悪魔の定義とは?
五年後。
父と初めて異教徒狩りに行って以来、教主になりたくないという思いは日に日に強まっていった。父も、そんな私の様子に気づいているようだった。
父:「エンレット、お前は教主になりたいか?」
二十一年間生きてきて、初めて聞かれた言葉だった。これまではいつも「エンレット、お前は次期教主だぞ」と言われてきたのに、彼は初めて私に問いかけたのだ。
エンレット:「……どうしてそんなこと聞くの?」
父:「なりたくなさそうに見えるからだ」
(……そんなに顔に出ていたのか?)
エンレット:「そんなことないよ!」
(……本当は、なりたくてたまらない!)
父:「そうか、わかった。……そうだ、明日は異教徒の掃討に行く。深夜に出発するから、早く休んでおけ」
エンレット:「……わかった」
そうして深夜、午前二時か三時頃に私たちは起床し、隣の村へと向かった。そこは異教徒たちに占拠されたという。我々と他村の教主たちが協力し、助っ人を連れて鎮圧に向かうのだ。今回の相手は非常に手強いらしい。
父:「なぜ深夜に動くか、わかるか?」
エンレット:「どうして?」
父:「この時間が奴らの防衛が最も手薄になるからだ。占拠して数日、奴らは精根尽き果てているはずだ。多くの死人を出し、深夜の見張りも重なれば、疲労はピークに達しているだろうよ」
エンレット:「それで、三日も待ってから動いたのか」
父:「その通りだ」
村に到着すると、村の周囲には多くの見張りが立っていたが、我々には気づいていない。
私と父、そして村の助っ人たちは近くの草むらに身を潜めた。他村の部隊はどうなっているだろうか。すでに攻め込んでいるのか、それともまだ道中なのか。
父:「奴らの目を見てみろ」
エンレット:「……焦点が定まっていないし、足取りもふらついている。ずっと寝ていないんだね」
父:「いい観察眼だ。……それとな、もしお前が奴らの立場で、村を占拠して何日も援軍が来なかったら、どう考える?」
エンレット:「……僕なら、もう敵は来ないと思う」
父:「正解だ。奴らもそう思い込んでいる」
エンレット:「どうやって攻め込むの?」
父:「私がまず囮になって火力を引きつける。その隙にお前たちは村へ潜り込め」
エンレット:「……他の人を派兵できないの?」
父:「私の経験からして、あの異教徒どもは首に懸かった賞金で動いている。殺せば殺すほど稼げる仕組みだろう。私のような緑の髪の教主は、さぞ高値がつくはずだ。奴らの目は私に釘付けになる。そこがお前たちのチャンスだ。安心しろ、私は死なん」
そう言うと、父はゆっくりと立ち上がり、敵の方へと歩き出した。
「おい、あいつは誰だ?」
「おい見ろ、髪が緑色だぞ!」
「ありゃ相当な賞金首だぞ!」
「追え! 逃がすな!」
一人が父の方へ向かうと、父は反対方向へ走り出した。
「おい、ここを守るんじゃなかったのか?」
「もう何日も経ってるんだ、誰も来やしねえよ! 目の前の賞金を逃すつもりか?」
「でも……」
「ならお前だけ残れ! 俺たちは賞金を掴みに行ってくる!」
「……わかったよ!」
結局、残った見張りは一人だけになり、他の奴らは皆父を追いかけていった。
三十秒後、我々は一斉に飛び出し、残った一人を打ち倒して村の中へと突き進んだ。
進んでいく道中、なぜか敵の姿はなかったが、あちこちに村人の死体が転がっていた。二メートル歩くごとに死体がある、そんな惨状だった。
「ひどいな……異教徒にここまで荒らされるとは」
「ここの教主が、あまりに善良すぎたのが仇となったな」
エンレット:「善良すぎた? どういう意味?」
私は気になって尋ねた。
「知らなかったのか? あの異教徒どもは一度捕まったんだが、ここの教主が奴らの反省したフリに騙されてな。改心したと信じて村に受け入れた結果が、これだ」
「異教徒ってのは、決して変わらんのさ」
エンレット:「そんな背景があったのか……」
私たちは話をしながら敵を探したが、村の中は静まり返っていた。やがて……。
「他村の者か?」
「お前たちは?」
「L村の部隊だ」
「敵は全部片付けたのか?」
「ああ、終わったよ」
「教主様を助けに行かなくていいのか?」
「お前たちの教主がどうした?」
「敵に追われているんだ」
「なら急いで――」
「……その必要はないぞ」
遠くから声がした。父の声だ。
エンレット:「父さん! よかった……」
霞んでいた視界がはっきりしてくると、戻ってきた父の姿が見えた。……彼の片腕は、失われていた。
追跡されている間に何があったのかは分からない。ただ、彼は生きて帰ってきた。
任務はこうして終わった。占拠された村に、生存者は一人もいなかった。
家に戻り、ベッドに横になって休む。
(……教主の中にも、あんなに善良な人がいたんだな)
(だが、その善良さが彼の死を……村の滅亡を招いた)
(他の教主たちが情け容赦なく異教徒を処刑するのも、民の安全を守るためなのか。誤認であっても、見逃すよりはマシだと考えているのか……)
(……それが教主という存在の目的。悪魔の上着を羽織った人間……)
(そして俺は、いつかその上着を着なきゃいけないんだ)
(でも、それじゃあ、間違われて殺される異教徒があまりに不公平じゃないか……)
この世界、一体何が正しいんだ……。
つづく。
今後は週に一度更新されます。




