4.ゴブリン狩り
元々八王子ダンジョンは初心者にも手ごろな魔物が狩れる。そこにきてダンジョンブレイクというガス抜きがあった直後。
難易度はさらに下がる。
周囲にはにわかの探索者たちも多い。
LIVE配信での小遣い稼ぎ目的だ。
「今日は、ゴブリンを数匹だ。ゴブリンと言っても甘く見るな。高尾の実習と違って一人だからな」
《り》
こちらは遊びではない。
装備一式の動作確認。
瑠衣のデータを収集。
ランクアップのための、ステータス向上。
同、活動実績作り。
アリスの設定したトレーニングを三日行い、回復した状態。
肉体の変化はスーツの運用にも影響する。
最終的には、最適な設定パターンをコードではなく、プログラムで管理しやすくして、後任の専属サポートへ引き継げるようにする。
(今のピーキーな設定だと製造元の富士サンロク重工でも厄介者扱いされかねないからな)
それには生のデータが必要だ。
青々とした草原を進む。
マッピングと天候情報が機能し、瑠衣の視界にはARビジョンで各種データが表示されている。
地図情報には、起伏のある大地の複雑に入り組んだ階層の境界線が赤く表示されている。
E級が進めるのは第二階層まで。
空中で伝送ネットワークを構築するドローンカメラが、先の様子を映し出す。
専属サポートは現代においてはチームがオーソドックスだ。
トレーナー、整備調整、データ管理、索敵斥候、指示管制――これらはそれぞれ異なる専門分野である。
こういったサポートがあるのと無いのとでは探索効率が天と地ほども変わる。
遊星はさっそく周囲の温度と違う熱源をモニターで発見した。
「いたぞ。前方50m」
《り》
遊星は集中を一段引き上げた。
対して瑠衣に緊張した様子は無い。
(大した玉だ。脈拍、血圧も正常……ベテラン並みに気負いがない)
瑠衣は槍を構える。
「赤くてかわいいから」という理由で瑠衣が選んだ槍。
その槍は戦国時代、一騎当千の武将にのみ持つことが許された朱色で塗られた柄の槍。
瑠衣の余裕、自然な構えは一朝一夕で身につくものではない。
『子供のころからお父さんの稽古見てたから』
前に聞いた時瑠衣は自分の槍捌きを端的にそう説明した。
「戦闘モードに移行する」
《り》
スーツを戦闘モードに移行。
身体に張り巡らされた伸縮ベルトの張力が、一歩を跳躍に、跳躍を飛翔へ変える。
瑠衣の身体はしなやかに大気の壁をきり裂き、50mの距離を3秒で詰めた。
あっけに取られたゴブリンが映る。
狂気じみた黄色く血走った眼が見開かれ、乱雑な歯並びの口が開いた瞬間、横一閃。
油圧フレームと各種駆動系モーターが、技の威力を跳ね上げる。
空からの映像で、瑠衣が3匹の間をすり抜けた様子が映る。
「上手い……槍を構えてブレない走り、走力だけで全て奇襲として成立するな」
ゴブリンが振り返るとズルリと頭部が落ちた。間抜けな顔をしながら、何が起きたかまだわかってない様子だ。
胴体が血を吹き上げ倒れた時には瑠衣は槍を振り、血を払っていた。
《どうよ〜、討ち取ったり~! はぁ、ふぅ》
「ちょっと疲れてるじゃないか!」
《ちょっと力んだ》
「まぁ、調子は悪くない。このまま行こう」
《オケー》
エンジニアとして数々の高ランク探索者を見てきた遊星は、思わず口元を抑えた。
(前と動きが違う。ルーツは伝統的な薙刀術だけではない? 見とり稽古……父親だけではなく対戦相手も?)
「おもしろい」
〈――入り身の深い槍術。一体多数を想定したオリジナルでしょう――〉
アリスの分析に遊星は頷いた。
「だが……まだぬるいな」
〈――気長にやりませんか? 最近の若者は――〉
「アリス、おれはお遊びで専属をやる気はない」
〈――あらら――〉
「瑠衣をひと月で一人前にする」




