父からの置き手紙
ジョヴァンニたちと時間を約束した後、私たちは一度それぞれの家へと帰った。
家に着き、扉を開けて靴を脱ぎ、リビングへと向かう。すると、いつもは何も置かれていないはずのテーブルの上に、一枚の紙切れが置かれていた。
なんだろう、これは?
私は好奇心から、折り畳まれたその紙を開いてみた。
そこには、以下のような内容が綴られていた……。
――愛する息子へ。お前がこの手紙を読んでいる時、私はもうこの世にはいないだろう。お前はきっと混乱しているに違いない。なぜ、さっきまで元気に話をしていた父親が、突然こんな形で語りかけてくるのかと。
今から、そのすべての理由を説明しよう。
私の名前はクヴァリン。お前も知っての通りだ。お前が生まれる前、私は教会で働いていた。正確に言えば、未来の教主となるはずの立場だった。だが、私は教主という仕事を引き受けたくはなかった。教会に縛られることは私の夢ではなかったからだ。だから私は、その仕事を弟――つまり、今の教主に譲ったのだ。
私の父、つまり先代の教主が亡くなる直前、彼は私に自分の想いを打ち明けた。この宗教の体制を変えてほしい、とね。神を信じないというだけで異教徒と見なすような考え方は、間違っていると。
しかし、当時の私は自分には関係のないことだと思った。変える義務などない、ただ平凡に生きたい、と。そこで私は、父の想いを大まかに弟へ伝えた後、この家へと移り住んだ。その時の私は、ただ退屈を恐れ、誰かの温もりを求めていたのかもしれな。そうして、お前を養子として迎え入れたのだ。
お前を引き取ってから、私の心にはそれまで一度も抱いたことのない感情が芽生え始めた。お前に傷ついてほしくないという想い、危険な場所へ行ってほしくないという願い、お前を全力で守りたいという衝動。そんな感情は、それまでの人生で経験したことがなかった。
その時初めて、自分には何の利益もないのに、誰かのために動く人間の気持ちが理解できた気がした。
その後、教会である事件が起き、人々を震撼させた。それまで決して起きたことのない悲劇だった。
あの日、私の弟、つまり現教主の家にひとりの男が押し入り、療養中だった弟の妻の命を奪ったのだ。
その後、その男は当然のように教主によって処刑された。
その話を聞いた時、私は弟のことを気の毒に思った。だが、それ以上に胸が痛んだのは、彼らにはお前と同じくらいの年齢の息子がいたことだ。当時はまだ小さな子供だった。母親をそんな形で失い、彼の世界からは大切な人が一人消えてしまった。そんな喪失の痛みを、まだ小さな子供が背負わなければならなかったのだ。本当に哀れでならなかった。
昔の私なら、そこまで考えが及ばなかっただろう。だが、お前がいてくれたからこそ、私の中には共感する心が生まれ、他人の痛みに寄り添えるようになったのだ。
その後、弟は私が伝えた父の言葉を忘れてしまった。彼は神を信じない者を異教徒と見なし、次々と処置するようになった。一人、また一人と、神を信じない者は彼の魔の手から逃れることはできなかった。そして、私もまた、彼の言う異教徒なのだ。
彼は本当に変わってしまった。もう私の知る弟ではない。
もしあの時、私が教主の仕事を弟に譲っていなければ、こんなことは起きなかったかもしれない。弟をあんな怪物に変えずに済んだかもしれない。
お前がこの手紙を読んでいる頃、私はすでに彼の魔の手に捕らえられているだろう。お前まで私と同じ目に遭うことはない。だから、すぐに行きなさい。ここはもう安全ではない。
アンジェル、愛しているよ。
――手紙は、そこで途切れていた。
読み終えた後、私の頭には無数の疑問が駆け巡った。私は養子だったのか? 父さんは本当に教主になるはずだったのか? 聞きたいことが山ほどあった。
手紙の最後には、すぐに逃げろと書かれていた。
だけど、ごめんね、父さん。今回だけは私の我が儘を許してほしい。
私はジョヴァンニたちと一緒に、絶対に父さんを救い出してみせる。その時は、聞きたかったことを全部ぶつけるから、覚悟してちゃんと答えてよね。
(つづく)




