夢のために
プリシュール:「それで……あなたの夢は何ですか?」
ピエール:「俺の夢、か……」
それは25年前の夜のことだ。俺はまだ幼かった。普段なら日が暮れる前に寝てしまうのだが、なぜかその日は寝付けず、夜更けまでベッドの中で寝返りを打っていた。
ふと窓の外を見ると、そこには見たこともない世界が広がっていた。真っ暗ではなく、かといって昼間のような明るさでもない。燃えるような赤い太陽は姿を消し、代わりに灰白色の光が満ちていた。空には小さな白い点が無数に散らばっている。
その日、俺は太陽が再び赤く染まるまで、一睡もしなかった。
朝になると、興奮気味に両親へ昨夜見たものが何だったのか尋ねたが、二人とも知らなかった。街の人全員に聞いて回ったが、答えを知っていたのは教主様だけだった。教主様は物知りで、当時の俺にとっては先生のような存在だった。彼は空についての知識をたくさん教えてくれた。
夜の太陽は「月」と呼び、白い点は「星」という。俺たちが住んでいるこの場所は「地球」という丸い形をしていて、星も太陽も月も、そして天そのものも球体なのだと。それらは地球を中心に回っているのだと。それ以来、俺は毎晩のように窓の外を眺め、美しい空を鑑賞するようになった。いつも夜遅くまで起きていた。
当時の俺は、空に関する知識をたくさん吸収した。
だが大人になると、家の手伝いに追われ、教主様を訪ねる時間はどんどん減っていった。やがて、全く行かなくなってしまった。
ピエール:「俺の夢は、夜の空を心ゆくまで眺めることなんだ。もっと夜の空について知りたい」
プリシュール:「天文学者、ですね」
ピエール:「天文学者?……それは何だ?」
プリシュール:「空を専門に研究する人のことです。普通は裕福な人がなるものですが」
ピエール:「……俺になれると思うか?」
プリシュール:「それは何とも言えませんが……。ほら、もう時間も遅い。まずは帰りましょう」
家に着くと、俺は宣言した。
ピエール:「母さん!俺、天文学者になりたいんだ!」
母さん:「……何を言ってるんだい?」
母さんは目を見開き、驚愕の表情で俺を見た。
父さん:「お前はこれからも農夫として生きるんだ」
父さんの声は低く、怒りが混じっていた。
ピエール:「どうしてだよ!」
父さん:「農夫という確かな仕事を放り出して、天文学者だなんて。天文学者への道がどれほど険しいか、わかっているのか?」
ピエール:「でも、これが俺の夢なんだ!」
父さん:「夢が飯を食わせてくれるのか?」
父さんの声が荒くなる。
ピエール:「夢は飯を食わせてくれないかもしれない。でも、自分の夢じゃないことで手に入れた飯なんて、きっとちっとも美味くない!」
両親は一瞬、沈黙した。
父さん:「……わかった。応援しよう。お前ももういい年だ。だが、夢を追うための金は自分で出しなさい。給料はいつも渡しているはずだ」
ピエール:「わかった!ありがとう、父さん!来月にはここを発つよ」
母さん:「本当にいくのかい? 苦労する道だよ……」
母さんの顔には不安が滲んでいた。
ピエール:「ああ、自分で決めたことだ」
翌日。
プリシュール:「そうだ、教主様に聞いてみてはどうですか?」
ピエール:「ああ、あの人なら詳しいはずだ」
教会にて。
ピエール:「教主様、俺、来月プリシュールと一緒にこの村を出ることにしたよ」
教主:「なぜだね?」
ピエール:「夢を叶えるためです」
教主:「夢?」
ピエール:「天文学者になりたいんです」
教主:「なるほどな……。だが、なぜ私のところへ?」
ピエール:「どこで天文学を学べるか聞きたくて。昔、空のことをたくさん教えてくれた教主様に、どうしても相談したかったんです」
教主:「W村へ行きなさい。ここからそう遠くない。私の知識も、元々はあそこで学んだものだ」
ピエール:「わかりました!ありがとうございます。じゃあ、行きますね。バイバイ!」
教主:「待ちなさい!」
その力強い声に、俺たちは足を止めた。
教主:「これは私からのささやかな気持ちだ。受け取りなさい。中には少しばかりの金が入っている」
教主はピエールに一袋の金を差し出した。
決して多くはないが、自分の貯金と合わせれば、あちらでしばらく生活するには十分な額だった。
ピエール:「……ありがとうございます!」
教主:「これが最後になるかもしれんな」
ピエール:「また会いに来るよ。バイバイ!」
プリシュール:「さようなら」
教主:「さらばだ」
一ヶ月後、出発の日。
俺は家の前で両親に別れを告げた。
母さん:「外では体を大切にするんだよ。ちゃんと食べて、水もたくさん飲むんだよ」
ピエール:「もう32歳だよ、子供じゃないんだから。……じゃあ行くよ。バイバイ! プリシュール、行こうぜ!」
父さん:「ああ。気をつけてな」
母さん:「元気でね。帰りたくなったらいつでも戻っておいで」
プリシュール:「さようなら!」
こうして、俺とプリシュールの天文学者を目指す旅が始まった。
つづく。




