表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇吸蝶図鑑  作者: 夜宵
33/41

033



美青「気のせいかな、何か拗ねてるような…」



叶実「私にもそう見えるわ。もしかしたら

わざと脱走したのかも…」



美青「わざと?そんなことあるかな?」



叶実「本当のことはこの子にしかわからないわ」



叶実は近くを舞う蝶を呼び寄せ、

シルバの心の声を吸い上げるように伝えた。



蝶はシルバの左耳に止まり、

花の蜜を吸うように、口吻を耳の穴へ向ける。



すると、蝶の(はね)は、銀杏の葉のような

綺麗な黄色に染まった。


翅の縁や所々に広がる斑点の色は、

銀杏の幹を連想させる。




その姿は、秋に飛び交う

モンキチョウそのものだった。




万華鏡部屋にシルバを連れて行きたかったが、


琥珀が警戒することを想定して

叶実の手鏡で記憶を再生することにした。



モンキチョウが手鏡を一周すると、

シルバと飼い主が散歩している様子が映った。





朝6時。


世間が欠伸をしながら起床し始める頃、

住宅街を散歩していた。



飼い主の名前は秋本 柊吾(とうご)




散歩中、浮かない顔でため息ばかりつく柊吾。


シルバは一緒に散歩できることが嬉しくて、

彼もそうであってほしいと、時々顔を見ながら

歩いていたが、一度も目が合うことはなかった。



以前はシルバを見ながら声をかけてくれて

毎日笑顔を見せてくれていた。




様子がおかしくなったのは約半年前、

入籍をして、結婚式の打ち合わせを始めた時期。



初めは資料を妻とシルバと一緒に見て

楽しそうにしていた。



次第に意見の食い違いや決め事、準備する物が

多すぎて、仕事と家事の両立をするなかでは難しく、

お互い余裕がなくなり喧嘩が増えていく。



シルバは二人が喧嘩になると、別室へ逃げた。

いつもどちらかがシルバを迎えにやってきて

頭を撫で、うるさくしてごめんね、と謝る。



大好きな人たちが怖い顔をしている日々は

シルバにとって辛かったが、『あの日』さえ

柊吾が覚えていてくれたらと、信じて耐えた。



『あの日』というのはシルバと柊吾が

出会った日のことだった。









シルバは元々、野良犬だった。



一般家庭で数匹生まれ、公園に捨てられた。


兄弟は道行く人に箱の上から手を差し伸べられ、

次々といなくなり、シンバだけが取り残された。



空腹でゴミ箱を漁りながら寝床を見つける日々。


月日は流れ、気が付けば年齢は一歳になっていた。




そんなある日の早朝、


シルバは山積みになった銀杏の葉をベッドに

朝日が昇るのを眺めていた。



すると、斜め前の方からカシャ、っと

シャッター音が聞こえた。



そこに現れたのは、柊吾だった。




柊吾「おはよう。いいベッド持ってるな!

お腹すいてるだろ、一緒に朝飯食おうぜ」



柊吾は遠くからシルバの姿を見つけ、

近くのコンビニで犬用フードを買ってきていた。



フードをがっつくさまに、柊吾は

シルバが野良犬だと察した。




柊吾「どうだ?美味いか?こんなに痩せちゃって…

お前、よく頑張ったな。ここに来てなかったら、

どうなってたんだろうな。出会えなかったことを

考えたくもないよ」



そう言いながら、シルバを優しく撫でた。


シルバは、信用できる人だと一目見て感じ取り、

じっと目を見て、柊吾の声に耳を傾けた。




柊吾「俺、毎朝この時間に散歩をしているんだ。

お前も今バッチリ起きてる、毎朝散歩に行くぞ。


仕事から帰るまではつまらないかもしれないけど

おもちゃやご飯は沢山用意するよ。お前がもう、

どこにも行かなくていいように。


だからさ…うちに来いよ、シルバ」



シルバは言葉の全てがわからくても、

自分を受け入れてくれるということは理解でき、

目を輝かせた。



その眼には、柊吾の姿と朝日が反射して

キラキラと輝いていた。




柊吾「シルバ、いい名前だろう?銀杏の銀から

取ったんだ。今日からお前の名前は、シルバだ。

今日はシルバが俺と家族になった記念日にしよう。

11月21日には、毎年ここで朝飯を食べながら、

朝日が昇るのを一緒に見ような」




シルバは返事はせずとも、

柊吾の口元をペロペロと舐めた。



ここでシルバの記憶の映像は途切れる。




美青と叶実は同時にカレンダーを見た。


今日は11月20日。

家族記念日は、明日だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