星空は、美しい
「ヘイ! 君、天文学に興味があるのかい? もしよければ、これから僕も一緒に観察させてもらってもいいかな?」
彼がそう言った時、私はそれが自分に向けられた言葉だとは気づかなかった。彼が私の肩をぽんと叩いて初めて、自分に話しかけているのだと知った。
レイロ:「私に、何か用ですか?」
「当ててごらん。こんな時間にここにいる人間が、君と私の他に誰かいるかい?」
レイロ:「失礼ですが、あなたは?」
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名前はプリシュール」
レイロ:「それで、私に何の用でしょう?」
プリシュール:「僕は天文学が好きなだけの、ただの一般人さ。ここへ天体観測に来るたびに君を見かけるから、君も天文学が好きなのかなと思ってね。もしよければ、これから一緒に星を見ないかい?」
レイロ:「確かに天文学は私の趣味ですが……こういう観測は、どちらかと言えば一人で静かにやる方が好きなんです」
プリシュール:「そうか、邪魔をして悪かったね。それなら一つだけ聞かせておくれ。君は今、どんな惑星を記録しているんだい?」
レイロ:「ええと……火星、ですね」
プリシュール:「火星か! それはいいチョイスだ」
レイロ:「いい、ってどういう意味ですか?」
プリシュール:「いや、何でもないさ。それじゃあ邪魔をしないうちに失礼するよ。バイバイ」
そう言うと、彼は私から離れ、少し遠い場所へと移動して天体観測を続けた。
(こんな時間にも、私と同じように人がいるものなんだな)
それが彼に対する私の第一印象だった。特に深く気にかけることもなかった。なぜなら、今の私には目の前にあるもっと重要なもの――あの輝かしく美しい星空こそが、ここへ来た目的だったからだ。
記録を終えた私は、家へと戻り眠りについた。
翌日、私はいつものように学校へ行って授業を受け、いつものように放課後を待った。そして、いざ家に帰ろうとしたその時だった。
「待ちたまえ、レイロ。少し話があるんだ」
声をかけてきたのは、私の先生だった。
レイロ:「どうしたんですか?」
先生:「後で私の家へ来なさい。非常に重要な話がある」
レイロ:「重要って、一体何のことですか?」
先生:「来れば分かるさ」
(まさか、悪いことじゃないよね……)
そんな風に思いながら、私は先生の家へと向かった。
レイロ:「それで……一体何のお話なんですか?」
先生:「前にお前が解いたあの試験の解答用紙を、大学の関係者に見せたんだ。そうしたら彼らは、お前にはすでに大学へ入学するだけの実力が備わっていると判断した。ただし、まずは彼らの用意した試験に合格しなければならないがね」
レイロ:「つまり……その試験に受かれば、私は大学に入れるということですか?」
先生:「その通りだ」
レイロ:「試験はいつ、どこで行われるんですか?」
先生:「30日後、場所は大学の構内だ」
レイロ:「分かりました。他には何かありますか? なければ、もう失礼します」
先生:「用件はそれだけだ。また明日、学校でね」
レイロ:「さようなら」
家に帰ると、私はすぐにこの出来事を両親に報告した。
母:「それは本当に素晴らしいことじゃない! お前の実力なら、合格なんて間違いないわよ」
父:「それで、大学に入ったらどの学部へ進むかは決めたのか?」
レイロ:「私は、進みたいのは……」
母:「神学部よね! 何と言っても一番実入りの良い仕事だし、お父さんだって神学者なんだから」
父:「そうだ! お前は神学部へ進まねばならん! こればかりは譲れんからな」
私がふと窓の外の景色に目をやると、辺りはすでにいつもの天体観測の時間になっていた。
私は急いで部屋からあの草稿の束を持ち出し、玄関へと向かった。
レイロ:「ちょっと出かけてきます!」
母:「気をつけて行くのよ」
すぐに、いつもの観測場所へと到着した。
私は草稿の紙を広げた。夜空を見上げて記録をつけながらも、頭の片隅では先ほど両親と交わした会話がリフレ念していた。
大学へ進学すれば、選ぶ学部が将来の職業に直結することになるだろう。神学部か……。確かに高収入な職業ではあるけれど、それが本当に私のやりたいことなのだろうか? 私が心から望んでいるものは、一体何なのだろう。
気づけば、星空を仰いでいたはずの私の顔は、いつの間にか足元の草むらへと向けられていた。
(いや、今は深く考えるのをやめよう。まずは記録だ)
私は無理やり気持ちを切り替え、再び顔を上げて夜空を見つめた。
やはり、星空だけが私の心を穏やかにしてくれる。
しかし、大学のことが頭をよぎると、私はまたしても視線を落とし、未来の選択について考え込んでしまった。
「そんな様子では、せっかくの星空を心から楽しむことはできないよ」
レイロ:「プリシュール? あなた、今日も来ていたんですか」
プリシュール:「僕は毎日来ていると言っただろう? 今日の君はどこか様子がおかしかったから、気になって声をかけたんだ。何か悩み事でもあるのかい?」
レイロ:「……別に、何でもありません」
プリシュール:「それなら、今はただ星空を眺めるといい。本当に綺麗だからね」
私はその果てしなく広がる壮大な景色を見つめた。すると、波立っていた私の内面は、再び静かな平穏を取り戻していった。私はもう一度草稿の紙を取り出し、この美しい景色をその中に書き留めていった。
プリシュール:「星空は美しいだろう?」
レイロ:「ええ。他の余計なことをすべて忘れさせてくれるくらい、美しいです」
それからしばらくの時間が流れた。記録を終えた私は家へと戻り、体を休めて、また新しく訪れる明日を迎える準備をするのだった。
(つづく)




