観察
二日後の朝。
俺とプリシュールは一緒に朝食を済ませると、仕事へと出かけた。コーンさんは「夜の観測も仕事のうちだ」と言って給料をくれるが、朝に何もせず暇にしているくらいなら、仕事を探したほうがいいと思ったのだ。そこで、昨日新しく仕事を見つけておいた。
ピエール:「よし! 仕事開始だ!」
そこには一面に田畑が広がっていた。俺は鍬を手に取り、硬い土を耕していく。プリシュールは肥料の準備だ。
この仕事を選んだのは、俺が元々農家の息子だからというだけではない。朝に働き、夜に観測する。朝の仕事が夜の観測に響かず、夜の観測も朝の仕事に支障をきたさない。土をいじるこの感覚は、どこか実家に帰ったような安心感があった。一方、プリシュールはというと……。
プリシュール:「うう……この肥料、臭すぎます……」
彼は今にも吐きそうな顔をしていた。
プリシュール:「ふぅ……土を耕すのって、こんなに疲れるんですね。ピエール、あなたは以前もずっとこんな仕事を? 疲れないんですか?」
ピエール:「平気だ。実家の時に比べれば、これでもかなり楽なほうだよ」
プリシュール:「どうしてわざわざこの仕事を選んだんですか……」
彼は俺の考えにあまり納得がいっていないようだった。
プリシュールは家でも手伝いをしてくれるが、いつも荷車に作物を積んだり、床を掃いたりといった簡単なことばかりだった。そんな彼にとって、農作業は相当ハードなものらしい。
そんな風に夜まで働き、俺たちはコーンの家で夕食を摂った。
コーン:「今夜は天気が良さそうだ。行くぞ、星を観測しにな」
プリシュール:「門の外で見るんじゃダメなんですか?」
コーン:「場所が違えば観測の感触も変わる。いいからついて来なさい」
俺たちはコーンの足跡を追って進んだ。それは人里離れた山道で、周りには人影一つない。
「パチャッ……パチャッ……」
道中に響くのは足音だけ。俺とプリシュールは朝の仕事の疲れで口を利く余裕もなく、コーンも道を探すのに集中していたため、静寂が続いた。
「パチャッ……パチャッ……」 「パチャッ……」
足音がふいに止まった。
ピエール:「……着いたんですか?」
足元を気にしていた俺は、恐る恐る顔を上げた。
コーン:「顔を上げて見てみればわかる」
顔を上げた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、漆黒の空にまたたく無数の白い点だった。その美しさを目にした瞬間、ここまで歩いてきた長い山道など、この星空に比べれば微々たるものだと思えた。
コーン:「どうだ、来た甲斐があっただろう?」
ピエール:「……最高です! 今まで見てきたどの空よりもはっきり見える。これからもここに来ていいですか? ここで観測記録をつけたいんです」
コーン:「もちろんだ。これからは毎晩付き合ってやるよ」
ピエール:「本当ですね? 約束ですよ!」
翌日。
ピエール:「あれがオリオン座、あれが大犬座、そしてあっちが牡牛座だ」
ピエールは空を指差し、プリシュールに教えた。
プリシュール:「うーん……何を言っているのか、さっぱり分かりません」
プリシュールは困惑した顔で空を見上げている。
ピエール:「ははは、大丈夫だ。そのうち分かるさ」
プリシュール:「……でも、綺麗な星ですね」
ピエール:「だろ? これから一生、こうして一緒に星を見られたらいいな」
プリシュール:「……そうですね、たぶん」
彼の瞳に、一瞬だけ寂しげな色がよぎった。
コーン:「お前さんたちは本当に目がいいな。私にはもう、遠くの星まではっきりとは見えんよ。私の分までしっかり見ておくれ」
ピエール:「任せてください」
また別の日。
ピエール:「見てくれ、あれが火星で、あれが金星だ」
プリシュール:「やっぱり分かりません」
ピエール:「まあ……努力は認めるよ」
それから毎晩、コーンは俺たちをその場所へ連れて行ってくれた。俺は毎日紙とペンを手に記録をつけ、プリシュールに惑星や星座の解説をした。彼は最初こそ分からなそうにしていたが、少しずつ、驚くほど詳しくなっていった。
六ヶ月後。
プリシュール:「あれが白鳥座、あれが琴座、そしてあれがわし座ですね」
プリシュールが空を指差してピエールに言った。
ピエール:「……へぇ、最近かなり詳しくなったな」
プリシュール:「あなたの隣で六ヶ月も聞いていたんです。どんなに鈍い人間でも、時間さえあれば覚えられるものですよ。……私には、時間はたっぷりありますから」
ピエール:「よし、あともう半分で完成だ」
コーン:「完成って、何がだ?」
ピエール:「自作の天体模型図です。ようやく半分まで描き上げました」
プリシュール:「完成まで、あとどれくらいかかりますか?」
ピエール:「……あと六ヶ月だ」
つづく。




