10.生還祝い
ブレイク阻止に貢献したあと、協会員からの聴取とデータの提供、討伐したコボルトの報酬受付や特別報酬の報酬など、半日を擁し、解放されたのは夜だった。
避難していた周囲のお店の人も出勤しており、ファミレスは大いに盛り上がっていた。
今いるのはブレイクに貢献した猛者たちばかりだ。
その中に、瑠衣と遊星の姿もあった。
「ふい~」
瑠衣はふにゃふにゃでテーブルに突っ伏し、腹の虫を鳴らす。
「お疲れだったな。今後の課題は明確になった。データをまとめていて気付いたんだが戦闘時半身になって居て背後へ回り込まれるパターンが――」
「今ムリ」
遊星がラップトップ画面を向けるが、瑠衣の視線は通路の先、厨房の出口に向いている。
店員がカートで料理を運んでくると、瑠衣はガバッと起き上がり、口角を上げた。
テーブルに並ぶ料理の数々。
「店員さん、ウチら今日ブレイク阻止したんだぜ」
「やめろ、判りやすく調子に乗るな。すいませんね、ちょっと逃げ遅れただけで」
店員は瑠衣のダルがらみににっこりして「ご苦労様でした」と返した。
「ぶー、遊星くんああいう感じの人が好み?」
「キチンとした大人はフラットに人と接する」
「今日は、ウチがおごるからね」
「話聞いてたか? そういうことじゃない」
「スーツとネクタイも買ってあげるね」
「いや金で……ダメか、このスーツ」
「もっと企業の重役みたいなの着させてあげるからね」
「同情するな。別に金に困ってはいない」
瑠衣はスタートラインに立ち浮かれていた。
ついでにコボルトの討伐報酬でかなり財布が潤っている。
「いただきまぁす」
口いっぱいに米をかっこむ。
「いきなり米だけでいくな。野菜を食え」
「もっもっ」
「食べながらしゃべるな」
「もう、好きに食べさせてよ~。お母さんかよ~」
遊星は渋い顔で眼を細める。
「専属になったんだ。つまり、日頃の食生活も管理対象となる。ドカ食い禁止。腹八分目だ」
「えー、唯一のお楽しみが……」
「おい十代、人生を楽しめ」
瑠衣は料理の皿を遊星側に押した。
「じゃー、遊星くんが半分食べてね」
「いや」
「ウチのおごりで飯が食えねぇってか?」
「めんどくさい奴と組んでしまった」
遊星がプレートに乗っている肉に手を伸ばす。
ナイフとフォークで切り分け、口に運ぶ前、一瞬感慨深そうに肉を眺めた。
口に入れると無表情な遊星が、少し緩んだ。
瑠衣は遊星の様子が前と違うことに気づいた。
(笑った……)
「おいしい?」
「ああ、こんな味だったな」
「ウチのお弁当とどっちがおいしい?」
「企業努力」
頷きながら、遊星は瑠衣のライスに手を付けた。
「ああー! ウチの米!」
「半分くれるんだろ?」
遠慮しなくなった遊星に慌てる瑠衣。
同時に野菜以外を口にして食事を楽しんでいる姿を見て、うれしくもあった。
(やっぱり、ウチの眼に狂いはなかった)
今日の体験を瑠衣は振り返った。
実習でプロのサポートを体験したこともあるが、全く違う感覚。
それは、『安心感』だ。
普段とは異なる、コミュニケーション。
百を聞くより一回の体験。
あのやり取りにこそ、遊星の本質を感じた。
寄り沿い、尽くす、彼の芯の部分だ。
(でも……謎が増えた)
「アリス」と呼ばれた存在。
『――戻ってください。あなたの遊星くんが助けを求めています――』
(スーツに着信してきた人かな?……ブレイクの警報が鳴ったのはウチが引き返してセーフティゾーンに戻った直後。あれが無かったら、間に合わなかった)
瑠衣が走って第二層から戻るのに、二十分。
つまり、二十分前にブレイクを予測していたことになる。
(遊星くんは……ただの天才エンジニアってだけじゃない……?)
疲労でぼんやりした脳は過剰な糖分を摂取し、余計に眠気を誘発。
瑠衣は考えずに、食べた。
「じゃあ、今日は休めよ」
「えー」
食事を終え、早々に席を立つ遊星。
「もっとお話ししたいー」
「そうか、おれもだ。これからお前に言うべきことはたくさんある。おれを専属にしたことを後悔するなよ? 雇用主」
「ほぇ~?」
「領収書は捨てるなよ。経費申請で必要になるからな」
「……うん」
遊星が店を出るのを見送る。
すると、様子を窺っていた探索者が声を掛けてきた。
「なぁ、君。ソロならおれたちと組まないか?」
「あなた、一人で民間人助けたんですって? 新人なのにすごいわね!」
「今日も逃げたやつばかり。何のための探索者か。君のような勇敢な者と働きたい」
真っ当な勧誘だ。
瑠衣は、立って丁寧に頭を下げた。
「ごめんなさい。ずっと勧誘していた方がやっと組んでくれることなったので」
三人のパーティが顔を見合わせた。
「あの人……ちょっと噂になっていた人だが」
「知ってます」
瑠衣がまっすぐ告げると探索者は頷いた。
「信用して組める人がいるならいいさ!」
「よかったわね!! だから言ったのよ、おせっかいだって」
「謝る必要なない。今後も、協力できることがあれば助け合えればと思う」
心配されたようだが、瑠衣に疑いはない。
店を出て、電話で元担任に報告をした。
「口説き落としたよ、円華ちゃん」
『そう、おめでとう』
「円華ちゃんが言ってた通り」
『私が?』
「最高のエンジニアとの出会いは、人生を変える」
『そうね。だから最高のエンジニアの人生は、誰かが変えなくては』
「大丈夫。遊星くんには私がご飯を食べさせるから」
『そう、がんばって』
電話が切れた。
「……冷た」




