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ナリアはリベリオからの指示に小さく頷き、外套を外してリリーナの元へ歩み寄った。近付くにつれて、その酷い有様が露わになる。元は薄い背中だったのも分からないぐらいに赤く腫れあがり、ナリアは泣きそうになるのを必死で堪えてそっと身体を包んだ。
「あ…お…お嬢…様…。ど…して…」
「いいから、無理して喋らなくていいのよ。もう大丈夫だから。少し身体を起こせる?」
ナリアは穏やかな声で話しかけ、少しずつ上体を起こさせて自分の身体で支えた。リリーナが震えながら掠れた声ですすり泣いている。そっと頭を撫で、リベリオに向かってもう一度小さく頷いた。
「連れ戻しに来たとはどういう事ですかな?確かリリーナは貴殿への不敬行為で解雇になったと聞きましたが。」
「えぇ。ですが、それは母の誤解でした。母と一緒にその場にいたナリア嬢が証言してくれましてね。リリーナ嬢は私の顔の近くにいた虫を追い払おうとしてくれていただけだと。」
ピラデル男爵がナリアに視線を向ける。射抜くような瞳で真っ直ぐに見つめ返され、咄嗟に視線を逸らせた。
「…そうでしたか。誤解でしたのなら私としては安心しました。ですが、この通り娘はしばらく働くことができませんので、今日のところはお引き取りを…」
「何を仰っているのです。私は『返してもらいに来た』と申し上げたのですよ。」
「誤解で人を解雇しておいて、返してもらうも何も…。」
「おや、まだ分かりませんか。『誤解という事にしておいてやる代わりにその娘を返せ』と申し上げているのですよ。そうしてもらわないと困るのはこの娘ではなく貴殿の方ではありませんか?」
リベリオはニコリと微笑みながら足を進め、ナリアの側に膝をついた。小刻みに震えるリリーナを見て、ジロリとピラデル男爵を睨み上げた。
「…これはどういう事ですか?なぜこの娘はこのような酷い怪我を?」
「これは…娘が不敬行為を行ったと聞きましたので、親として教育し直したまでです。」
「なるほど…つまり、貴殿が手を下したのですね?」
スッと立ち上がり、ピラデル男爵の前に立ちはだかる。リベリオは胸を張って眼前の男を睨み下ろした。
「父とリリーナ嬢との雇用契約はまだ継続されている。つまり、この者はまだデガート家が所有している事になる。貴殿はデガート家の者に手を出した、という事で間違いないな?」
「え!?な、なぜそうなる!!私が私の娘をどうしようが、関係無いだろう!!」
「何を言っている。今言った通り、この者は父リスター・デガート伯爵が管理している者だ。その者に手を出すという事は、デガート伯爵家に手を出すも同意。覚悟はできているのだろうな。」
ピラデル男爵はヒュッと喉を鳴らして後ずさった。代々王宮近衛騎士団に所属し、王族の身辺警護を務めてきた由緒ある武芸一族であるデガート家を敵に回すという事は、それに属する武芸派の貴族をも敵に回す事となる。中には闇家業として暗殺業で生計を立てる貴族もいるという噂があり、デガート家に手出しをしない事は社交界では暗黙の了解となっていた。
リベリオが腰に下げた剣の柄に手をかける。男爵の顔がみるみる青くなり、震える膝を折って床に額を擦りつけた。
「も、も、申し訳ございません!その様な意思は全くございません!!どうか、どうかお許し下さい!!」
「謝る相手が違うだろう。自分のした事をその目でしっかりと見ろ。」
リベリオの冷たい声が静かに響く。目の前に剣先をひたと差し向け、スッと動かしてリリーナの方へと視線を向けさせた。ピラデル男爵は奥歯をカチカチと鳴らし、目を見開いてリリーナに頭を下げた。
「リリーナ、リリーナ!す、すまなかった!許してくれ…許してくれぇ…!」
「許して下さい、だろ?」
「許して下さいぃぃぃ!!お願いします、許して下さい!許して下さい!!」
ピラデル男爵を見下ろし、フンッと鼻を鳴らして剣を鞘に納める。すぐにナリアの元へと戻り、リリーナを抱きかかえた。すでにリリーナの意識は無かった。
*
リベリオの寝室で、ナリアはまたしてもベッドに引きずり込まれていた。先ほどまで冷淡な顔をしていた男とは思えないぐらい、緩んだ甘い顔でナリアを抱き締めている。腕枕をしてしっかり腰に手を回し、胸いっぱいにナリアの匂いを吸い込んだ。
大分無理をしたせいか身体が熱くなっていたが、リベリオはお構いなしにナリアの冷えた身体を堪能していた。
「あぁ、気持ち良い…。」
「もう、またこのような事をして。怒られても知りませんよ。」
ナリアの呆れた声が胸元から聞こえてくる。少し視線を下げればホカホカと温まっているナリアの火照った頬が膨れていた。
----か、可愛い…!
