壁の向こうの会話
父:「アンジェル、今日は弟……お前の叔父さんに用事があってな。今日は家に帰れないから、夕飯は待たずに先に食べておくれ」
父がそう言った時、私は仕事へ行く準備をしていたため、その表情を見ることはできなかった。しかし、その語気からは、どこか言い知れぬ違和感を覚えた。
アンジェル:「父さん、どうしたの? 今日の声、なんだか変だよ」
父:「何でもないさ、ただの軽い風邪だよ。すぐに良くなる」
アンジェル:「それならいいけど。じゃあ、私は先に行っているね。バイバイ!」
父:「ああ、バイバイ。道中気をつけるんだよ」
私が玄関から出ようとした、その時だった。
父:「待ちきれなくてな」
私は足を止め、父の方を振り返った。
アンジェル:「どうしたの?」
彼の表情は嬉しそうで、口元には笑みを浮かべていたが、やはり何かが決定的に引っかかった。
父:「ハグをしよう」
父は両腕を広げ、私が近づいて抱きつくのを待っていた。
普段の彼なら、絶対にこんなことはしない。
私は歩み寄り、彼を抱きしめた。父もまた、私を強く抱きしめ返してきた。
アンジェル:「たった一日会えないだけじゃない」
父:「分かっているよ」
抱擁を交わした後、私は再び玄関へと戻った。
アンジェル:「父さん、バイバイ。また明日ね」
父:「バイバイ」
教会へと続く道を歩きながら、私は今日の父の奇妙な様子の理由を考えていた。
そうだ、思い当たった。父がこの家を空けるのも、私と丸一日以上離れるのも、これが初めてのことだった。きっと、寂しかったのだろう。
それなら合点がいく。
私はその考えに納得し、教会へと到着した。
私とプリシュールはいつものように教会で仕事をし、ジョヴァンニはその傍らで私たちと雑談をしていた。
「パタパタ」と、突然足音が聞こえてきた。通常、この時間帯に教会へ人が来ることはない。いつもなら、掃除をしている私たちくらいしかここにいないはずだった。
私は好奇心から、掃除の手を止めて顔を上げた。
先頭を歩いていたのは、緑色の髪をした男だった。その髪色はジョヴァンニと同じで、彼の父親――つまり、この教会の「教主」に違いなかった。そして、彼の後ろにいる人物は両手を縛られ、教主に引きずられるようにして歩いていた。その姿は……。
嘘だ。あり得ない。そんなはずがない。どうして父さんがここにいるんだ?
叔父さんに会いに行くんじゃなかったのか? まさか……叔父さんに会いに行く途中で捕まったというのか?
私が驚愕の表情で凝視していると、父は憎々しげな視線で私を睨みつけてきた。しかし、その眼光は凶悪というよりは、衝撃に突き動かされているようだった。
ジョヴァンニ:「アンジェル、あの人を知っているのかい? さっきからずっと君を睨んでいるけれど」
アンジェル:「私の父だ。彼は、私がここで働いていることを知らないんだ」
その後、私は彼らの動向を注視し続けた。彼らは二階へと上がり、小さな部屋へと入っていった。教主が扉を閉めると、まるで誰にも聞かれてはならない秘密を話すかのような沈黙が流れた。
アンジェル:「ジョヴァンニ、プリシュール、見張りをお願い。私は上を見てくる」
ジョヴァンニ:「待って、僕も聞くよ」
プリシュール:「二人は行きなよ。ここは僕が見張っておくから」
私とジョヴァンニは二階へと上がり、その小部屋の壁にそっと、しかししっかりと耳を押し当てた。
父:「話しなさい。私に何の用だ?」
先に口を開いたのは父だった。
教主:「お前は私の過去の事件を知っているはずだ。私の妻は、お前たちのような異教徒に命を奪われたのだ!」
父:「あの事件については本当に気の毒に思う。だが、神を信じない者がすべてそのような悪人というわけではない。お前はかつて父さんがお前に語ったことを忘れたのか?」
アンジェル:「あの事件って?」
ジョヴァンニ:「後で話すよ」
教主:「あの事件以来、私はお前の説が正しいとは思えなくなった。異教徒はどこまでいっても異教徒だ。良い異教徒も悪い異教徒もない、異教徒はすべて悪だ!」
父:「ならば、私は違うというのか? 父さんは違ったというのか?」
教主:「私は父さんからそんな言葉を一度も聞いたことはない! 最初から最後まで、すべてはお前の片面的な言い分に過ぎない!」
父:「父さんは本当にそう言っていた。お前に言わなかったのは、私が本来の教主だったからだ! 私がやらなかったのは単に興味がなかったからだ。それに、教主になることがお前の幼い頃からの夢だったと知っていたからだ」
そこまで聞いて、私の頭は混乱を極めていた。父が本来の教主だったとはどういう意味だ? それに、二人の会話の内容はまるで実の兄弟のようだった。だが、なぜ父の髪は緑色ではないのだろう。
教主:「もういい! 過去の話を長々と聞くつもりはない。私が知っているのは、自分が現在の教主であり、お前が今は神を信じない異教徒だということだけだ。お前が私の兄であろうと誰であろうと関係ない。異教徒である以上、相応の審判を受けるべきだ」
父:「それは……まさか……」
父の言葉の端々から、恐怖と不理解が滲み出ていた。
教主:「そうだ。お前が考えている通りだ」
父:「お前は実の兄に対して、そんな無体なことを……」
教主:「お前は明日までここで待つがいい」
その言葉を聞いた瞬間、ジョヴァンニは私の手を引いて一階へと駆け下りた。
「ガチャン」と教主が扉を開け、外へと出てきた。
教主:「ジョヴァンニ、その人たちは君の友人かい?」
ジョヴァンニ:「うん。こちらはアンジェル、もう一人はプリシュールだよ」
教主:「こんにちは」
アンジェル・プリシュール:「き、教主様、こんにちは」
教主:「お前たちの姿は初めて見るな。普段、保護費を納めに来ているか?」
その問いは、私たちが保護費を支払っているかどうかを試すような響きを持っていた。
私とプリシュールが瞬時に言い訳を思いつけずにいると、
ジョヴァンニ:「僕と彼らは親しいから、みんな僕を通して保護費を納めているんだよ」
教主:「そうか。私は用事があるから、先に行くよ。バイバイ」
ジョヴァンニ:「バイバイ」
アンジェル・プリシュール:「教主様、さようなら」
そう言い残し、教主は教会を後にした。
今や、ここには私たちしかいない。父さんを救い出す絶好の好機だった。
私がジョヴァンニを見つめると、彼も私の意図を察したようだった。私たちが上へ向かおうとした、まさにその時、
プリシュール:「誰か教会へ来るよ!」
現れたのは知識人層の人々だった。この時間はちょうど彼らの勤務時間にあたる。
これでは動けない。私の父は、本当に処刑されてしまうのだろうか。私が絶望に囚われかけたその時――
「夜だ。今夜、君の父親を救い出そう。夜なら誰もいないし、僕が鍵を持っているから、こっそり忍び込める」
ジョヴァンニが突如としてその言葉を口にした。
ジョヴァンニ:「黙っているってことは、同意したとみなすよ!」
アンジェル:「約束だ!」
ジョヴァンニ:「約束だ!」
プリシュール:「約束だ!」
(つづく)




