違う
「おい、大丈夫か?」
その声が聞こえたとき、空はもう白み始めていた。いつの間にか眠り込んでいたらしい。
ソリタ:「ふあぁ……あんた、誰だよ?」
ソリタはあくびをしながら、ゆっくりと目を開けた。目の前に立っていたのは、身長160センチほどの黒髪の男だった。強盗を警戒しているのか、腰には短刀を差している。
「俺はアシュだ。あんたは?……それに、なんでこんなところで寝てるんだ?」
私はこれまでに起きた出来事を、包み隠さず彼に話した。
アシュ:「なるほどな。じゃあ、今は食べ物を持ってないのか?」
ソリタ:「その通りだ」
アシュは短刀を取り出し、鋭い眼差しを向けた。
アシュ:「……俺がニルクの差し金だとは思わないのか?」
ソリタ:「冗談……だろ?」
アシュ:「どう思う?」
ソリタ:「違うはずだ。もし追手なら、寝ている間に連れ去っているはず。わざわざ目が覚めるのを待つ必要なんてないからな」
アシュ:「ふっ、正解だ。推理通り、俺はただH村へ向かっているだけの一般人だよ」
ソリタ:「H村?どこにあるんだ、そこは?」
アシュ:「さっきの話からすると、あんたが目指すべき場所のはずだ。行く先の名前も知らなかったのか?」
ソリタ:「じゃあ、目的地は同じってことか?」
アシュ:「ああ。一緒に来るか?食料なら余分にある。分けてやるよ」
ソリタ:「ありがとう。でも、どうして見ず知らずの俺にそこまでしてくれるんだ?」
アシュ:「困っている奴を見ると、放っておけない性分なんだ。見殺しにするのは、殺すのと大差ないと思ってるからな。……さあ、質問の続きは歩きながらにしようぜ!」
彼は、どうやら善人のようだった。
ソリタ:「わかった、行こう」
こうして、私とアシュの五日間にわたる旅が始まった。
アシュ:「H村は俺の故郷なんだ。仕事で離れてたんだが、ようやく帰れることになってな。あそこで平凡な仕事をして、平凡に暮らすつもりだ」
ソリタ:「それは良かったな」
アシュ:「村に着いてからのあてはあるのか?なければ、しばらく俺の家に泊めてやってもいいぞ」
ソリタ:「……ありがとう!」
私たちは道中、語り合いながら進んだ。もっとも、ほとんどはアシュが一人で喋っていたのだが。五日間の旅はあっという間に終わった。
旅の間、私はアシュについていくつかのことを知った。
一、年齢は私と同じくらい。
二、孤児院育ち。愛を知らずに育ったからこそ、愛されない辛さを理解しており、同情心が非常に強い。
三、故郷の家は案外広く、二人暮らしには十分な大きさだ。
H村に到着した。
アシュ:「ここがH村だ。俺の家はあそこだよ」
アシュが指差した木の家は、確かにかなりの大きさだった。
ソリタ:「ありがとう」
家に着くと、アシュは言った。
アシュ:「ここがお前の部屋だ。貸してやるのは数日だけだぞ。その後は自立して家を出るか、俺からこの部屋を借りるか選べ」
ソリタ:「家賃はいくらだ?」
アシュ:「一ヶ月、銀貨一枚だ」
銀貨一枚で部屋を借りられるというのは、当時の物価ではパン一個分のようなもので、破格の安さだった。
ソリタ:「……最初から、追い出す気なんてないんだろ?」
その後、アシュは私に仕事を見つけてくれた。私たちは毎日仕事に励み、家で体を休めた。アシュは望み通り平凡な暮らしを手に入れ、ニルクももう私たちを見つけることはできないだろう。
一ヶ月後。
アシュ:「どうだ?仕事は順調か?」
ソリタ:「ああ、順調だよ」
アシュ:「じゃあ、家賃はどうした?」
ソリタ:「あ、忘れてた!ごめんごめん、これが今月分だ」
アシュ:「二度と忘れるなよ。銀貨一枚とはいえ、けじめは大事だからな」
ソリタ:「ああ、悪かったよ」
それからの私たちは、そんな風に平凡な日々を重ねていった。平凡だが退屈ではなく、豊かではないが満たされていた。その時間は、私にとって幸せなものだった。
そして……。
六十年の歳月が流れた。
アシュの髪は真っ白になり、皺が増え、歩くには杖が必要になった。
アシュ:「おい、また家賃を忘れてるぞ」
ソリタ:「おっと、そうだった」
ソリタは銀貨一枚を取り出した。
アシュ:「ソリタ、お前は本当に……少しも変わらないな」
アシュは銀貨を受け取った。
ソリタ:「なあ、アシュ。どうしてあの時、助けてくれたんだ?」
アシュ:「具体的にどの時のことだ?」
ソリタ:「六十年前、森で私を見つけて、家に住ませてくれたことだ」
アシュ:「言っただろう、見殺しにはできなかったんだ」
ソリタ:「その理由だけで六十年も養ってくれたなんて、信じると思うか?」
アシュ:「……ははっ、そうだな。本当は一ヶ月で追い出すつもりだった。でも、一緒に過ごすうちに、お前を友人だと思うようになったんだ。そうなると、追い出すなんて考えもしなくなったよ」
アシュ:「ふぁ……少し疲れた。先に寝るよ」
ソリタ:「ああ、休んでくれ。起きたらまた話そう」
アシュ:「……ああ」
だが、彼がその眠りから覚めることは二度となかった。
彼を知る人々は皆、声を上げて泣き崩れた。だが、誰よりも仲が良かったはずの私は、なぜか涙が出なかった。悲しくないわけではなかったのだが。
八十二歳になった私は、その土地ではすでに長寿の老人のはずだった。しかし、私の動作はアシュのように鈍くなることはなく、髪も白くならず、顔に皺一つ刻まれていなかった。感覚としては、二十歳の頃と何も変わっていないのだ。
私はアシュの死後、村を去った。
五十年が経っても、私は変わらなかった。一百年経っても変わらない。ただ、身長が少しだけ伸びたようだった。五百年の月日が流れた時、身長以外は何一つ変わっていなかった。
五百年で、身長は十五センチ伸びた。つまり、一百年ごとに三センチずつ成長していることになる。
私は気づいた。……どうやら私は、他の人間とは違うらしい。
私は様々な村を放浪し続けている。怪しまれないよう、一つの場所に留まれるのは短い期間だけだ。
ソリタ。(完)
つづく。