昂る気持ちを抑えきれず、思わず抱き締める腕に力を込めた。大きな尻尾を振り回しながらナリアの頭に頬を擦り付け、何度も額に口付けを落とした。
「リブ、苦しい!苦しいです!」
「悪い。大丈夫…」
背中をペチペチと叩くナリアの手にハッとして身体を離す。その瞬間、「プハッ」と息を吸い込みフゥフゥと必死で呼吸をするナリアの表情を見て、再び胸に抱き寄せ頬擦りした。
「あぁあぁ~!可愛い!ナリー可愛い!」
「ま、待って下さい本当に!本当に苦しいですから!」
「無理無理。絶対に無理。離れられない。」
「…離れないと今すぐ帰りますよ。」
ナリアの低い声と同時にリベリオの身体がスッと離れる。大きな尻尾をしゅんとへたらせ、ゴロンと仰向けになった。それでも手だけはしっかり握っている。ナリアはクスリと笑い、リベリオの方へ身体を向けたまま口を開いた。
「リブは最初からリリーナを助けるつもりだったのでしょう?」
「いや、正直どうしようかは決めていなかった。」
「なぜです?お母上様には先に了承を得ていたと仰っていたではありませんか。」
「まぁ…一応な。」
ピラデル男爵の元へ向かう馬車の中で、ナリアはリベリオからまだリリーナとの雇用契約が破棄されていない事を聞かされた。
リベリオは宿屋へ向かう前にカレイラの元へ駆けつけ、リリーナの身体の痣の事を話した。無体を働いたのは何か理由があるのかもしれないと説得し、リリーナを解雇する書類を作るのは待って欲しいとだけ伝えてあった。
「流石にこの屋敷に連れて帰る事までは許可されなかったし、お前の気持ちもあるからな。」
「私の気持ちですか?」
「もし俺がお前に何も言わずに先にリリーナを助けに行っていたら、お前また誤解するだろう?」
「そ、そんな事…!」
無いとは言い切れない。絶対に怒っていたに違いない。ナリアは口を噤み、視線を泳がせた。
「さっきも言ったが、俺はお前に怒られるぐらいならリリーナを見捨てるぐらいどうという事は無いんだ。俺はお前さえ側にいてくれるなら、他の誰がどんな目に遭おうと切り捨てられる。相手によっては気にはなるだろうし悔やむ事もあるかもしれないが、お前を失う事に比べたら取るに足らない事なんだよ。」
リベリオが顔だけをナリアに向けてじっと見つめた。熱が出ているせいか、澄んだ碧い瞳が一層潤んでいるように見える。少し顔を前に出せば互いの鼻が当たるほどの距離で熱い視線を向けられ、ナリアは高鳴る胸を押さえきれなかった。
----『愛する女に自分の全てを晒した男の執着心は凄いわよ。』
突然、ルマリナの言葉が蘇る。ハッとしたと同時に顔が赤くなるのを感じ、咄嗟に顔を背けた。
「それでは、もし私が何も言わなかったらどうするおつもりだったのですか?」
「いや、実はそれも考えていなかったんだ。」
「え?」
「ナリーなら絶対に『助けに行く』と言うと思っていた。」
リベリオがニコリと微笑む。全てを見透かされたような言葉に口を尖らせるナリアに、リベリオはククッと笑って追い打ちをかけた。
「しかし、本当に良かった。偶然俺の顔の横に虫がいたんだからな。折角だから採用させてもらったが、何度考えても本当に苦しい言い訳だよな。」
「しょ、しょうがないじゃないですか!咄嗟に思い浮かばなかったのですから!自分でも無理があるとは分かって…」
ナリアが言い終わるのを待たず、リベリオはナリアの唇を塞いだ。ナリアをベッドに招いてからすでに何度も昂った感情を抑えている。理性を繋ぎ止める糸の側では、口を開けた鋭利なハサミが口を閉じる瞬間を今か今かと待ち構えていた。
