相手の過去(下)
『お前たちのしていることは、お前たちの言う悪魔と何が違うというのだ』
あの日、銀貨の回収を終えた後に開いた紙切れには、そう書かれていた。
あの紙切れを書いたのは誰だ? 指しているのは、私たちが昨日行った布教の件に違いない。だが、なぜそのことを知っている? 彼は昨日、あの場所にいたのだろうか?
頭の中は疑問でいっぱいだったけれど、彼の言うことは正しいと、私は心のどこかで思っていた。
教主様はあの村の人間を殺した。……今までも、同じようなことをしていたのだろうか?
教主様は、本当に良い人なのだろうか?
私は、あの人を信じていいのだろうか?
その言葉が、また脳裏をよぎる。
いや、そんなはずはない。教主様は身寄りのない私を救ってくれた。私はあの人を信じるべきだ。
『お前たちのしていることは、お前たちの言う悪魔と何が違うというのだ』
紙切れの内容を思い出す。彼の言う通りではないか!
一体どちらが正しいのだ? 私には何が正しいのか、もう分からなかった。
「……もういい。時間も遅い、先に寝よう。明日にすればいい」
私はそれらの疑問をすべて頭の隅へと追いやり、眠りについた。
翌朝、私はいつものように起床し、いつものように朝食を摂った。昨夜の疑問については、できる限り考えないようにした。私は問題から逃避し始めたのだ。
さらに翌日、私は退屈を紛らわせるように市場をぶらぶらと歩き回った。やはり、あの疑問からは目を背け続けた。
そして、教会へ戻った時のことだった。
床に、一枚の紙切れが落ちていた。拾い上げて中を見ると、そこにはまた短い言葉が記されていた。
『すべての異教徒が悪人というわけではない。そして、異教徒を焼き殺すお前たちも、決して善人などではない』
その紙切れの左下には、小さな文字でこう書き添えられていた。
『もし良ければ、明日この場所へ来てくれ』
そこには簡単な地図が描かれ、場所が指定されていた。詳しい目印はなかったけれど、私にはその場所がどこで、どんな意味を持つ場所なのかがすぐに分かった。
そこは、私が初めて異教徒を捕らえた場所だった。私はそこで、異教徒を殺した。その経験は、今でも私の記憶に深く刻まれている。
生まれてからずっと、私は教主様の思想だけを聞いて育ってきた。異教徒たちの考えなど聞いたこともなかったし、これまでは興味すら持たなかった。だが、あの日、教主様に連れられて行った布教で目にした光景には、どうしても納得がいかなかった。教主様が本当に正しいのか、私は疑い始めていた。……だから今回は、その人物の言葉を聞いてみたいと思った。
私は明日、そこへ行くことを決意した。どんな危険が待ち受けているかは分からなかった。けれど、私の直感は、会いたがっているその人物が悪人ではないと告げていた。それでも万が一に備え、私は懐に小刀を忍ばせた。
翌日、私はその場所へ向かった。普段は滅多に人が来ない場所だ。今は、私とその人物だけがそこに立っていた。
彼の身長は170センチメートルほど。深みのある瞳をしていた。その顔にはあまり見覚えがなかったけれど、かすかにどこかで見た記憶があるような気がした。
男:「二年前、君はここで一人の異教徒を殺したね?」
彼が先に口を開いた。
私:「……ああ、それがどうした」
男:「君たちはその二人の異教徒を捕らえ、翌朝、生きたまま焼き殺した。そうだね?」
私:「そんなことを聞いて、何が目的だ?」
男:「あの二人には、一人の子供がいた。その子は生きている」
私:「……お前が、その子供なのか?」
男:「いや、その子の名はクオという。私はプリシュール。私が彼を引き取った」
私:「なら、なぜ私に会いに来た」
プリシュール:「君は、あの二人の異教徒がどんな罪を犯したか知っているのかね?」
私:「知らない。……なぜだ?」
プリシュール:「私にも分からない。だが君は、彼らが異教徒だというだけの理由で人を殺した。彼らは何の過ちも犯していなかったのかもしれない。……数日前に君が行った、あの村の人々のようにね」
私:「……じゃあ、もしその異教徒たちが、本当に何か過ちを犯していたとしたら?」
プリシュール:「君の教主なら知っているはずだ、聞いてみるといい。……時に、君の髪は緑色ではないね。教主の継承者ではないのだろう?」
私:「ああ。私は教主の助手を務めている」
プリシュール:「では、なぜそれほど異教徒を憎むのか、理由を聞かせてもらえるかい?」
私は、自分がかつて経験した過去を彼に語った。
プリシュール:「なるほど、そういうことでしたか。君がそれほど異教徒を憎むのも無理はありません。……さて、時間も遅くなってきた。もし良ければ、来週の今頃にまたここへ来てくれないか。クオを連れてきます。彼は君を深く激しく憎んでいるだろうが、心配はいりません。君に手を出させるような真似はさせないと約束します」
そう言い残すと、彼は立ち去った。私も教会へと戻った。
私:「教主様、私が以前、ここで殺した異教徒の件なのですが」
教主:「あの夫婦のことかい? どうしたね?」
私:「少し気になりまして……彼らは一体どのような理由で異教徒と見なされたのですか?」
教主:「彼ら私かい? ……よく覚えていないな。確か、神を信じていなかったからだ。多くの異教徒は皆そうだよ」
教主様は、その質問に対してまったく関心がない様子だった。
私:「……分かりました」
教主:「なぜそんなことを聞くんだね?」
私:「いえ、大した理由はありません。通常、異教徒がどのように認定されるのか興味を持っただけです」
(あの二人の異教徒は、そんな理由で私に殺されたのか。)
私がそこで殺したのは、おそらく悪魔などではない。
――人間だったのだ。
つづく。




