 それでも緊張感をもって仕事をしている。

 油断して死ぬのは自分たちだ。


 彼らが停滞しているのは決して珍しいことではない。


 D級、C級は一人前の探索者と言われるが、リスクに対して報酬は割に合わない。

 実入りが増えても、維持費がバカにならなくなるのだ。

 何せ、スーツの運用が劇的に難しくなる。

 レベルアップや、戦う魔物の変化がスーツに高度な調整を要求する。


 サポートを3人も雇っているのはそのためだ。


「あの、辞めます」

「あ、そう」


 サポートが1人減った。


(さっき、怒鳴ったからか……根性ねぇな)


 アマチュアである彼らの雇用関係はほぼ口約束。

 ギルドとは言っても、ガイドラインに沿って報酬を分配するだけ。

 席が開いたらSNSですぐ補充する。



「最近の若い奴、すぐ辞めるな。根性ねぇんだよ」

「あのさ、黒須」

「あ?」

「ぼくも辞める」

「は?」


 創設当初から一緒だった仲間の言葉は『あ、そう』では済ませられない。


「企業から勧誘があったんだ」

「お、おお、そうかよ! 良かったな!!」


 魔導師が辞めた。

 同じC級でも魔法を使える者は特別だ。

 魔力の制御は三段階。

外套(がいとう)の一』による展開。

『扇の二』による収束と拡散。

鳴弦(めいげん)の三』による放出と遠隔操作。


 得手不得手はあるが、基本的には魔導師が至る『鳴弦の三』は希少とされる。


(むしろ今までよく付き合ってくれたよな)


 黒須は剣を扱う。

 それなりに努力もした。

 道場に行ったり、他の剣士の動画を研究したり。

 剣のメンテナンスも欠かしたことは無い。

 しかし、もう32歳だ。

 国勢調査の職業欄にアマチュア探索者と書くのもつらくなってきた。

 あと何年続けられるかわからない。


 振り返ると自分の人生に、何の功績も無いのではと、暗く淀んだ感情がすっぽり心を覆ってしまう。



「ねぇ遊星くん、ねぇ、ねぇ、遊星くん、ねぇ」

「うるさいな。今データをまとめてるんだ。お前のな」

「ぶー遊星くんはウチとパソコン、どっちが大事なの?」

「おれの思い通りに動く方だが?」

「静かにしてるね」



 ロビーでいちゃつくカップルが妙に鼻につく。


(クソが、ここはカフェじゃねぇぞ)



 ギルドの今後を迷う黒須は、ことあるごとにこのカップルを目撃した。

 トレーニング施設で。


「おい、疲労度を測りたいんだ。全力で走り切れ。その後、全力で走ってデータを取るからな」

「遊星くん、実はウチ、片脚折れてるのよ」

「そうか、なら片脚で走れ!!」

「ひえー労わってよ」


(ちっ、目障りだな……)


 パーティ構成が乱れたせいで、普段の安定した討伐も遂行できない。



「あら? 今日は並ぶんですね? ああ、クエスト失敗なんて珍しい」

「うっせ! 早く処理してくれや!」



 サポートからも不安の声が漏れる。


「2人で3人見るのはきついっすよ!」

「おれ索敵斥候は専門外なんですけど!」

「わ、わかってる。今だけだ」



 この職に就いているのは誰もが少なからず探索者に憧れがあったからだ。


 だが、今やだれかに不満を言い合うだけで成長しようとしない。


 もうずっと挑戦もしていない。



「よ、ほ、や!」



 いつもの狩場に別の探索者。

 例の片割れの女だ。


「……」

「一言文句言ってやるか」

「……いやいい」



(あの若さで、獲物は槍……相当な腕だ)



 ただ感触を確かめるように、槍を振るっている。


 その動きに見惚れた。



「高ランクか?」

「ステータス開示してみる?」

「やめとけ」



 他人のステータスを勝手に覗かない。

 それは最低限の不文律だ。少なくともプロはやらない。そこまで落ちたら、もう戻れない。

 黒須は、踏み止まった。


 赤字経営の日々。

 ファミレスに寄ると、またあの2人だ。


「もっもっもっ……野菜ってなんでこうなの?」

「全国の生産者さんたちに謝れ」

「ウチは肉が喰いてぇんだ。好きもん食わせろ」

「そうだ。そのハングリー精神を忘れるな」

「遊星くんを食べちゃうぞ~」

「気をしっかり持て。お前は野蛮人じゃないはずだ」



 相変わらず、仲のいい男女がいた。


(緊張感ねぇな。いや、あれだけ動けてあの若さだ。装備も一流……おれたちとは違うんだろう)



 黒須の心が、折れ始めた。

 対比。

 成功者と敗北者。


「お前、訓練の疲労を見越してサボっただろう。あと時々型にない動きするの、あれなんだ? 事前に専属に共有するべきことを怠るなよ」



(急に説教になった)


 説教は長々と続いていた。

 思わず聞き耳を立てる。

 時折、こちらにも痛い小言が、歯に衣着せぬ物言いで飛んで来て心を抉る。



「うっす。ありがとございます」

「プロになるなら、全部やれ。やれることは余すことなく全部だ」

「はい、やります」

「よーし。肉食ってよし」

「ワン」



(全部か……おれは全部やったのか? いや、一人で悩んでいる時点でおれは……)



 サポートを軽んじてきた。

 意見を聞いたことなどない。



「おれは……変化を恐れてる、そんなの探索者じゃねぇ……!!」


 黒須は立ち上がった。



「わー、びっくりした。熱ー」

「目を合わせるな。絡まれるぞ」


(ぐっ、カップルが、こんな奴らに負けてたまるか!)


 黒須はカップルにこれまでの鬱憤を吐きかけて押し留まり、店を出た。


 そして、黒須はサポートの二人に連絡した。



「おれたちに何が足りないのか、見つけたい。今更だって思うだろうが、腹の内を晒していこう。やれることは全部やりたいんだ」



『放狼の牙』は八王子から別のダンジョンに。

 そこで、出会いと成長を遂げギルドは大きくなっていった。




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