唇が触れたと同時に舌を沈める。柔らかい唇の感触を楽しむ余裕など無いかのような性急な舌の動きに、ナリアの呼吸が乱れた。ナリアの口から漏れる甘い息ごと喰らい尽くすように口の中全体を撫で回し、唇に零れた唾液を吸い取った。
ナリアの上に覆いかぶせた身体を無理矢理引き剥がし、リベリオは呼吸を荒くしたまま仰向けになった。目を閉じてナリアを視界から追い出す。次に見てしまったら、今度こそ止める自信は無かった。
「ん…はぁ…な、何ですかいきなり…。」
「いや…本当にもう結構きついんだよ。」
「きつい?何がですか?」
「何がって…それは…」
反射的にナリアに視線を向ける。瞳が合った瞬間、ハサミの口がパチンと閉じた。
「ナリー…。ナリー、ダメだ、俺もう…!」
リベリオが身体を起こし、勢いよくナリアに覆いかぶさったと同時に扉をノックする音が響き渡った。
「リベリオ、私だ。リスターだ。起きているのだろう?」
ゴッという鈍い音が鳴る。ナリアが光の速さで身体を起こした瞬間、ナリアの額とリベリオの顎がぶつかった。顎を押さえて悶絶するリベリオなど目に入らないかのように軽やかにベッドから降り、足元の桶を蹴り飛ばす。そのまま流れるように椅子に座り、ササッと髪の乱れとドレスの裾を直して何食わぬ顔で軽く額を擦った。
リスターが扉を開けて入ってくる。リスターは二人には目もくれず、最初に桶の位置を確認した。そして桶が開けた扉のすぐ横にある事を確認し、つかつかと悶絶中のリベリオの元へ歩み寄った。
「お前という奴は!昨日と全く変わってないじゃないか!なぜ同じことを連日繰り返すのだ馬鹿者!!」
「イダダダダ!ちょ、今は顔はやめて下さい!」
「黙れ!良い歳をして私にこんな事で怒らせるな!」
----ほら怒られた。
またしても頬をつねられているリベリオを横目にナリアが呆れていると、リスターの後から入ってきたカレイラがナリアの目の前で足を止めた。ナリアはサッと立ち上がり、カレイラに一礼してから口を開いた。
「お母上様。身の程を弁えず、勝手な事をしてしまい申し訳ございませんでした。」
「その事なのだけれど、ナリアさんはどうしてあの娘を助けようと思ったのかしら。立場も弁えず、貴女の夫になる男性に何をしたか分かっているでしょう?」
「はい。私も最初は許すつもりなどありませんでした。ですが、リベリオ様からあの子の身体の事を聞いて、放っておくわけにはいかないと思ったのです。」
「それだけ?それだけであの娘を助けに行ったの?」
カレイラが訝し気に聞き返す。ナリアは真っ直ぐにカレイラを見つめ返して頷いた。
「私が幼い頃から通っている孤児院の子供たちには親がおりません。理由は様々ですが、中には親から酷い暴力を受けた挙句に捨てられた子供たちも多くいました。」
ナリアが静かに話し始める。カレイラは息を呑み、ナリアの言葉に耳を傾けた。
「その子たちは皆身体中が酷い痣だらけで、保護された後もいつも小さな身体を震わせていました。人が怖くて、たとえ相手が自分より小さな子供でも近寄られる事を恐れていました。ずっと何かに怯えるように部屋の隅で小さく蹲っては、自分の身体の痣を見て泣き続けていたのです。」
リベリオが身体を起こす。ベッドの端に座り、ナリアの顔を見上げた。
「リリーナの事を聞いた時、このままではいけないと思いました。もし暴力を受けているのなら…その様な環境から抜け出せる可能性が少しでもあるのなら、彼女を連れ出したいと思ったのです。彼女はグラナード邸に向かう馬車の中で目を覚まし、リベリオ様への無体は父親から無理矢理させられた事だと嘆いておりました。何としても、どんな手を使ってでも取り入って来いと命令されていたそうです。」
