039
遺言の再生が途切れるのと同時に、
杏華は持っていた紙袋を叶実に手渡した。
杏華「開けてみて、お母さんからの贈り物よ。
どうか、彩華の思いを受け取ってあげて…」
杏華は言葉を詰まらせながら、そう話した。
美青は涙を溜めながら、叶実を見守る。
叶実は頷き、紙袋から箱を取り出す。
そして、リボンを解いて蓋を開けた。
箱の中には、
母の遺言を吸い取ったミイロタイマイに
そっくりな耳飾りが二つ入っていた。
叶実は片一方だけ手に取り、
ピアスフックを摘んで蝶のパーツを眺める。
あのシャボン玉に似た模様の部分は
ステンドグラスになっていて、
反射光がテーブルを照らした。
照らされた光は、虹のように輝いている。
ずっと霧がかかっていた叶実の心に、
虹色の光が一筋、差し込んだ。
叶実の目からは涙が零れ落ちる。
生まれた瞬間から母がいない叶実にとって
それ以上に悲しいことはなく、
どんなに痛みや苦しみを感じても
一度も泣いたことがなかった。
涙で視界がぼやけ、涙越しに耳飾りが光り輝く。
その様は、まるでシャボン玉だ。
叶実は泣きながら美青に身体を向ける。
叶実「美青、私…お母さんから貰った
この耳飾りを毎日身に着けたい。だから、
私の耳にピアスを開けてくれないかしら。
これは、どうしても美青に頼みたいの。
お母さんのいう、私にとっての大切な人は、
美青だから」
美青も泣きながら、叶実の気持ちに応える。
美青「もちろんだよ、今日開けよう!!
今日は大事な日なんだから、記念にね。
お誕生日おめでとう、叶実…ちゃん」
美青が勢いに任せて下の名前で呼ぶと、
叶実は一瞬驚き、すぐに嬉しそうに笑った。
お礼を言うために杏華の方を向くと、
優しい顔で叶実を見つめていた。
その表情は、母の面影そのもの。
さっきまで叶実に語りかけていた
彩華が、目の前に現れたようだった。
叶実は泣きながら、何度も、何度も
杏華にお礼を言った。
杏華に母の姿を重ねて、
何度も、何度も、涙を拭うのも忘れて
ありがとう…と言い続けた。
それから二人は、杏華と共に
神社内にある彩華の墓参りをした。
杏華が持ってきた供花を備え、線香を置き、
それぞれが彩華を思って手を合わせた。
電車で来た杏華を駅まで見送った後、
その足でピアッサーを買いに行く。
気付けばカゴにはシャボン玉が入っていた。
美青が微笑みながら叶実を見ると、
叶実は照れくさそうに顔を背けた。
二人は帰り道、シャボン玉を吹きながら
神社へと歩いた。
どこまでも飛んでいきそうで、
ふいに割れる、その儚さを見つめながら。
ふと、美青が叶実に提案をする。
美青「ねぇ、ケーキ買って帰らない?
帰ったらお誕生日のお祝いしようよ!」
すると、叶実は気まずそうな顔で答える。
叶実「その心配はいらないわ…帰ったら
ケーキも料理も山ほど用意されているから。
毎年そうなのよ、誕生日はお父さんが
食べきれないほど色々買ってくるの。
…美青も一緒に食べていかない?」
美青は叶実の表情に疑問を持ちつつ、
うん!と即答した。
神社に着いて居間に向かうと、
ケーキのサングラスをかけた男性が
クラッカーを鳴らして叫んだ。
「叶実ちゃん!!ハッピーバースデー!」
彼こそが、叶実を複雑な顔にさせた張本人、
叶実の父・水六だ。
叶実「…私が今まで頑なに会わせなかった
理由がわかったでしょ?恥ずかしい…」
水六「君が美青ちゃん!?どうも、初めまして。
叶実の父です。やっと会えた!可愛い娘の友達に!
ずっと会わせてって言ってたのに叶実が拒むんだ。
うちで働いてくれているうえに、夕飯の用意まで…
本当にいつもありがとうね!
よかったら一緒に食べていってよ!」
叶実は美青が引いてないか顔を伺う。
美青は引くどころか、嬉しそうに会話をしている。
何故かもう一つ用意されたケーキのサングラスをかけて
水六と叶実に向かってクラッカーを鳴らした。
『ハッピーバースデー!』の大合唱と共に。




