8_モンキチョウの雲隠れ
木々が色づく季節になり、
叶望神社は庭掃除に追われている。
綺麗にしても翌朝には元通りで、
いくら掃いてもきりがない。
叶実は心底ウンザリしていた。
叶実「はぁー・・美青、早く来て頂戴・・
何年経ってもこの時期だけは憂鬱だわ」
美青に叶実の嘆きが届くはずもなく、
スーパーで夕食の買い出しをしていた。
会計が終わり、
購入品をエコバッグに入れる。
全てを入れ終えてカゴを片付ける際、
窓に《探しています》と書かれた
ポスターが貼られていることに気付く。
美青「ワンちゃんだ…白の雑種くん。
可愛い子だな、脱走したのかなぁ…」
詳細を見てみると、昨日の朝、
散歩中に脱走したとのことだ。
名前はシルバ。6歳のオス。
黒の毛色に、耳がピンと立っている。
毛並みや表情を見るだけでも
大事にされているのが伝わった。
美青「逃げたのが昨日なら、まだ
この付近にいるかもしれないな…」
もしかしたら出会うかもしれないと、
美青はスマホを手に取り、ポスターの
写真を撮った。
美青「早く帰れますように…」
写真のシルバを見つめながら、無事に
飼い主の元へ帰れることを願った。
美青が神社に着くと、
叶実が竹箒を支えにしゃがみ込んでいた。
叶実「おかえりなさい…美青。あなたの帰りを
ずっと待ってたわ。落ち葉を集めて塵取りに
掃くと重くて重くて…とんだ重労働だわ。これが
あと何週間続くのかしら。腕や腰が痛いわ…」
美青「昨日は雨だったから、落ち葉が水分を吸って
更に重くなっちゃったのかも…すぐに支度して
来るから待ってて!」
支度を終えた美青が加わり、日が暮れる前には
何とか落ち葉の掃除を終えることが出来た。
叶実「終わった…もう寝たい」
美青「お疲れ様!大変だけどさ、神社と言えば
銀杏の木ってイメージだし、落ち葉の掃除さえ
なければ綺麗だよね。銀杏は秋の風物詩だもの」
叶実「そうね、見ている分には綺麗よね…」
『ワン!!!』
美青・叶実「……え?」
背後から、二人の会話に紛れ込むように
犬の鳴き声がした。
振り返るとそこには
真っ黒で耳をピンと立てた一匹の犬がいた。
美青は慌ててスマホを取り出し、
犬の顔の脇に画面を並べて見比べた。
叶実「何そのポスター、迷い犬の?」
美青「そう!今日スーパーに貼られていたの。
この子、そっくりじゃない?シルバくんに」
犬『ワン!!!』
叶実「あら、名前に反応してるじゃない。
確定ね。シルバ、お手」
シルバはすぐに叶実の掌に手を置き、
尻尾を振って褒めてもらえるのを待っている。
叶実「いい子ね、シルバ」
叶実はシルバの頭を優しく撫でた。
美青「シルバ、昨日の朝、散歩中に脱走して
おうちがわからなくなっちゃったの?あなたの
飼い主さん、心配して探しているわ」
美青がシルバにポスターの写真を見せると
しばらく見てからぷいっと顔を横に背けた。