カレイラがチラとリベリオに視線を送る。この美貌にはそれと引き換えに女難の相でもあるのかと、心の中で溜息を吐いた。
「ですがどのような事情があっても、犯した罪が消えるわけではありません。私が取った行動は、お母上様のご判断をないがしろにしたと捉えられても仕方が無いと思っております。」
「では、どうすると言うのですか?これも立派な不敬行為に当たりますよ。」
リベリオが立ち上がろうとするのを、リスターは素早く手で制した。
「はい。リリーナを助けたのは私の判断です。ですから本来彼女が受けるはずだった罪も、私がお引き受け致します。」
「であれば、私に不敬を働くような者を、息子と結ばせるわけにはいきませんね。」
「いいえ、それだけはお受けできません。」
----でた。どこまでもブレないな、コイツ。
ふと、リベリオは毅然と佇む母の姿を見上げた。記憶にある母の姿といえば、取って付けたような笑顔や遠慮がちな態度、それに機嫌を窺うような会話しかない。こんな風に冷たく言い放つ声など、聞いたことも無かった。
----兄上が言っていたのはこれか。本当に猫被ってたんだな…。
その時、「うん?」とリベリオは二人を見比べた。リスターと仲違いをした日、リスターを心配そうに見つめるカレイラの表情を見て、誰かが被ったことを思い出す。その『誰か』に思い至り、ハッとした。
----俯きがちなところも、いつも心配そうな顔をしているところも、見た目とは裏腹にハッキリものを言うところも…この二人、実は結構似てるんじゃないか?
リベリオは愕然として二人を交互に見比べた。ずっと苦手だったはずの母親と同じタイプの女を無意識に選んでいた自分が信じられない。が、一度気が付いてしまえば、二人の共通点がどんどんと思い浮かんでくる。そして、ハタと思い至った。
----もし二人が似ているとするならば、今の母上のナリーへの態度は…単なるヤキモチだ。
ふつふつと笑いが込み上げ、リベリオは大声で笑いだした。カレイラはピクリと片眉を上げて、リベリオに視線だけを向けた。
「ハハハハハ!母上、もうその辺にしてやって下さい。今回の事は私の判断でした事だと分かっておられるでしょうに。それ以上いじめてはナリーが可哀想ですよ。」
「え?え?」
「あら、いじめてなどいませんよ。ナリアさんも、いずれは貴方たちが住む屋敷内を取り締まっていかなくてはならないのです。使用人一人一人の事情を考慮する事は立派な事ですが、それではいずれナリアさんの心が疲弊してしまいます。時には厳しく取り締まり、常に緊張感を持たせることも主の大事な役目なのですよ。」
リベリオは立ち上がり、ナリアの傍に立ってカレイラと向き合った。ナリアの肩に手を乗せ、そっと自分の方へ引き寄せた。
「大丈夫ですよ。ナリーの侍女のサフィを見ていれば分かります。ナリーはこれまで通りにしていれば、自然と周りが付いてきてくれますよ。」
「大勢の者を取り締まるのは、そんなに甘いものでは無いわよ?」
「分かっております。それに私とて、ナリーでなければこうは言いませんよ。」
ナリアがキョロキョロとしながら二人の顔を交互に見る。それまで黙り込んでいたリスターが呆れた声で「終わったか?」と言ってリベリオに視線を向けた。
「リベリオ、身体の具合はどうだ?」
「えぇ、大分良くなりました。明日には仕事に戻ろうかと思います。」
「リブ、まだ熱が治まっていないでしょう?傷もまだ癒えてませんのに…。」
