9_ミイロタイマイの遺言【最終話】
手水舎の水が凍るほど気温が下がり、
天気予報は今夜にも雪が降る見通しだと伝える。
12月23日。
世間はクリスマスムード一色だ。
美青はスマホの連絡先を開き
『蝶花楼 叶実』をタッチする。
通話ボタンに触れようとする人差し指は、
画面に触れる寸前で離れて、また押す寸前で
離れて、という動作を繰り返している。
美青は、25日のバイト終わりに
クリスマスパーティーをしないかと
誘いたくているが、叶実は宮司の娘。
触れてはいけないかもしれない…
蝶花楼家では御法度なのでは…
美青の頭に一抹の不安が過ぎり、
誘いたくても誘えずにいた。
美青「蝶花楼さんにお父さんがいることは
知ってるけど…一度も会ったことがないし、
お母さんはいないのだろうけど、その理由は
わからない。もう一年近く一緒に居るのに、
まだ知らないことばっかりなんだよな…。
年齢も知らないし、学校は通ってる様子もない。
何気なく聞けるようなことなのに、なんとなく
触れたら全てが終わっちゃう気がして聞けない」
深いため息をつき、窓の外を眺める。
美青「小学生みたいな悩みだけど、いつかは
叶実ちゃんって呼べる仲になれるのかな。
私を救ってくれたように、時々悲しい顔をする
理由が知りたいし、悩みがあるなら救いたい。
あなたの一番の理解者になりたいんだよ…」
今にでも雪が降り出しそうな暗い空が、
叶実が時折見せる表情と重なる。
美青はそっとカーテンを閉めた。
翌日
クリスマスイブ。
昨日積もった雪で雪だるまを作っていると、
紙袋と供花を持った女性が歩いてきた。
美青「クリスマスイブに参拝へ来るなんて
珍しいよね、何か用事があるのかな?」
叶実「……」
美青「蝶花楼さん、どうしたの?」
叶実は女性の顔を見て、目を見開く。
これほどまでに叶実が動揺する姿を、
今まで見たことがない。
女性は、真っすぐ叶実の目を見つめながら
自己紹介をした。
「叶実さん、よね。そっくりですぐにわかったわ。
棗 彩華、あなたの母親の双子の姉・棗 杏華です」
突然の訪問に、叶実は何も発せずにいる。
杏華「びっくりするわよね、初めましてだもの。
今日はあなたに渡してほしいと託されていた物を
届けにきたの。少しお話できるかしら」
叶実「ええ…こちらにどうぞ…」
美青は叶実が聞かれたくないのではと考え、
小さい声で耳打ちをした。
美青「私、邪魔になるから今日は帰るね」
すると、叶実は美青の腕を強く掴んだ。
叶実「行かないで!お願い、一緒にいて…」
美青の腕を掴むその手は震えている。
始めて見る叶実の怯えた姿に、
美青は安心させようとぎゅっと手を握った。
美青「大事な話に同席させてくれてありがとう。
大丈夫だよ、私が隣にいるから安心して」
叶実は少しほっとした顔を見せたが、杏花と
茶室で対面すると、元の強張った表情になった。




