カルト教団の指導者の助手
西暦1000年頃。
「息子よ、このお金をあの袋に入れるのを忘れないでね。そうすれば神様が守ってくださるから、悪魔に襲われずに済むのよ」
そう言って母さんは腰をかがめ、その大きな手で、七歳の私の小さな手のひらに十枚の銀貨を握らせた。
そう言ったのは私の母さんだ。物心ついた時から、母さんはいつも神様の話を私に聞かせてくれた。けれど、私は一度も神様を見たことがない。
私は母さんからもらった十枚の銀貨を持って教会へ向かった。普通、朝は教主様を訪ねる人が一番多い時間だ。でもその時間は人が多すぎるので、私たちはいつも人の少なくなった夕方に行くことにしていた。その時間なら、教主様はいつも神様のお話をしてくれるからだ。
教会に着いた。
「銀貨を納めに来たのかい?」
声をかけたのは教主様だった。薄緑色の短髪で、背が高く、とても若く見えた。
バンハ:「はい、そうです」
教主:「ここに入れればいいよ」
彼は布袋を差し出し、私に入れるよう促した。
私は銀貨を中に入れた。
教主:「よし、これで大丈夫だ。……ところで、神様のお話を聞きたいかい?」
バンハ:「うん、聞きたい!」
教主:「では始めよう。……ずっと、ずっと昔のことだ。道には悪魔が溢れ、とても恐ろしい時代があった。そこへニルク様というお方が現れ、ほとんどすべての悪魔を退治してくださった。だが、まだ一部の悪魔は生き延びて逃げ出した。だから私たちは毎月十枚の銀貨を捧げなければならない。そうすることでニルク様、つまり神様の加護を受けられるのだよ。これが銀貨を納める理由だ。そして私は神様の末裔だから、生まれながらにして加護を受けている。だから銀貨を納める必要はないのさ」
バンハ:「悪魔って怖いんだね! 神様が守ってくれてよかった!」
教主:「そうだね。神様の加護がある時代に生まれて幸運だったよ。……他にも話を聞きたいかい?」
バンハ:「うん!」
教主:「これは、エンレットという名の教主の物語だ……」
しばらくして。
バンハ:「その教主様、かわいそうすぎるよ!」
教主:「そうだね。だから今は異教徒を警戒して、捕まえたら火で焼き尽くすことにしているんだ。そうすれば彼らが異教徒に変わることはない。……おや、もうこんな時間だ。暗くなる前に帰りなさい。遅くなってはいけないよ」
バンハ:「わかった、教主様さようなら!」
教主:「さようなら」
家に帰ると。
バンハ:「母さん、今日教主様が神様のお話をしてくれたんだ。すごく面白かったよ!」
母さん:「そうなの、よかったわね」
バンハ:「ねえ、これからも教主様のところへお話しに行ってもいい?」
母さん:「教主様の邪魔にならないなら、いいわよ」
バンハ:「やったあ!」
それからというもの、私は毎日教会へ通って教主様とおしゃべりをした。けれど彼はいつも忙しく、一日のうちでほんの少しの時間しかお話をしてくれなかった。待っている時間の方がずっと長かったけれど、どのお話もとても興味深かった。
(教主様は、本当に忙しいんだなあ)
教主:「バンハ、君もいつか手伝ってくれないかい? 一人だと少し手が足りなくてね。もしよければ、助けてほしいんだ」
バンハ:「もちろん、いいよ!」
教主:「それは助かるよ。ありがとう、バンハ」
翌朝。
また銀貨を回収する日がやってきた。教主様は布袋を持って教会の前に立ち、私はその隣で同じように布袋を持って銀貨を受け取った。
二人でやると、いつもより半分の時間ですべて回収し終えることができた。
教主:「本当に助かったよ。君のおかげで大助かりだ!」バンハ:「大したことじゃないよ」
教主:「そうだ。明日は異教徒の捕縛に行くから、ここには誰もいなくなる。君は明日、どこか別の場所へ遊びに行きなさい」
バンハ:「わかった、そうするよ」
翌日。
今日は教会へ行く予定がないので、私は一人で悠々自適に外をぶらついていた。
手伝いを始めたのは昨日が初めてだったけれど、以前から教主様が銀貨を回収する様子をそばで見ていたから、村人の顔は大体覚えていた。だが、一人だけ見慣れない男がいた。身長は百七十センチほど。深く澄んだ瞳をしていて、その顔は一度も見たことがなかった。この村の人間ではないのだろう。何か事情があって立ち寄っただけで、すぐに出て行くはずだ。そう思った。
それからすぐに、教主様が戻ってきた。
私は教主様の手伝いを本格的に始めるようになった。教主様はお金をくれた。「給料」というらしい。私はそれを大切に貯金することにした。
そんな風に、代わり映えのしない日々が過ぎていった。あの日が来るまでは……。
七年後。
ある日の夕方、教会の仕事を終えて家に戻った。
扉を開けると、いつもは賑やかなはずの我が家に、今日は何の物音もしなかった。
そして、私は信じられない光景を目にした。
父さんと母さん、それに見たこともない二人の男が倒れていた。
四人とも床に横たわり、その体には刃物で刺された跡がいくつもあった。
茶色かったはずの床は、鮮血で赤く染まっていた。
私は崩れ落ちそうな心を必死に堪え、教会へ走って教主様にこのことを伝えた。
現場に到着した教主様は、その光景を見ても何も語らなかった。ただ、見知らぬ二人の男の遺体を運び出すよう、人々に指示を出した。
その夜、私は教主様の家で夜を過ごした。涙が枯れるまで泣きながら眠りについたのを覚えている。
翌日、教主様は私を教会で休ませてくれた。これからは彼の家で暮らすことになった。
神は悪魔の攻撃から守ってくれるかもしれない。だが、一番恐ろしいのは人間だ。
憎き異教徒ども。……俺が必ず教主様と一緒に、お前たちを焼き尽くしてやる!
つづく。




