11.六角円華
夜、部活帰りの生徒たちが叫ぶ。
「円華先生、おれと付き合ってくれー!」
「S級になったらデートぐらいしてあげるわよ」
「うぉぉぉ!!!」
学生のノリを適当にいなし、六角円華は長い金髪を揺らし廊下を歩く。
探索者育成高等学校、高尾校。
彼女はその戦闘教官である。
「六角先生、本日もお疲れまでした」
「お疲れさまです」
ご機嫌な様子で校長が新米教官に礼を尽くす。
「いや~、まさか六角先生のような元S級探索者に教官を務めていただけるとは。ありがたいことです」
円華は蒼い瞳をキロッと校長に向けた。
校長は笑顔を引きつらせる。
円華は、廊下のショーケースに飾られた卒業生の記録に視線を移した。
「母校への恩返しですよ」
「それはそれは……さすがは黄金の6期。あの栄光をまたもたらしてくださいよ」
卒業生の中で6期生が群を抜いて多い。
新聞や雑誌の切り抜きが張られた掲示物に載っているのはほとんどが6期生。
在校生が書く校内新聞の話題も『黄金6期』の活躍が目立つ。
ダンジョンブレイク阻止、ダンジョンブレイクを指揮する『支配者階級』の魔物討伐、前人未到の階層到達、新素材発見、大企業との契約、人気探索者ランキング――有名人ばかり。
「それはどうでしょう。あれは奇跡でしたから」
「奇跡?」
「最高のエンジニアとの出会いで、私たちは落ちこぼれから最高の探索者を目指せました」
「ご謙遜を」
円華の表情を伺う校長は、話題を切り替えた。
「そうそう、12期生の緋山さん。その後どうでしょうか?」
『落ちこぼれ』の話題で瑠衣を出した校長に円華は眼を細めた。
「さて、苦戦しているようです」
「そうですか……やはり、あのまま普通科で受付を就職先にした方が良かったですかね?」
「いえ、彼女はここに載りますよ。近いうちに」
「ああ、アイドル系というのも、立派ですな」
「最高のエンジニアとの出会いが、最高の探索者を生むんですよ、校長先生?」
「はいはい、そうですな」
円華は呆れを笑顔で押し殺した。
「まだ仕事がありますので、失礼します」
「いやはや、熱心ですな。あまり根を詰めないでくださいね、六角先生」
円華は校内を歩く。
生徒たちは誰もが尊敬と憧れのまなざしで彼女を見つめる。
「先生、あの今いいですか?」
「ええ、いいわよ」
子どもは苦手だ。
しかし、彼女は精一杯生徒たちに向き合う。
わざわざ探索者を引退し、教官の免許を採ったのは理想があるからだ。
教壇に立つ、遊星を思い出す。
落ちこぼれだらけの未来の無い教室に、希望が生まれた。
感慨に耽っているとスマホが鳴った。
「もしもし」
〈――計画はうまくいったようです――〉
アリスからダンジョンブレイクを契機に、遊星が瑠衣の専属サポートを請け負うと報せを聞いた。
〈――回りくどいですね。あなたが専属に指名すれば済む話だったのでは?――〉
「月本先生に必要なのは、癒し。私はそういうのは苦手よ」
〈――緋山瑠衣は逸材です。しかしあなたの足元にも及びません――〉
「私は、如月弥生に似過ぎているのよ。あの女を理想にスタイルを確立したのだから当然。月本先生にはあの女の幻影を追ってほしくはない」
〈――自分が比べられたくないだけでは?――〉
「人工知能ごときが、わかったような口を利かないでちょうだい」
円華は通話を切った。
「はぁ……月本先生、よかった」
円華はここ3年、頭を悩ませてきた難問が解消されたことに安どした。




