悪魔を捕まえる
翌朝。
ピエールはプリシュールと共に仕事場へと向かっていた。
(寝ている間にじっくり考えてみた。あの仮説なら多くの不合理な点は説明がつく。だが、同時に新しい矛盾も生まれてしまうんだ……。)
例えば:
火星のように、依然として逆行現象が説明しきれない惑星がある。
もし地球が太陽の周りを回っているなら、なぜ振動を感じないのか。
(それに、俺が描いた図はあくまで仮説だ。証明するには膨大な計算が必要になる。)
ピエール:「……まずは仕事だ。」
プリシュール:「ピエール、どうしたんですか? なんだか考え込んでいるようですが。」
ピエール:「そうか?」
プリシュール:「ええ……何と言いますか、悩み事があるような。見当違いならいいんですけど。」
ピエール:「悩みというか何というか……いや……」
プリシュール:「何ですか?」
ピエール:「……いいや、明日話すよ。」
プリシュール:「わかりました。」
仕事中も、ピエールの顔には終始、影が差していた。
やがて夜になり、いつものように観測へ向かったが、コーンは用事があるらしく、今夜は俺とプリシュールだけの観測となった。
山に着くと、プリシュールは少し離れた場所で星を眺め、俺はベイモの元へと向かった。
ベイモ:「ピエール、来たんですね! 私を信じてくれないかと思っていましたよ。」
彼の表情には喜びが滲んでいた。
ピエール:「信じたわけじゃない。あれはあくまで仮説だ。」
ベイモ:「では……あなたはどちらを信じているんですか?」
彼の表情が急に真剣なものに変わった。
ピエール:「あんたの仮説のほうが正しく思える。だが、計算という裏付けがない以上、俺はまだ地球が宇宙の中心だと思っている。」
ベイモ:「計算、なら理解できますか?」
ピエール:「当然だ、コーン先生に教わっているからな。」
ベイモ:「では、これを見てください。」
ベイモは数枚の紙を取り出した。そこには数式がびっしりと書き込まれていた。
ピエ爾:「……これは何だ?」
ベイモ:「地球が太陽の周りを回っていることを証明する数式です。」
ピエール:「なぜあんたがこんなものを? 学校には行っていないと言ったはずじゃ……。」
ベイモ:「あれは嘘です。……事情があるんです。」
ピエール:「事情?」
ベイモ:「私は元々、別の村の天文学者でした。惑星の運動規則がなぜこれほど複雑なのか、ずっと疑問だった。仲間の学者の説明はあまりに雑然としていて、不合理に感じたんです。もっと単純で、逆行現象を綺麗に説明できる仮説があるはずだと、ずっと考えていました。」
ベイモ:「当時、私と同じ考えを持つ仲間が何人もいました。我々は様々な仮説を立てましたが、地球を宇宙の中心に据える限り、どんな仮説も複雑怪奇なものにしかならなかった。……誰かが『宇宙の中心は地球ではないのでは?』と言い出すまでは。」
ベイモ:「我々の村の教主は、地球が宇宙の中心だと盲信していました。神は地球で生まれたのだから、神の住まう場所こそが宇宙の中心であり、それこそが神の気高さの象徴だと。……ピエール、あなたは神の存在を信じますか?」
ピエール:「ああ、もちろんだ。」
ベイモ:「私もです。神は存在します。ですが、神が宇宙の中心で生まれなかったからといって、その気高さが損なわれるとは思いません。」
ベイモ:「しかし教主は違いました。あの手の人間は、自分が信じたいものしか信じない。彼は私の仲間を異端者として投獄した。逃げ延びたのは私だけです。教主の影響が及ばない村……ここなら安全だと思ったのですが。」
ピエール:「なぜ、そんな話を俺に? 密告されるとは思わなかったのか?」
ベイモ:「この数ヶ月、一緒に星を見てきたあなたなら、そんなことはしないと信じています。もし裏切られたなら、それは私の運命だったというだけです。」
ピエール:「……あんたの言う通りだ。密告なんてしないさ。」
ベイモ:「夜も更けてきましたね。私は行きます。さようなら。」
ベイモはそう言い残して去っていった。
俺とプリシュールも家路についた。
コーン:「ピエール、近いうちにロアがここへ来るぞ。」
ピエール:「教主様が? どうしてですか?」
困惑しつつも、心のどこかで興奮を覚えた。
コーン:「……あまりいい知らせではない。この村に異端者が紛れ込んだらしい。別の村から逃げてきたそうだ。この村には教主がいないからな、ロアが異端狩りの手助けに来るのさ。」
ピエール:「なぜ教主が必要なんです?」
コーン:「異端者は悪魔の化身だからだ。神の末裔でなければ、悪魔を祓うことはできん。私も彼らを手伝うことになった。しばらくは観測に付き合ってやれんぞ。」
ピエール:「……そうですか。」
コーン:「それにしても、地球が宇宙の中心ではないと考えるなど、一体何を考えているんだろうな、その異端者は。」
ピエール:「……本当ですね。そんなこと考える奴がいるなんて。」
ピエールは、ベイモのために冷や汗を流した。
つづく。