ナリアが咄嗟に口を挟む。が、すぐに無礼な事をしたと気が付き、リスターに向けて一礼した。リベリオはナリアの肩をポンポンと叩いて顔を上げさせ、微笑んだ。
「大丈夫だ。それに随分長い間不在にしていたからな。団長がおられた時は俺の分の仕事もして下さっていたが、今は団長も臥せっておられるから机の上が大変な事になっているかもしれん。」
「でも…」と心配そうに見上げるナリアの頭を撫で、リベリオはリスターに視線を戻した。
「父上、申し訳ありませんが、部下たちの訓練を引き続きお願いしてもよろしいでしょうか。」
「あぁ、構わない。まだその身体では無理だろう。治るまでは机仕事に専念していろ。」
「ありがとうございます。ルミオの事も気になりますので、しばらくは団長室で過ごす事になるかと思います。」
「分かった。まぁ、こちらの事は任せておけ。まだまだこれからだからな。」
リスターは腕を組んでフンッと鼻を鳴らした。無言のまま目を逸らして冷や汗を流すリベリオに、リスターは「それから」と続けた。
「ニスカの件だが、アレニスから聞いているだろう?実はその事で、近々国王陛下からお声がかかるかもしれんのだ。」
「は?誰にですか?」
「お前に決まっているだろう。他に誰がいるのだ。」
リベリオはポカンとしたままリスターの顔に釘付けになった。これまでの人生で、ここまで父親の顔を長時間見続けたのは初めてのような気がする。それぐらい、今言われた事を消化するのに時間がかかった。
「え、えぇ?国王陛下から直々にですか?いやいや、どうして私に?今回の件は、あのオッサ…いえ、グラナード侯爵様がご計画なさった事ですよね。」
「うむ。それはそうなのだが、どうやら奴は表には出ないつもりでいるらしいのだ。そもそもこれは、ニスカが第五騎士団に余計な真似をした事から始まったものなのだろう?部外者が軍事関係の事に口を出したとなれば、良からぬことを噂する者が出てくるからな。」
「確かにその通りですが、だからといってなぜ私に!私は無理矢理巻き込まれただけですよ!?しかも最初に気が付いたのはルミオじゃないですか!」
今回のような大事で、国王と謁見など冗談ではない。部下に押し付けてでも何とか逃げようとするリベリオをひたと見据え、リスターはガッチリと首根っこを押さえつけた。
「何を言っている。確かに奴隷売買をしている事に気付いたのはルミオ君だが、実際に現地に乗り込んだのはお前だろう。ルミオ君が関わっているという証拠は無いが、お前はハッキリ名前も顔も知られているからな。当然、呼ばれるのはお前になる。」
リベリオはあまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。ルミオの書斎でこの話を聞いた時、ルミオがニックスに言わなかったのはなぜだっただろうか。
----『これは私が個人的に調べている事ですから、わざわざ報告する義務は無いと思ったからです。』
----『周りに知られたら困るってことだな。』
もし団長であるニックスに話していたら、個人的な調査にはならない可能性がある。そうなれば、自分が関わっている事を隠す事はできない。その点リベリオなら、ルミゴンからの圧力で秘密裏に現地に送りこめるし、万が一誰かに気付かれてもそちらに白羽の矢を向ける事ができる。いわば、面倒ごとを押し付けるには、打ってつけの相手だということだった。
----ア、アイツらぁぁぁぁ!!
飄々として舌を出す男と斜めに見下ろす男の顔が脳裏を駆け巡る。
リベリオはまんまと嵌められた悔しさに顔を歪めて、ギリギリと奥歯を噛み鳴らした。




