通信する
父:「エンレット、準備はいいか?」
心臓が激しく脈打ち、呼吸が浅くなる。
エンレット:「……すごく、緊張してるよ」
父:「最初なんだ、緊張して当然だ。よし、行ってこい!」
父は残された片方の手で、私の背中を教会の入り口へと押し出した。
外には、私を待つ村人たちが群れをなしていた。私は布袋を取り出した。
エンレット:「一人ずつ順番に……。慌てなくて大丈夫です。神様は皆さんをお守りくださいます」
高齢になり、腕を失った父に代わり、私は最も望んでいなかった職に就いた。
銀貨を回収する手伝いは何度もしてきたが、教主として自ら受け取るのは初めてだった。その重みは、今までとは全く違っていた。
しばらくして、銀貨の回収が終わった。
父:「どうだ、慣れたか?」
エンレット:「……すごく疲れたよ。前はこんな風に感じなかったのに」
父:「緊張していたせいだろう。気にするな、私の時もそうだった」
父はそう言って、自分の部屋へ休みに行った。
エンレット:「おい、もう出てきていいぞ。今は俺とあんたの二人きりだ」
私が声をかけると、一人の男が姿を現した。プリシュールだ。
プリシュール:「……それで、君は本当に一生教主として生きるつもりですか?」
エンレット:「ああ。あの掃討作戦の後、いろいろ考えたんだ」
プリシュール:「……私を異教徒として捕まえますか?」
エンレット:「まさか。教主にはなるが、俺はあんな教主にはならない」
プリシュール:「ほう、ではどんな教主になると?」
エンレット:「俺が捕まえるのは、真に悪逆非道な奴らだけだ。あんたのように考え方が違うというだけで、誰かを捕らえたりはしない」
プリシュール:「それは素晴らしい考えだ。……だが、それで君は幸せですか? そんな短い寿命の中で、本当にやりたいことをしなくていいのですか?」
エンレット:「いいんだ。これが俺の宿命だと思っている。俺はこの人生、教主になるために生まれてきたのかもしれない」
プリシュール:「……そうですか。君の考えを否定はしませんよ」
それから、私は毎日同じ仕事を繰り返した。集まった銀貨は私腹を肥やすためではなく、村の修繕や兵士を雇うために使った。
そんな日々が続いた。時折、他村へ異教徒狩りの手伝いに行くこともあった。(これも一種の冒険と言えるだろうか。)ただ、私はよほどの悪人でなければ、いつも彼らを見逃してやった。
その中で、特に印象に残っている一人の少年がいた。十五歳くらいの、手入れのされていない黒い長髪をした少年だ。その瞳は、何も信じていないような冷ややかな光を宿していた。
幼い頃に両親を亡くした彼は、神が何かも知らず、それゆえに教主たちから追われていた。放っておけば行き倒れるしかない彼を、私は村に留まらせた。
住む家を与え、食べ物を分けた。彼が大人になるまで面倒を見ようと思っていた。
だが三日後、彼は何の前触れもなく逃げ出した。私に申し訳ないと思ったのか、あるいは教主に傷つけられすぎて、私のことさえ信じられなかったのか。
どんな過酷な経験をすれば、差し伸べられた手さえ信じられなくなるのだろう。私は心から彼を不憫に思った。
それから三年の月日が流れた。
私は仕事にもすっかり慣れ、かつての未熟さは消えていた。しかし、父は日に日に衰え、かつての活気は失われていった。
別れの時が近いことは、分かっていた。
そしてある日、父は本当に逝ってしまった。
覚悟はできていたつもりだった。けれど、いざその時が来ると、父は何も言い残さず、あまりに呆気なく私の前から消えてしまった。
父がこの世を去った瞬間、私は自分が全く覚悟なんてできていなかったことを知った。
二人の思い出が詰まった家で、私は一人、声を上げて泣いた。胸が張り裂けそうだった。教主としての父のやり方は認められなかったが、父親としての彼は、世界で一番の父親だった。
葬儀には、村中の人々が集まった。誰もが悲しみに暮れ、中には私よりも激しく号泣する者さえいた。
父がいなくなり、この家には私一人だけになった。この孤独感……プリシュールが言っていたのは、これのことだったのか。いつも話し相手になってくれた父がいない日々は、耐え難いほど寂しかった。
数日後、道でプリシュールに会った。
プリシュール:「やあ。久しぶりですね。……お父上のことは、残念でした」
エンレット:「ああ……。あんたの言った孤独が、ようやく分かったよ。教主の仕事を続けていてよかったと思う。でなきゃ、この孤独に押し潰されていたかもしれない」
プリシュール:「お疲れ様。教主の仕事は大変ですか?」
エンレット:「ああ、死ぬほど疲れるよ! でも、これが俺の宿命なんだろうな」
私たちは少し言葉を交わし、私は家路についた。
それからまた、数ヶ月が過ぎた。
あの日、私はいつものように村人たちから銀貨を受け取っていた。
長く仕事を続けているため、村人の顔はほぼ全員覚えていたが、その中に見慣れない顔が混じっていた。
男は左手で五枚の銀貨を袋に投げ入れた。私はその顔を確かめようとした。
――その瞬間。
鋭い何かが私の体を貫いた。
衝撃で下を向くと、私の腹部にはナイフが深く突き刺さっていた。間髪入れず、二度、三度と刃が振り下ろされる。私はそのまま地面に引きずり倒された。
(なぜ……? どうして俺が……?)
わけが分からなかった。私は死に物狂いで目を開け、男の正体を見た。
乱れた髪、誰も信じない冷徹な瞳。……あの少年だ。三年前、私が救おうとした、あの少年だ。
少年:「……この、薄汚い悪魔め! これが俺の復仇だ! 六年前の報いを受けろ! よくも父さんを……ブルーを殺したな!」
(俺たちが、悪魔……? 殺した……? 六年前……? まさか、彼はあの時の……)
(……でも、どうして。話し合えば分かるはずだ。俺だって、神なんて信じていないのに……)
少年の叫び声が遠のいていく。私の意識は、深い闇へと溶けていった。
エンレット(完)
つづく。




