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ボツ作  作者: Eクラス
第1章 新学期
11/13

1-8 少年の魔法。少女の信頼

 戦略的撤退。

 それが雨衣たちの初のボス戦で取った作戦だった。


 そして、そろそろ花山院がピンチである。


 花山院の支援魔法によるバフは、継続的に魔力を消費し続けなければならない。

 適正ある風属性の支援魔法のはずだが、Eクラスだからか継続させるのが辛い。彼女の疲労が限界に近付いてきた。

 今も後ろから追いかけてくるヘドロキメラなるもの。雨衣が魔法銃や例のバチバチ(本人曰く、魔法)でけん制するなどして均衡を保っているが、それがいつまで続くかわからない状況は精神的にもキツイ。


「先ほどよりかは心なしか小さくなった気がしますわ」


「……あともう少し」


「えぇ、あともう少しの辛抱です。それとここを進んだ先にも少し大きめのエリアがあるみたいです。そこでごっそりヘドロ剥ぎ落してやりましょう」


 今の所、順調と云えば順調にボス戦を攻略しているようにも思える。

 一心不乱に追いかけてくるヘドロキメラは召喚された時よりも随分と小さくなった。今は2、3メートルほどまで弱体化している。

 動きが徐々に鈍っている。

 エルが選定したルートの先にあるエリアまで行けば、もしかしたらそこで迎え撃って終わらせることもできるかもしれない。

 この中の誰かがリタイアすることもなく完勝できるのでは。


 そんな甘い考えが彼らにはあった。


「……あ、曲が変わった」


 次の瞬間……

 今も雨衣には聞こえるピアノの曲が変わった。

 雨衣は、足を止めた。

 それはヘドロキメラが足を止めたからでもある。


「もしかして……っ!?」


 ここに来てヘドロキメラは雨衣たちを追いかけることをやめた。

 活動限界。そんな希望的観測はしていない。

 奴は目の前にいる獲物にそっぽ向いて、周囲を見渡し、天井を向いて……すぐ近くにあった通路へ飛び込んで行った。


「ちっ、追いかけますよ……」


 最悪の事態だ。

 恐れていた事態だ。

 そうならないために雨衣という魔力垂れ流しの餌をチラつかせていたというのにだ。

 奴は方向転換して次の捕食しやすい獲物を探し求めた。


 ここから一番近い最短距離にある出口のルート突っ走る。


 マップで確認すれば黒点が寸分も迷わずこの迷路みたいな地下水道を走っていくのがわかる。そこは雨衣たちが転送されたスタート地点。

 そこから繋がる通路は高さ2メートル、横幅ヒト2人分と、今のヘドロキメラでも通れる大きさだ。

 もし、ヘドロキメラが地上へ這いあがったら人的被害は確実に出る。


「花山院雲母。もっとバフ強くできませんか」


「これ以上は限界……ですわ……」


 本当に精一杯のようだ。

 なら、何が何でも追いかけ追いついて地上へ出る前に仕留めるしかなかった。

 回り道できるルートはなさそうだ。

 こんなことなら、ボランティア活動に参加した魔法生を地上で待機させるように要請するべきだった。詰めが甘かった。

 今から応援要請をした所で、異世界へ転生するには時間が掛かり過ぎた。そんな都合のいい話しがあるはずもない。

 もしかしたら、他の魔法生が別クエストでシェルパの街に訪れている可能性だってある。この緊急事態の知らせを聞いて対応してくれるという可能性だってある。

 しかし、やはりご都合主義な展開を期待するのはナンセンスだ。


 マップで確認しても、やはり魔法生は見当たらない。


 ヘドロキメラが地上へ出れば、魔力の強い人間を求めて捕食するだろう。

 もしかしたら腹を空かせ過ぎて土手の近くにいる人間を片っ端から捕食なんて可能性もあり得る。あそにいた子供達を捕食する可能性だってありえるはずだ。

 最悪のケースだってある。

 しかしだ。

 自滅プログラミングによる灘のカウンター魔法は確実にヘドロキメラに効いている。

 出口ギリギリのラインで追いつける計算だ。


 一秒でも早く。

 もう一秒でも早く。


 その刹那……


「あ……」


 ついに限界がきた。

 バフの効果が切れた。

 突如として失速する。

 花山院は転んだ。不格好にもバランスを崩して派手に転倒した。

 これがEクラス。

 これが落ちこぼれクラスの限界……

 この事実が大いに彼女の自尊心を傷ついていく。


「も、もう………」


 縮まり始めていた距離がひらく。

 もう間に合わない。

 絶対にだ。

 確かにヘドロキメラのスピードは落ちた。

 バフが掛かっていなくても全力疾走すればいずれ追いつけるだろう。

 しかし、それは誰かが捕食されて犠牲になったあとのことだ。

 花山院は歯噛みして、悔しさのあまりに自分の拳を地面にたたきつけた。


 そんな、彼女の横をエルが通り越した。


「もう、なんですか? まだ、の間違えじゃねーんですか花山院雲母。ここは、わたくしのことは置いて先へ行ってくださいって言うべき所ですよ」


「鏑木エル……」


 エルはまだ諦めていなかった。

 往生際が悪いとはこのことだろうか。

 泥臭くて、それは花山院の信条になかったものだ。


「往生際が悪いのはワタシだけじゃありませんから」


 花山院の心を読んだかのように答えた。

 エルが顎で差す先には雨衣が全力で走っていた。躓いて無様に転んでも立ち上がり、ラスト、出口に繋がる一本道まで辿り着いて魔法銃を構えていた。

 その先には今にも出口から地上へ飛び出さんとする標的がいる。


 まさか、そこから魔弾を放つつもりだろうか。

 その一撃を持ってしてヘドロキメラを倒そうとしているのだろうか。

 普通なら無理だ。

 一発の魔弾で仕留めきれるはずがない。

 それもEクラスが。

 今までの戦闘から導き出された答えでは、そんな都合のいい話しがあるはずがなかった。


 しかし、だ。

 もし、まだ雨衣が何か切り札を隠していたとしたら?

 そんな都合の良い話があるとしたら??


(いいえ、そういうことではありませんわね。これは……)


 その考えを頭の中から消した。


「雨衣、ワタシはオマエを信じています。ちゃっちゃとキメてください」


「……うん、任せて」


 信頼。


 それは花山院にないもの。

 とても羨ましくても妬ましくて手に入られなかったもの。


 雨衣が魔法を今まで使わなかったのは環境が悪かったから。

 使いどころがなかったから。

 下手に被害を出したくなかったから。

 どういった魔法なのか花山院には想像することさえもできない。


 しかし、エルは雨衣の魔法を知っている。

 信頼しているからこそ、使いどころを見極めた雨衣に、最後を託したのだ。


「……エクス・マキナ」


 雨衣は魔法を使った。


<オーナー・コードが入力されました>


 無機質な女性の声が雨衣の脳内でナビゲートしていく。


<これより【改造】を開始しいたします>


<対象:KDH(Kaburagi Desgin Hyakka)>


 雨衣の魔法銃が改造されていく。


<アクセス:許可>


<ウイルススキャン:良好>


<既存コード:削除>


<新規コード:作成>


<殲滅対象:融合連鎖合体魔獣ヘドロキメラ>


<ランク:+D >


<ウィークポイント:クリスタル・コア>


<設定火力:オーナー意向の元、下の下の下>


<アップロード:コアのみ一点集中型戦略級レーザー砲の魔法式>


<射程距離:15m>


<エフェクト効果:漆黒の閃光>


<カラーリング変更:メタルブラック>


<……可決>


<構築:完了>


<安全性:検証>


<被害予想:12万7895通り>


<魔法式:修正>


<安全性:検証>


<被害予想:人的被害なし>


<街の被害予想:12%>


<最終調整>


<街の被害予想:3%未満>


<承認>


<最終安全装置:ロック解除>


<3>


<2>


<1>


<発射・・・・・>


 雨衣はトリガーを引いた。

 黒い稲妻の如く漆黒のレーザー砲が迸り、ヘドロキメラの心臓部分であるクリスタル・コアを捉え貫いた。



 ◇



 この異世界にも夕暮れは訪れる。

 少女は健闘した少年たちを置いて、1人トドメを差しに地下水道を出た。


 ―――――まだ……この身体は動く。


 男は、コアを打ち砕かれて、殆ど残っていない力で、その身体を引きずり地下水路を這い出てきた。


 ―――――私には……まだやるべき使命が……残されている。


 男は、とある人物との約束があり、何があろうと果たさなければならなかった。


 ―――――私は、まだ……ここで……終わるわけにはいかない。あの方が愛したこの国を……この街をより暮らしを良くして復興しなくては………せめてそれぐらいはしなければ……………


 男は、この街を今よりももっと暮らしを豊かにして、かつての賑わいを取り戻し、誰もが笑ってに過ごせる日々を送れるよう、これからも伯爵の名に相応しい働きをするまでだった。

 ただそれだけの想いに動かされていた。たとえ怪物の成りそこないにされたとしても魂が突き動かすのだ。


 しかし、


「いえ、オマエの役目は終わりましたよ……」


 少女が男の行く手を塞いだ。

 燃え上がるような黄金の髪を持つ少女。夕日に愁いを乗せて染まるその表情には陰が差す。とても冷めた目で男を見下ろしていた。


 ―――――まだだ………まだ、あの方との約束を果たされていない……貴様に何が……百華に何がわかる。


「えぇ、わかりますとも。この街の人達を見ていればわかります。今まで、よくやってくれました。街の人たちが笑顔があるのはオマエのおかげです。感謝します」


 ―――――違う……まだ…………私には………………せめてこの街だけでも、もっと………あぁ、私たちの罪は拭えない…………だから、まだ誰かに裁かれるわけには………………r様を見殺しにした我々を………………………


「もう………別にどっちでもいいですよ。そんなこと」


 だから、少女は大剣を持ち上げた。

 死者を安らかな眠りへつくように。それが精一杯できる少女の最後の役目として、大剣を今度は男に突き立てた………


 ―――――あぁ、そうか…………その大剣は…………………あぁ、申し訳ございません………ララ王女様…………貴女様を裏切ってしまった………………………我々を、どうかお許しください。


「さようなら。安らかに眠れ、ミンチィ伯爵………」


 今度こそ男は完全沈黙する。

 どこかで教会の金の音が鳴った。

ちなみに、

ボス戦で散らばったヘドロは後日、また雨衣たちは自ら志願して(決してエルたそに屈したわけじゃない)放課後、ボランティア活動を再開するのであった。

今度は雨衣が仲良くなったルームメイトやクラスメイトの男子や女子を巻き込んだ、ヘドロスライム爆散濡れ濡れ事件が勃発する愉快痛快なエピソードなんかはまた別の話・・・

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