空からの切り札
レオナルドさんによってドラゴンに幻術がかけられ、撹乱している隙に俺たちはその場から離脱することに成功した。
黒幕を逮捕することはできなかったが校長を救出することはできたし、当初の目的は達成することができたといえるだろう。
目的は達成できたとはいえ、まだ問題が三つ残っている。
まず一つ、エリックさんのことだ。
ドラゴンの吐く炎の高熱で熱中症を発症し、体力を著しく消耗してしまっている。
氷を口に含ませて簡易的な冷却と水分補給をさせたとはいえ、まだ十分に回復したとは言い難い。
今は兜と鎧を脱がせて休息させているがいつ復活するかわからない。
もう一つはいずれまたあの怪物を相手にしなければならないということだ。
オズ、グレイさん、アレン、そしてエリックさんですら勝ちきれなかった恐るべき相手を残った俺たちがどう相手にすればいいのかさっぱりわからない。
奴をどうにかしない限り、事件の完全な解決には程遠い。
そして最後の問題は……
「いくらなんでも全員ここに集まることはねえだろうよ」
俺、ミラ、レオナルドさん、ユキノちゃん、エリックさん、そしてアルと校長が全員俺の家に集合してしまっていることだ。
元々我が家はそこまで大きくない、その上に全員同じフロアに集合しているものだからとにかく狭い。
それに二階ではオズが療養しているし、アリスもいる。
あまり騒がしくされると困るのだ。
「悪い。ギルドの中以外で安全そうなところって考えたらここしか思いつかなくてよ」
アルが頭を掻きながら事情を釈明した。
確かに俺の家はギルドから少し外れているから身を隠すにはちょうどいい立地だ。
「事情はどうあれ、同じ場所に集まれたのは都合がいい。一度情報を整理しようじゃないか」
レオナルドさんが椅子に腰を下ろし、俺たちに提案してきた。
確かにここでずっとごたごたしていても仕方がない。
レオナルドさんを中心に俺たちはテーブルに集まった。
「校長先生はどうして狙われてたの?」
「何か思い当たることは?」
ミラとレオナルドさんが校長に話を切り出した。
校長は一呼吸置き、言葉を繰り出す。
「もともと私と教頭先生はね、生徒の教育に対する考え方が違ったんだよ。私は少しでも素養がある生徒ならば誰でも等しく教育の機会を与えるべきだと思っているし、教頭先生は高い素養のある生徒をより優秀にするべきだって考えてる」
なるほど、方向性の対立か。
どちらも考え方として間違っているとは言えないが絶対に相容れないな。
「校長先生は人の心が読めるのに今まで教頭先生のことに気づかなかったんですか?」
ここでユキノちゃんがさりげない疑問を投げかけた。
確かに、人の考えていることがわかるなら事前に察知できたはずだ。
「実は事前に察知はしていたんだ。だがどうにも相談することができなくてね」
「どうしてですか?」
「君ならわかるはずだよ」
校長はユキノちゃんに対して遠まわしな答えを返した。
つまり誰にも信じてもらえなかったわけか。
「教頭先生はね、独立して新たに学校を設立しようとしていたみたいでね。そうなると我が校が邪魔になるから校長である私を消して自分が新しい校長になろうと画策したんだ」
随分と身勝手な理由だな。
実力はあるのに器が小さすぎる。
「なんだか聞きなれない声がすると思えば、随分と大人数で集まってるじゃないの」
俺たちの会話を遮るように階段の方から一日ぶりの声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、オズが杖をつきながらゆっくりと階段を降りてきていた。
もうそこまで復活したのか、それともまた無茶をしているのか。
「お姉ちゃん!?」
「おいおい無理すんじゃねえよ」
「ここでアタシが頑張らなきゃ誰がアイツを止めるっていうのよ」
俺とミラの制止を振り切り、オズは一階まで降りた。
「それにね。アイツはぶっ潰さないと気が済まないから」
オズの目が復讐の炎に燃えている。
一方的に焼かれたのがよほど気にくわなかったのだろう。
肉体を焼かれて心に火がつくとはまたなんとも……
オズの執念深さはある意味ではその能力以上に強力な武器だ。
きっと今だって限界寸前の身体をその執念で突き動かしているぐらいだろう。
そしてこうなった彼女は俺たちでも止めることはできない。
「アリスは?」
「アタシとレオナルドの使い魔に面倒見させてるわ。意外とちゃんとやってくれてるみたい」
大魔法使い二人の使い魔が赤ちゃんの世話係ねぇ……
まあ、それが使い魔本来の役割か。
「それはそれとして、ドラゴンと戦うならこっちも相応の戦力が欲しいわよね」
そういうとオズは召喚魔法を発動し、誰かを呼び寄せた。
「うおっ!?なんだなんだ!?」
オズに引っ張り出され、魔法陣から現れたその姿に俺は衝撃を受けた。
うなじ辺りまで伸びた茶色の髪、それを押しのけて伸びた二本の曲がった角、青い鱗に覆われ、鋭い爪の伸びた手先と足先、背中から生えた一対の大きな翼、そして腰から伸びた長い尻尾。
間違いない。
「「メリル!?」」
俺とミラは声を大にしてその名を叫んだ。
冬に出会い、短い時を共に過ごしたドラゴンの獣人の少女、メリルだ。
「タカノ!?ミラ!?それにクラリスも!?」
メリルもかなり困惑しているようだ。
そりゃわけもわからずいきなり連れて来られればそうなるよな。
「久しぶり!」
「我が友よ!また会えてうれしいぞ!」
ミラとメリルは熱い抱擁を交わした。
メリルが地上にいた頃、一番一緒にいたのがミラだ。
二人は地上と空との垣根を超えた親友関係を築き上げている。
「これは……」
「ドラゴンの獣人さん、初めて見た……」
校長とユキノちゃんはメリルの姿を見て呆然としている。
まさか俺たち三人がドラゴンの獣人と顔見知りの関係だとは知らなかっただろう。
「いきなりでごめんね。メリル、アタシたちの話を聞いてくれる?」
ほんのわずかばかりの断りと共にオズが早急に話を切り出した。
メリルはオズの方を向き直し、話を聞きいれる。
「事情はわかった。私にその影のドラゴンとやらと戦ってほしいわけだな?」
「ごめんね。いきなりこんなお願いしちゃって」
「よい。むしろこちらも争いから久しく遠ざかっていて退屈していたところだ」
流石は蛮族同然に育っただけのことはあるな。
『久しく遠ざかって』ってことは空の上の復興は争うことなく順調に進んでいるようだ。
なんだか安心した。
「それに、同胞の形を盗んでの凶行など我が種族の誇りが許さぬ」
メリルがドスの利いた声ではっきりとそう言った。
どうやら俺たちとは違う理由で怒りを買ったようだ。
「だがその前に少しだけ時間を貰ってもよいか、すぐに戻る」
そういうと俺たちの答えを待たずにメリルは空の上へと飛び去って行ってしまった。
相変わらずすさまじい飛行スピードだ、もう姿が見えない。
「小休止だ。何か簡単なものでも作るぞ」
メリルが戻るまでの少しの間、俺たちはつかの間の休息を取ることにした。
俺は台所に立ち、料理を作ることにした。
ただ殺伐としているだけじゃ疲れるだけだ。
まさかあんな形でメリルとの再会を果たすとは思わなかった。
彼女は地上の人間をはるかに凌駕する力を持ったドラゴンの獣人だ、味方になってこれ以上頼もしい存在はそうそうない。
レオナルドさんの幻術、まだ効いてくれているといいんだが……




