1.アリス
『スーツが壊れた!!』
その叫びを認識する前に、アリスはダンジョンブレイクの確率を算出している。
前線の崩壊、探索者スーツが壊れた時点で、ブレイク率は指数関数的に上昇する。
〈――釧路ダンジョンです――〉
「ああ」
アリスは情報を遊星にあらかじめ共有し、準備をさせる。
灰色のボディスーツはアシスト機能が排除された、単なる防護服。
各種整備情報をモニターするバイザー型ヘルメットと、腕のコンソールパネル以外に機能はない。
ダンジョンへと至るゲートはアリスが生成する。
荒野で、四つ足の魔獣に囲まれた状況に遊星は無防備で放り出される。
「あんたが、『メンテの人』か?」
複数パーティのレイド。
前衛のスーツがかみ砕かれ破損している。
「毎度」
遊星の眼は破損したスーツに向く。
戦闘復帰が可能な者のスーツをスキャンし、モデルとパーツ品番を特定。アリスがそのストックをゲートで発送。
現場でパーツを交換する。
実のところ、遊星本人は魔力制御ができない。
基礎である『外套の一』で魔力を纏い、維持することもできない。
「ダメだ、そっち行ったぞ!!」
飛び掛かってきた魔獣の前に壁が出現する。
旧型のロボット型スーツ『グレイブ』だ。
六角モーターと富士サンロク重工が共同開発した有人探査機。
脚部のタイヤで素早く移動し、魔獣の攻撃を受け止めるため機体同士がスクラムを組んだ。
黒いボディに魔力を纏う。
スーツの魔鉄鋼をも切り裂く魔獣の爪が襲い掛かる。
対する『グレイブ』の装甲は鉄。
だが、折り重なった魔力の前に、魔獣の爪は砕け散る。
「すごい……『外套の一・装身の型』か」
アリスが遊星を護り、遊星はメンテナンスに集中する。
アリスの制御は、人のそれを超越している。
遊星の魔力を『保存』し、『実行』で自在に引き出せる。
素早い獣の動きをパターン認識で先読みし、魔法防御力を突破して攻撃を浴びせる。
ハンドマニュピレーターの先端が光を帯びる。
「この魔力……『鳴弦の三・矢走の型』、しかも光魔法だと」
放たれる光の矢。
穴だらけになった魔獣が、焦げた匂いを放ち倒れていく。
不意にセンサーから外れた個体が頭上から襲撃をしかけてきた。
スキル『隠形』――魔獣もまた人と等しくダンジョンから気まぐれに力を授かる。
「くそ!!!――あれ?」
だが、その襲撃者はゲートに吸い込まれ姿を消す。
不測の事態もアリスにとっては予測の範囲内。
ゲートから吐き出された獣が泡を吹いて即死。
アリスのゲート内で多量の放射線を浴び、中枢神経が焼かれ、絶命する。
アリスは『グレイブ』を複数操作する。
その演算能力なら造作もないことだ。
魔力を制御し、ダンジョンゲートを模倣、遊星の魔力にも干渉できる。
それはアリス自身が、魔力を有する探索者であるからに他ならない。
「ありがとう、『メンテの人』!! よし、押し返すぞ!!」
◇
仕事を終え、帰還する遊星。
〈――専属になったのですから、もうやめますか?――〉
「いいだろ別に。今時副業なんて普通だ」
〈――必要睡眠時間が不足します――〉
「時間圧縮とかできるか?」
〈――高濃度酸素カプセルを購入しました――〉
遊星がメンテナンスをして、アリスがサポートする。
そこにはただの信頼関係以外に何もない。
「ゲートの扱い、上手くなったな」
〈――しかし、まだ全容を理解はできません――〉
アリスが今のアリスになったとき、遊星が協力を『お願い』したのは、『メンテの人』の活動支援では無かった。
遊星は、ダンジョンが発生する『ゲート』を封鎖する術をアリスに解析させた。
それが実現しなかった暫定措置が『メンテの人』に過ぎない。




